第35話(閑話)白猫の初恋③

「何よ。あんたのその赤い目。血の色じゃん。気持ち悪ー! うげー」


「あなた髪も肌も白過ぎよ。とてもダサいわ」


 はぁ。困ったアル。


 ケイに言われて、この二人を引き離したアルガ、憂鬱アルヨ。


「ちょっと、あんた聞いてるのー!?」


「黙り込んでいますわね。あら、現実逃避かしら?」


 はぁ。ケイが言おうとしていた、この旅の後の事が気になるアルヨ。


 はぁ。気になり過ぎて、会話が頭に入ってこないアル。私を置いてどっか行ってしまったら、どうするアルカ? ギルドのメガネの娘とか可愛いかったアル。ケイと手を握って楽しそうに話していたアルヨ。


 この目の前の緑の髪の娘はとても可愛い顔をしているアル。きっと、ケイもこう言う顔が好きアルヨ。それに、水色の髪の娘はとても胸が大きいアル。きっと、ケイもこう言う体を求めているアルネ。


「ギャハハハ、現実逃避って、闘う前から私たちに怖気を付いたのー」


「フフフ。まぁ、可哀想に。あんなのと一緒に居たばかりに殺されるなんて」


 目の前の二人は何かとても楽しそうに笑っているアル。それでもケイの今後が気になりすぎて、会話が入って来ないアルヨ。父、母、ごめんなさいアル。娘は五百年経っても人の話を聞けないのだけは治らなかったアルヨ。楽しそうな二人もごめんアル。


「あんたも、あのクズと一緒で魔力がないんでしょ。魔力ない者同士で、とてもお似合いだわ!」


「い、今なんて言ったアルカ?」


「ひいっ! きゅ、急に何よ! あんたなんか、ケイとお似合いって言ったのよ」


 緑の髪も私とケイがお似合いって言ってくれているアル。なんて、いい娘アルカ。そんな事言ってくれたのは、ギルドのメガネとンデラ、アコネに続いて四人目アルネ。人間は嫌いアルガ、そう言ってくれる人は別アル。


 それに白目のとこが、真っ赤でちょっと親近感アルネ。周りの湯気も『獣戯』っぽくて似てるアル。


「ふん。どうせ惨めに、魔力ない者同士、お互いに傷を舐め合っているんですわ」


「そ、それは誤解アルううううう!」


 ドゴオオオオオオオン


「ち、違うアル。誤解アルヨ! 本当アル。お互いに心配蘇生で口付けをし合っただけアルヨ。な、舐めるなんて、ハシタナイ事まだしていないアル!」


 あ。やってしまったアル。思わず、渾身の『気砲きほう』をぶっ飛ばしてしまったアルネ。父、母、ごめんなさいアル。娘は五百年経っても、そそっかしいのだけは治らなかったアルヨ。可愛い二人もごめんアル。


 はぁ。まあ、ケイにこの二人を倒すように言われたから、仕方なかったアル。ただ、これも全部ケイのせいアルヨ! いつも思わせぶりな態度をするからアル。ああ、でもケイのせいにする私は、なんて嫌な女アルカ。


「好きアル」

 プチッ

「好きじゃないアル」

 プチッ

「好きアル」

 プチッ

「好きじゃないアル」

 プチッ

 ……


 や、やってしまったアル。


 二人の髪の毛を全て毟り取ってしまったアルヨ。そして、なぜか知らない間に顔がお婆さんみたいになっているアル! わ、私のせいアルカ? 父、母、ごめんなさいアル。娘は五百年経っても、周りが見えなくなるのだけは治らなかったアルヨ。シワシワの二人もごめんアル。


 か、考えるアル。アネマラ・ヘナプラスター。私はきっとやればできる子アルヨ。


 ……無理アル。ケイに頼るアルネ。


「僕のせいで、変な厄介ごとに巻き込んでしまった。その結果どうあれ、僕の責任だ。迷惑をかけてごめん」


 ケイは優しいアル。私は好きでケイに付いて行ってるアルヨ。ドジな私のしでかしたことまで責任を取ろうとしてるアル。でも、それに甘える私は、なんて駄目な女アルカ。


 その後、ドラゴンに乗った甲冑のおっさんが飛んできたアル。たぶんとても偉い人アルヨ。ケイと親しげに話しているアル。なんだか、ケイがとても遠い存在に見えるアルヨ。


「ケイは一体何者アルカ?」


 偉い人が去った後、私は尋ねたアル。気になって仕方ないアルヨ。ケイは謙遜するアルガ、本当にすごい人アル。どうせ、国に重宝されるアルヨ。どうせ、お姫様みたいな人と結婚するアル。どうせ、その人と楽しく幸せな家庭を築くアルヨ。


 せめてペットとして置いて欲しいアル。餌ぐらいは自分で獲るアルヨ。極上の肉球とモフモフを提供するアルネ。だから偶には、偶にでいいアル。ケイをペロ……だ、駄目アル。ケイをな、舐めたいなんて、私はなんてハシタナイ女アルカ。


 はぁ。せめて、近くに居させて欲しいアルヨ。ケイのそばが私の居場所アル。勝手に私が決めただけアルガ。はぁ。情けなくて涙が出て来るアルネ。


「アネマラ。エンバル達に邪魔されてしまったけど、旅が終わった後、僕がどうしたいかについて聞いて欲しい」


 つ、ついに来たアル。聞きたいような、聞きたくないようなアルネ。このまま追い出されたらどうするアルカ? また一人で生きて行くアルカ? 困ったアル。


 これまでの思い出が蘇るアルネ。父と母が亡くなって以来、私は笑うことも、怒ることも、悲しむことも、泣くこともなかったアル。猫として気ままに時間だけが過ぎて行ったアルヨ。


 私はこんなに笑うなんて知らなかったアル。こんなに怒るなんて知らなかったアル。こんなに悲しむなんて知らなかったアル。そして、こんなに涙が出るなんて知らなかったアルヨ。


 全部、あの日ケイに出会ってからアル。白黒の世界が、色鮮やかな世界に変わったアルヨ。きっと過去の私はあの日、本当に死んだアルネ。そして、ケイに会って新しい私に生まれ変わったアルヨ。


「僕はアネマラに出会ったあの日、死ぬはずだった。真っ暗な絶望の淵に立たされていた。そんな僕の前に突然現れた君は、とても明るく輝いて見えた。そして、僕に新しい世界を与えてくれた」


 ……一緒アル


「僕はアネマラみたいに感情が豊かじゃない。よく笑う君は僕を楽しませてくれた。僕のために怒ってくれたこともある。涙もいっぱい見た。僕はもう君に悲しい涙を流させたくない」


 違うアル。全部ケイのおかげアルヨ。


「僕はアネマラのことを愛している。僕はこの旅が終わった後も君と一緒の時を過ごしたい」


 泣いているアルカ? ケイは私と違ってあまり涙を流さないアル。


「ケイはズルいアルネ。全部私のセリフアル。私もケイに出会って生まれ変わったアル。私もケイの事を愛しているアル」


 悲しくないのに私まで涙が出て来るアル。


「ありがとう。アネマラ」


「それも私のセリフアル。いつもケイが先に、ありがとうって言うから私が言えないアルネ。いつもありがとうアル」


「うん。これからもずっとよろしくね」


 ケイは私にいつもの微笑みを浮かべてくれるアルヨ。ケイは笑うのが得意じゃないアルネ。それでも、私はケイのぎこちないけど、優しい笑顔が大好きアル。


「わかってるアルカ? 私たち仙人アル。ずっとの意味は重いアルヨ」


「わかっているさ。それでも僕はずっと君を愛し続けることを約束する」


 ケイは真面目過ぎるぐらい真面目アル。そんなケイが約束してくれたアルヨ。


「アネマラ。目を瞑って」


「はいアル」


 私とケイが口付けをするのは、これで三度目アルネ。一度目はケイが猫の私を助けた時アル。二度目は私がケイを助けた時アルネ。三度目は全く別の意味アルヨ。


 この口付けは、約束アル。


「ケイ。この涙は悲しい涙じゃないアル。だから、安心するアルヨ」


 私もいつの間にか、涙がいっぱい溢れていたアルヨ。全部ケイのせいアル。


「わかっている」


 ケイも一緒に涙を流しているアル。ケイは泣くのも得意じゃないアルヨ。そんな、ケイが私なんかのために泣いてくれているアル。


「ケイ、薬瓶を出すアルヨ。私の涙を欲しいって言っていたアル。この涙を貰って欲しいアルネ。いつもの悲しい涙じゃないアル。嬉しい涙アルヨ」


「ありがとう。大切に使わせて貰うよ」


 私は幸せアル。

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