第32話 傲慢たる暴挙②

「嘘だ! 僕は君たちの実力を知っている。ンデラさんや、ダフネが君たちに負けるはずがない!」


 僕はエンバルが円卓の魔導士ラウンデルズを殺したことに関して、疑問を投げかける。当然だ。あの二人の魔導士としての強さは別格だ!


「ああ。あの変態にチビ女のことか。確かに、新参のくせに、なかなか強かったな。変態は最後までチビ女を庇っていたが、最後は両方とも、まとめて殺してやった。もちろん、イシスとゼファーもな」


 そんな。ンデラさんなら、確かにダフネを庇うだろう。まさか、本当に……それに会った事はないけど、イシス様とゼファー様はそれぞれ水と風の序列一位のベテラン魔導士だ。なぜ、彼らにそんな実力が……


「本当なのか?」


「だから、何度も言っているだろ! リコリス女王の目の前で四人ともぶっ殺してやったんだよ! だから、実質、俺様たちが円卓の魔導士ラウンデルズだ。お前を殺したら、次は『ダークライト』をぶっ潰してやる。エプリルは今回遠征で円卓会議ラウンドテーブルに来てなかったからな」


 リコリス女王の目の前で? この人たちは本当に救えない。


「リコリス女王は無事なのか?」


「ああ。流石に女王も一緒に殺すわけにはいかないからな。まあ、ことが済んだら俺様たちに逆らえる者は居なくなる。俺様が王になって、国を治めてやるよ」


 なんて太々しい。ただ、リコリス女王が無事だったのは朗報だ。それなら、ンデラさんやダフネもきっと。


「最後に聞かせてくれ。どうして、僕を殺したいんだ?」


「そんなの決まってるだろ! お前は俺様たちに迷惑をかけた。死んでもなお、俺様たちに不快にさせた。絶対にお前は許さない!」


 周りの三人も、エンバルのその言葉に頷いている。なんでだ? 僕が何をした? 僕はあの日、コーロー山で追放されてから、この人たちと一切関わっていない。


「僕はあの日以来、君たちに何もしていないが、どうしてそんなに恨まれるだ?」


「馬鹿には、そんなこともわからないのか! 俺様たちの格を落とした! 俺様たちを虚仮にしやがって。その罪は万死に値する」


 周りの三人も当然のように頷いている。何でだ? 理由を聞いてもさっぱりわからない。チームの回復サポート役がいなくなったからか? いや。あの時はアリエルという優秀な光魔導士がいたはずだ。どの程度の実力かは知らないが、序列も高くきっと優秀な人だったに違いない。


 では、雑用がいなくなったからか? 僕は体調管理、食事、荷物運びに、マッピングなど様々な雑用を行っていた。ただ、僕がいなくなったら、それらがなくなるのは目に見えている。それについては僕も訴えたし、承知のはずだ。


 エンバル達も馬鹿ではない。きっと何か対策を練っていたのだろう。まさか、後先を考えずに僕を追い出したのか? いや、そこまで頭が悪いとは思えない。では、なぜだ? 本当に思い当たる節がない。


 まあ、今は後回しだ! 明らかに、彼らは僕を敵視している。それに彼らのこの実力はどこから……


 ま、まさか! エンバルたちの見た目。むくみが酷く、皮膚が荒れ、血管も浮き出ている。会った時に老けて見えた違和感は、そのためだったのか。


「エンバル。君たちは使ってはならないものを使ったね」


「はあ? 使ってはいけないものではない。俺様はお前みたいな田舎薬師の薬よりも、安全で効果的なポーションを使っただけだ」


 やっぱり、この人たちはやっている。いわゆる魔力ドーピングというやつだ。しかも、この見た目、相当やっているな。最早、後戻りはできないぞ。


「君たちは何をやっているのか、理解しているのか? 一生、副作用と向き合わなければならない体になる」


「ははは、その辺は大丈夫だ。お前なんかより、よっぼど優れた薬師様のお墨付きだからな。じゃあ、行くぞ」


「ファイヤーエンブレムスラアアアアアアッシュ」


飛昇ひしょう


 ドゴオオオオオオオオオオン!


 僕は飛昇で回避する。かなりの威力だが、その魔法はもう六時間は使えないはずだ。


「アネマラ! ここは僕に任せて欲しい! これは僕の戦いだ」


「は、はいアル。わかったアルヨ」


 これは僕への因縁だ。無関係なアネマラを危険に晒すわけにはいかない。


「ギャハハハ、噂通り、飛ぶのねー。空中は私のものよ。サイクロンヒールドロオオオオオップ!」


 ドゴオオオオオオオオオオン!


 地面が相当えぐれてしまった。今まで、こんなに力がなかったはずだが、やっぱり全員が魔力ドーピングを。


「ウオーターキャノンボオオオオオル!」


「メテオストーンシャワアアアアア!」


 ガイアンとミリアーナもそれぞれ、必殺技を繰り出してくる。なるほど、この威力は相当だ。以前の二人とはまるで別人の魔法。


 宝貝ばおべい仙花鞭せんかべん


龍螺撃りゅうらげき


 ビュン、ビュン、ビュン、ビュン、ビュン


 バ、バ、バ、バ、バ、バアアアアアアアアン


 ドゴオオオオオオオオオオン!


 なんとか、魔法は全て捌いたが、森の中だ。鞭では攻撃にまで手が回せない。


「ファイヤーエンブレムスラアアアアアアッシュ」


 ドゴオオオオオオオオオオン!


 僕は間一髪で攻撃をかわす。あのファイヤーエンブレムスラッシュは、フレイムハート家に伝わる必殺技。炎剣『フレイマー』に炎の魔法を溜め込み、巨大な炎を剣先に宿してから放つ一撃必殺技。あまりにも魔力の消費が激しいため、かなりのインターバルが必要な技のはずだった。


癒結ゆけつ


「ああ? 飛ぶだけじゃ無く、回復もできるのか? お前いつの間に化け物になったんだ?」


「君たちはやり過ぎだよ。本当に。破滅の道を行っている。今すぐ治療に専念するんだ!」


 僕は警告する。この人たちは副作用の恐ろしさを理解していないらしい。


「うるさい! 上から目線で。お前は所詮、田舎薬師に過ぎん。お前はあの方の足元にも及ばないんだよ!」


「サイクロンヒールドロオオオオオップ!」


「ウオーターキャノンボオオオオオル!」

「メテオストーンシャワアアアアア!」


「ファイヤーエンブレムスラアアアアアアッシュ!」


 彼らの怒涛の必殺技の連続だ。僕は紙一重で全てを避け切る。


「本当に強くなったと思うが、僕はもっと強くなった。君たちの攻撃は効かないよ。拘束して、僕が無理やり治療を始めさせて貰う」


「小癪なああああああ!」


縛麻撃ばくまげき


 ビュン、ビュン、ビュン、ビュン、ビュン


 バァン! バァン! バァン! バァン!


 僕はアコンの花の毒で麻痺性の神経毒を付与した。森の中では鞭は扱い辛い。何とかそれぞれ一撃ずつ当てられたが。まあ、動けなくするには充分だろう。


「ああ? 何だ。痺れるのか! 煩わしい! お前ら『アナボル』の追加投与だ」


 充分な量を付与したはずだ。だが、動けてしまっている。それに『アナボル』とは何だ? 新種の魔力ドーピング剤か?


「はーい」

「承知した」

「行きますわ」


 彼らはカバンから小瓶を取り出して一気に飲み始めた。エンバルだけじゃなく、皆んなあのアコンの毒の量で動けるのか!?


「「「「うおおおおおおおお」」」」


 彼らから蒸気のようなものが出始めた。あれは魔力が溢れているのか? 通常魔力が見える事はないが、濃度が濃いのだろう。それならば、かなり危険だ! 僕たちも危険だが、彼ら自身が体の負担に耐えられるはずがない。


「アネマラ、ごめん。やっぱり、君の力も借りたい。僕は男の二人を相手にする。女性の二人を任せても大丈夫?」


「も、もちろんアルヨ」


 アネマラは僕に笑顔で答えてくれた。ちょっとボーッとしていたように見えたが、疲労が溜まっているのか?


「今の彼らは『獣戯じゅうぎ』に匹敵する力があるように思う。油断しないで! それと僕から離れて欲しい。僕の毒をアネマラに浴びせたら大変だ」


「わ、わかったアル。私はあっちで、あの二人をやるアルヨ」


「アネマラ。ありがとう。恩に着るよ」

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