止マレ

 信号が変わらない。まるで信号が赤であるのがデフォルトであるかのように。赤が私を囲んでいた。赤が囲んでいる。赤が囲んでいる?どういうことだ。疑問が脳を埋め尽くしていく。「なあ。天良。これは、いったい。何がどうして。どうなって。」とぎれとぎれになりながらも答えを求めて問いかける。ただ、むなしくも問いは帰ってくることはなかった。もっと早く気付くべきだった。なんで違和感を覚えなかったのだろうか。信号を見渡した時点で。ここにいるのは。理由に心当たりは全くないが。私一人のようだ。

「一度思考を整理しよう。」そう一人つぶやく。無音に耐え切れず。夢だ。悪い夢だ。夢以外の何物でもないはずだ。「おーーーい。」と大きな声で呼ぶ。誰をというわけでは無く、だれかを求めた。安心感を求めた。いつも一人、孤独には慣れているはずだがぬぐえない焦燥感のような何かにかられ呼び続けた。

 15分はたっただろうか。何も起こらなかった。信号を渡り、大学に向かおう。ふとそう思った。夢ならアクションを起こした後何かしら起こるはずだ。現実だとしてもここに止まっていても仕方がない。赤信号を無視して向こうへ渡ろう。白黒白黒。交互に連なる線に目をやり、くらくらした。おどろおどろしさを感じながらも一歩前へ右足を踏み出さなかった。踏み出せかった。正しく言うと踏み出そうとした瞬間、右からライトが急に飛び出したからである。さらに詳しく言うとトラックが急に飛び出してきた。思わず驚き後ろへのけぞり倒れた。目の前に目をやるとトラックもライトもなにもなかった。

『あぁ。やめた方がいいよ。君のためを思って言うがやめた方がいい。』どこからか渋い声が聞こえた。久しぶりに人の声に触れ安堵が私を包み込む。「誰ですか。助けてください。どこにいるんですか。何が起こっているんですか。」思わず気持ちが決壊し、言葉が矢継早に出てくる。『そんなに一気に聞かないでくれ。聖徳のおっさんじゃないんだから。5W1Hか。いや、そこまでは聞いてないか。そんなことは重要な問題じゃないか。そうだね。その信号を渡るべきではない。特に赤信号はね。』ずいぶん緊迫感のない話し方だ。あたりを見渡しても誰もいない。「いったいどこにいるんだー」大きな声で呼びかける。すると意外な質問をされたかのように素っ頓狂な声で『ここにいるじゃないか。何を言っているんだ。見えないだけで、ここに実在する。見えないものは存在しないとでも言いたいのかい。んんー。まあ、われ思うゆえにわれありと考えれば周囲のもの全て虚像のようなものと考えられなくもないかもしれないけど。』奴の言葉を遮るように「そんなことはどうでもいいんだよ。どうすればここから出れる?」『出るか。出るというのはとらえ方の違いというか勘違いなだけかもしれないね。火事と虹を作者が誤解するように。まあ、君が出たいというのなら”出る”という表現が正しいのかな。』

少し間を開けて奴は話し始めた。

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