8.

会議室D前に大きな人だかりが出来ている。

「貴様何やってんだあ!!!」

凄まじい怒号がフロア中に響き渡る。

一瞬で全身から血の気が引いていく、、、、、、

細胞レベルでヤツの声に反応してしまう、、、、、、、

すると、会議室Dから上半身をスーツのジャケットで隠した望月さんが女子社員に連れられて出てきた。すぐにそちらに意識がいき、それによって何とか血流の循環を保つことができた。望月さんを見ていると、ジャケットで隠れてはいるものの、ジャケット下は裸であることが分かった。また下半身はスカートを履いているが、その下は生脚になっていた。入る前はストッキングを履いていたはずなのに、、、、、、

嫌な想像が脳内で広がっていく。

「分かったかぁ!?!?!?」

再び凄まじい怒号がフロア中に響き渡る。

またしても全身から血の気が引いていく、、、、、、

視界も狭まり始めている、、、、、

しかし懸命に視線を望月さんに向け続けることで今回も何とか血流の循環、そして視界を保つことができた。女子社員に連れられて会議室Aに入っていく望月さん。気がつくと、俺は駆け足で会議室Aに向かっていた。中で望月さんが泣きながら椅子に座るのが見えた。力になりたい。そう思いながら歩みを進めていると、会議室Aの入り口付近に立っていた女子社員が俺の方を見るなり強張った表情でドアを閉めてしまった。そのままドアを開けるのも憚られ、俺はドアの前で立ち止まった。会議室内から微かに望月さんの泣き声が聞こえてくる。もうどうしようも出来ない。地獄の想像が現実になってしまった。言い表しようのない悔しさが込み上げてくる。俺は思いっきり歯を食いしばりながら会議室Dの方を見た。ちょうどゲンナリした表情の柏田が出てきた。どういうわけか、全身から力が抜けた様子で、足元がおぼつかない。そんな状態で俺の方に歩いてきている。俺は物凄い力で拳を握り、忌々しいクソ上司に向かって行った。クソ上司は俺に気付いてすらいないようだ。

「おい柏田ぁ!」

弱々しく俺を見上げる柏田。

俺は腹の底から湧き上がって来た憎しみを全て拳に乗せ、思いっきり柏田の顔面を抉り取った。もの凄い勢いで後ろにあるデスクに投げ飛ばされる柏田。俺はすかさず柏田の胸ぐらを掴み、何度も何度も顔面を抉り取った。顔面が跡形もなくなる程の痛み、屈辱を味わわせたい。

「やめて!」

振り上げた拳が止まった。

柏田の顔は真っ赤に腫れ上がり、瞼は半開き、鼻は凹んでいる上に大量に血が出ている。

「やめろって言ってんだよキモカエル!」

聞き覚えのある声だ。後ろを振り向くと、会議室Aの入り口から女子社員に体を支えられた望月さんがこちらを睨みつけている。全身の力が抜けていく。冗談だろ。なんでレイプされた相手を庇うんだよ。真っ赤な目で睨みつけてくる望月さん。俺の目にも涙が溢れてくる。こんなしっかりと目を合わせたのはこれが初めてだろうか。怒りが込み上げてくる。これまでの思いを全て吐き出してやる。

「荒田君!」

全身から血の気が引いていく、、、、、

ヤツの足音が近づいてくる。

「荒田君」

声がすぐ横から聞こえる。柏田の胸ぐらを掴んでいる手の上にヤツの生温かい手が重ねられる。

「もうやめよう。君は被害者なんだ。君は何も悪くない。悪いのは全てこのゴミ屑野郎だ。な?これ以上君が手を汚す必要ないじゃないか」

再び昨日の感覚が全身に蘇り、視界も一気に狭まっていった。その中で無意識に柏田の胸ぐらを離していた。ヤツの生温かい手が今度は肩に乗せられる。

「ほら、怖いんだろ?慣れてないことはするもんじゃない。君は加害者じゃないんだ」

耳元で囁かれ、目を閉じた瞬間に涙がこぼれ落ちた。

「ほら、彼を会議室に連れて行きなさい。彼は被害者だ。私が後で対応する。また後でな」

ようやく肩からヤツの手が離れ、会議室Aへと足音が遠のいていった。

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