第33話 傲慢たる暴挙③

「君たち二人は僕が相手にするよ」


 僕はエンバルとガイアンを相手にする。二人とも白目が真っ赤に染まり、血管がしっかりと浮き出ている。エンバルからは赤色、ガイアンからは茶色の蒸気が体から出ている。


「雑魚が! 俺様たちに敵うとおもっているのか!」


「エンバルの言う通りだ。俺はお前を殺す」


 二人ともかなりの殺気だ。何故かわからないが、本気で僕を殺したいのだろう。


気砲きほう


 ドオオオオオン!


「何だ? そんな物は効かない」


 僕は渾身の気砲をガイアンの腹に目掛けて行った。巨岩すら破壊するものだが、今の彼らには効かないようだ。


「メテオストーンシャワアアアアア!」


 ガイアンの必殺技だ。土や岩の塊を上空から落とす技。以前の彼なら拳程度の大きさ土塊の攻撃だった。それでも、充分に強いのだが、今は人と同じぐらいの大きさの塊の雨を降らせてくる。


 ドドドッドドドドドッド、ドオオオオオオン


 僕は二、三発ほど、腕や足に被弾する。骨が折れたようだ。


「トドメだ! ファイヤーエンブレムスラアアアアアアッシュ!」


 まだ、打てるのか! 六時間に一発が限度のはずだが、もうリミッターはないのだろう。しかも、剣に纏う炎がいつもと違い青い炎だ! 熱量も以前と比べものにならない。ここまで伝わってくる。こんなのはまともに喰らえば死んでしまう。


形転けいてん


 僕はミズチの姿になり、攻撃を喰らう。かなり熱いが耐えられる。僕のこの姿はアネマラ曰く、『獣戯じゅうぎ』に匹敵するらしい。ダフネとの戦いでは、いつも自分のに飲まれて自滅していた。


 しかし、百回殺された。いや、全部自滅だが、それによって僕は完全にこの姿をコントロールできるようになった。ダフネの特訓のおかげだ。今の僕は円卓の魔導士ラウンデルズの二人すら圧倒する力を手に入れている。


「はん。魔獣に喰われて、お前自身が魔獣になっちまったか。哀れだな」


「魔獣なら、話が早い。一切の躊躇なく殺せる」


「メテオストーンシャワアアアアア!」


滂沱弾舞ぼうだだんぶ


 僕は周りに雨雲を作り、無数の毒水でガイアンの作った土塊を全て破壊する。


「ファイヤーエンブレムスラアアアアアアッシュ!」


天瀑布門てんばくふもん


 シュウウウウウウウウウウウ


 僕は雨雲から滝を生じさせ、エンバルの剣戟を相殺する。しかし、凄いな。あの水量を一瞬で蒸発させたぞ。さすが、エンバルだ。


 だが、勝負はここまでだ。戦いが長引けば、彼らの身体の負担も計り知れない。


曇雲呑毒どんうんどんどく


 僕は彼らの周りに真っ黒な雲を発生させる。この雲は強力な麻痺性の毒の粉を混ぜてある。これで彼らの動きを封じさせて貰う!


「おい、化け物め! 何をしやがった!?」


「魔獣風情が俺たちを倒せると思っているのか!」


 彼らの周りの黒い雲が濃さを増す。これでエンバルの火魔法も封じた!


「死ねええええええ! ファイヤ、」


(え!? ちょ、ちょっと待って!)


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 か、彼らの周りで大爆発が起きた。もちろん、そういう技ではない。エンバルの魔法の火で粉塵爆発が起き、自爆したのだ。火魔導士であれば、その周りの雲がガスであれ、粉塵であれ、誘爆する可能性を考えるはず。


 透明なガスであれば仕方ないが、僕の技は視界を覆う程の黒煙だった。エンバル達も馬鹿ではない。きっと何か理由があったのだろう。まさか、粉塵爆発を知らずに火を放ったのか? いや、そこまで頭が悪いとは思えない。では、なぜだ? 本当に不思議でならない。


 シュアアアアアアアアアアアア


「な、なんてことだ」


 倒れた二人は息をしている。気絶をしているだけだ。良かった。あれが可燃性ガスだったら原型を留めていなかったであろう。ただ、顔が一気に老けた。まるで老人だ。体の火傷や髪の毛がチリチリになったのは、爆発のせいだろう。しかし、この老いは僕のせいではない。


 きっと『アナボル』と、言っていた薬の副作用だろう。ここまで老いてしまっては、もう手遅れだ。体の傷は治せるが、老化を巻き戻す事はできない。


「け、ケイ。ごめんアル。私やってしまったアルヨ」


 アネマラが慌てた様子で僕の方に走って来た。顔はかなり青ざめている。この様子は、もしや二人を殺してしまったか?


「アネマラ、落ち着いて! まずは救命措置を模索しよう。もしかしたら生き返るかもしれない」


「ち、違うアル。私殺してないアルヨ。ぶっ飛ばしたら何故かお婆さんになってしまったアル」


 そっちもか? やっぱりエンバル達の老いも、爆発によるものではないようだ。


「アネマラ。落ち着いて。こっちも見て」


「か、髪の毛が綿みたいになっているアル!? ど、どうしたアルカ? 綿の妖精になったアルカ?」


 アネマラは動揺しているのだろう。頭に目が奪われたらしい。


「アネマラ。そっちは、おそらく僕のせいだ。それよりも顔を見て」


「お、お爺さんになっているアル!? な、何でアルカ?」


「おそらく、薬のせいだろう。アネマラのせいじゃないよ」


「わ、私のせいじゃなかったアルカ? ケイに怒られるかもしれないと思ったアルヨ。良かったアル」


 アネマラはほっと胸を撫で下ろしている。


「僕のせいで、変な厄介ごとに巻き込んでしまった。その結果どうあれ、僕の責任だ。迷惑をかけてごめん」


「いいアル。今までもそうだったアルヨ。私が好きで巻き込まれているアル」


 アネマラは笑顔で僕に言う。僕はアネマラに迷惑をかけっぱなしだ。感謝しても、し切れない。


「アネマラ。ありがとう。セレスティアとミリアーナも一緒に治療するから、案内してくれ」


 僕は気絶しているエンバルとガイアンに、応急用の薬を与えて担ぎ上げる。


「そ、それはよしたほうがいいアル。私が薬だけ与えるアルヨ……」


 アネマラは僕から目線を逸らしながら言う。きっと、やましいことがあるに違いない。


「状態を見ないと薬を選べないよ。二人が魔獣に襲われる前に案内をして」


 僕はアネマラに目線を合わせようとしながら話かけるが、アネマラは僕の目線をことごとく避けるようにしている。


「わ、わかったアル。怒らないで欲しいアルヨ」


「だから、この戦いは僕の責任だ。決して怒らないよ」


 アネマラは観念したように、トボトボと歩き僕を彼女らの元に案内する。


「な、なんでだ!?」


 セレスティアとミリアーナの元に辿り着いた。僕の目の前の彼女らには、本来彼女らにあるはずの物がなかった。


「あ、アネマラさん。事情を説明してくれ」


 僕はアネマラを問い詰める。アネマラは相変わらず僕と目線を合わそうとしない。


「き、気が動転してたアル」


 アネマラはしどろもどろに答え、目が泳ぎまくっている。 


「なんでそうなるんだ」


 僕は頭を抱えて言う。僕の責任と言ったが、これはもはやどうしようもない。


「ごめんなさいアル」


 アネマラはついに観念したように、僕と目を合わせて謝った。


 僕は愕然とした。セレスティアとミリアーナの服はボロボロで体も爆発のような痕がある。これはアネマラとの戦闘によるものだろう。かなり激しい戦いだったに違いない。


 そして、顔はエンバルやガイアン同様に老けてしまった。こちらの方がまだ化粧をしているのでマシだが、それでもシワが増えたのは隠せない。これはおそらく『アナボル』の副作用だろう。


「はぁ。なんで髪の毛が全部抜けているんだ……」


 気絶している二人は髪の毛が一切ない坊主頭になっていた。その横には毟り取られた髪の毛が散乱している。


 僕は自分の想像の遥か斜め上を行くアネマラの行動に呆れてしまった。まあ、急に相手が老けたら気が動転するのもわからなくはない。想定外とは言え、あり得ない事はないか。ぼ、僕の責任だ……


「とりあえず、アネマラは彼女達の髪の毛を集めておいてくれ。後で、僕がカツラを作っておくよ」

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