4.
荒田三好。
彼との接点は特にない。入社時に歓迎会で少し話した程度だ。仕事も目立った成果は特になく、寧ろうちの係長の柏田からしょっちゅう怒鳴りつけられている声ばかりが聞こえてくる。正直気の毒になるくらいの怒鳴りつけられようだ。業務の都合上、直接面談して様子を聞くことも難しく、かと言って柏田に直接様子を聞いても本当のことは何一つ出てきそうにない。別にまだ度を超す程のことにはなっていないようなので、このまま見過ごそうと思えば全然できる。しかし、やはり部長としてそういう訳にもいかない。とは言ってもこれまでアクションを起こせてこなかった訳だが、今日遂にチャンスが到来したのだ。どうやら柏田と荒田の間で何かが起こったらしい。それが起こった後に現場に行ったため、具体的に何が起こったかは分からない。着いた時には荒田がデスクに突っ伏しており、その前に柏田が立っていた。何も確証がもてなかったため、その場は引き下がったが、なんと荒田がもう2時間ほどデスクに突っ伏したままだ。確実に何かがおかしいのだ。そして何よりも驚きなのが周りの社員が全くそれを気にしていないことだ。隣の望月さんは出来のいい新入社員だと思っていたが、彼女ですら完全無視である。柏田に限らず、荒田への扱いは想像以上に酷いものがありそうだ。最近の人事部の人員増加に伴い、人事部の席は三つの大きな島に分かれている。私と荒田の間には島が1つあり、それなりに距離がある。意識しなきゃ存在すら忘れてしまう程だ。朝の騒動以来、今日は全集中力を使って荒田周辺を監視している。
もうさすがに我慢の限界だ。これ以上彼を放置してはおけない。社内システムで小会議室をおさえ、荒田の席に向かった。
「荒田、大丈夫か?」
着くなり荒田に声をかけてみたがやはり無反応だ。
「荒田、荒田」
優しく揺すってみる。しかしこれに対しても無反応。
これはもう担いで行くしかなさそうだ。
荒田の腕を肩にかけ、思いっきり持ち上げると、
「部長、手伝います」
望月さんだ。なんてふてぶてしい女なんだ。さっきまで完全無視だったじゃないか。
「いや、大丈夫。君はそのまま仕事を続けてくれ。彼のケアは私がする」
「あ、承知しました、すみません、、、」
申し訳なさそうなフリをする望月さん。コイツはかなり危ないぞ。この先かなり厄介な存在になるかもしれない。そう思いながらも、今は荒田に集中しないといけない、望月京香を頭の中から追い払い、私は会議室へと向かった。
やっと会議室についた。
ドアを閉め、灯りをつけた。4人掛けの机と椅子4つしかない本当に小さな会議室だ。横並びになっている椅子2つに荒田をゆっくりと下ろした。仰向けのまま依然として荒田に意識はない。
「荒田」
改めて声をかけてみる。
「寝てんのか~」
少し肩を揺すってみる。
「・・・・・」
引き続き無反応。
ドアに耳を当て、外の音を聞いてみる。絶妙にガヤガヤしている。会議室内の声が外に漏れることはなさそうだ。一応椅子をドアの取っ手の下にはめ込んでおく。念には念をだ。さてと。始めようか。まずは傷の確認からだ。ここまで気絶しているとなると相当強い衝撃が加えられたに違いない。頭部から確認しないと。私は優しく荒田の頭に触れながら外傷の確認を始めた。脳天、後頭部、側頭部、あ、米かみ周辺が赤くなっている。柏田のクソが、そろそろ締めるぞクソ野郎。米かみに強い衝撃が与えられたなら気絶しても仕方がない。今の状態の原因はこれであろう。
しかし待てよ。このままでいいのか。あの柏田のことだ。他にも何かしている可能性がある。念のために他の部位も確認するべきだ。念には念をだ。
ということで、私は確認作業を続けた。おでこ、鼻、目、頬、口、あ~、口、口口口。いやらしい口だ。入社当日に初めて彼を見たその瞬間、胸をガッシリ掴まれたのを今でも覚えている。その時から私は彼に夢中なのだ。特に彼のこの唇には何度もムラつかされてきた。あまりにムラついてしまうため、普段は意識的に彼を見ないようにしているほどだ。ようやくここまで来れた。ようやく彼の身体を独り占めできる。私はずっと待っていたぞ、この瞬間を。三好君。可愛いおでこに優しく手を置き、唇に舌をつけた。ゆーっくーりとそのいやらしい唇をなぞっていった。美味しい。もうおちんちんがはち切れそうだ。我慢できず、思いっきり彼の口を開き、彼の舌をペロペロし始めた。うん、そう、この濡れ具合と絶妙な柔らかさ、舐めた時に出るいやらしい音、全てが超一級品だ。ああああ、思わず手が彼の股間の方へと伸びていく。手をどんどん彼の股間へと這わせていくと、
「っ」
すぐに手を止め、彼の目に視線を向けた。目が開いているではないか。だが力はない。弱い目力で目玉があちこち泳いでいる。ここは一度ガツンと言ってやろう。私は彼の口を思いっきり塞いで言った。
「悪いようにはしない。君の身体をくれ。そうすれば柏田とのことだって手助けしてやる」
彼が無力に私を見上げている。
「いいな。くれるな?君の身体?」
目に涙を浮かべながら見上げる彼。可愛い奴め。照れてるのか。もうこれで合意済みだ。思う存分いただくぞ。
私は口から手を離し、彼の舌を存分に舐め回しながら思いっきり彼の股間を掴んだ。
「パパ~、ご飯できたって~」
夕食前、いつも娘が呼びに来てくれる。月並みだが、成長が早く、もう小学3年生だ。
「はーい、今行くね~」
手を洗い終え、私はリビングへと向かった。
リビングに着くと、妻が配膳を終え待っていてくれた。今夜のメニューはクリームシチューだ。席に着き、3人でいただきますをして食事を開始した。
「うん、やっぱりママのシチューは最高だね」
優しい笑顔で妻を見た。
「うん!」」
シチューを口に含み、娘も笑顔で同意した。
笑顔の妻。
理想的な家族の食卓だ。
まあ表向きは、というより娘の目に見えるものは全てそうなるようにしている。全て意識的にそう見えるようにしているのだ。私の妻は娘が幼稚園に入ってから若い男との不倫を繰り返しており、夫婦間の関係はとっくの昔に破綻している。そしてそれによるとてつもないストレスで私は若い男に目覚めてしまった。そう、夫婦ともに若い男をとっかえひっかえし、完全に溺れているのだ。当然このあり様を娘に見せられる訳がなく、社会一般に対してもそうである。私は自分の心が完全に空っぽであることを知っている。そしてそれを若い男とのセックスを通してほんの僅かな時間埋めようとしてるのも分かっている。それでも私はやめられないのだ。心を埋めてくれるはずの妻が若い男と楽しんでいる横で真面目に生きようなんてとてもじゃないけど思えない。心の穴を埋める正当な方法を探そうとも思えない。全ては妻のせいなんだ。アイツが若い男になど溺れなければ。私との結婚生活に満足さえしてくれていれば何もなく本当に理想の家庭を築けたかもしれないのに。アイツが全てをぶち壊したんだ。そんな好き放題やっている妻の横で真面目に生きるつもりなどさらさらない。アイツと同じように生き、全てをぶち壊してやる。これが妻に対する私の復讐なのだ。
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