第30話(閑話)傲慢の代償④
「パーティーからは抜けさせて貰うです」
コーロー山でワイバーンのクエストを華麗に、こなしてから三ヶ月が過ぎた。王国の外れにある、ひとけのない道中。アリエルが唐突に俺様の『マグナスフレイム』から脱退宣言をする。
「「「「は?」」」」
俺様はエンバル・フレイムハート。火の魔導士の序列四位だ! 俺様達はアリエルのあり得ない発言に驚愕する。いや、聞き間違いに決まっている。俺様の『マグナスフレイム』に所属することは、この上ない誉のはずだ。
「は? お前もう一回言ってみろ」
俺様は優しい。アリエルの愚かな言い間違いに訂正する余地を与えてやる。
「失礼しましたです。こんな最低パーティーからは抜けさせて貰うです」
虚しいな。こいつは頭が足りない奴だったようだ。
「お前何を言っているのかわかっているのか?」
俺様は親切だ。アリエルの拙い理解力への自覚を促している。
「わかっているです。皆さんがクソ雑魚すぎて私が可哀そうです」
嘆かわしいな。こいつは頭が悪い奴だったようだ。
「はぁ? あんた何言っているわけ!? 私たちのどこが雑魚だって言うのよ!」
セレスティアが聞き返す。当然だ。俺様たちが雑魚なわけがない。
「それ本当に言っているですか? 私が加入した時は
く、悔しいがそれは確かに一理ある。くそ! なんてことだ。
「それは何かの手違いだ。俺たちがSランクなんて格下なわけがない」
ガイアンがランクの正確性に疑問を投げかける。当然だ。俺様たちが雑魚なわけがない。
「現実を見るです。エンバルさん以外、ゴールドランクに落ちているです。それにエンバルさんも序列を落としてるです。『
く、悔しいがそれは確かに事実だ。くそ! なんてことだ。
「あなた、人の事ばかり棚に上げていますけど、あたなも前任の田舎薬師に劣る雑魚ヒーラーではないかしら」
ミリアーナが論破する。全く、この雑魚ヒーラーはどの口が言っているのか。
「私はこの前、序列が上がって光魔導士の三位です。リコリス女王様からも、私のヒーリング魔法は王国の宝と言われたです」
こ、こいついつの間に!? 俺様よりも序列が上になっただと? そんなことがあってたまるか?
「お前、俺様たちのパーティーから抜けたらどうなるかわかっているのか? 俺様は公爵家の嫡男だぞ。今に泣きをみる」
俺様は俺様の華麗な出自をちらつかせてやる。
「私はすでに『ダークライト』のエプリルさんから、抜けるならいつでもどうぞと言われたです」
何!? ダークライトと言えば王国最強の
「それに先輩たちは人として終わっているです」
「な、なんだと!? 崇高な俺様たちのどこが終わっていると言うのだ!」
俺様は言いがかりに対して激昂する!
「セレスティアさんは自分に甘く、人に厳しいだけです。自分を棚に上げすぎです」
「な、なんなのよー! 雑魚ヒーラーの癖に! サイクロンヒールドロップ!」
「ホーリーバリアです」
セレスティアの必殺技はバリアに弾かれた。セレスティアはそのまま弾かれて地面に、突っ伏して泣き出した。
「ガイアンさんは腹黒すぎです。人によって態度を変える小心者です」
「お、前みたいなやつの屁理屈なんか屁でもない。メテオストーンシャワー!」
「ホーリーバリアです」
ガイアンの必殺技はバリアに防がれた。ガイアンはばたりと倒れて四つん這いの体勢で泣き出した。
「ミリアーナさんは、見た目に囚われすぎです。言動がイチイチださいです」
「だ、ダサいあなたの戯言なんてダサいだけですわ。ウオーターキャノンボール!」
「ホーリーバリアです」
ミリアーナの必殺技はバリアに受け流された。ミリアーナは膝から崩れ落ちて、
「お前! 俺様たちのパーティーになんてことを! 口を慎め!」
「エンバルさんはプライドだけは山よりでかい小物です」
ブチッ。こいつ! 俺様に向かって小物とほざいたのか? 次期国王となる予定の俺様を虚仮にする奴は、絶対許すわけにはいかない!
「もう許さねえ! アリエル! 貴様は俺様のパーティーから追放してやる!」
温厚な俺様でもさすがに、今回のアリエルは許せるわけがない。
「追放ですか? 抜けさせて貰うです。ありがとです」
「アリエルうううううう! 貴様は俺様に向かって有り得ない事を言いやがったああああああ! 死ね! ファイヤーエンブレムスラアアアアアッシュ」
俺様は渾身の必殺技を放つ!
「ホーリーバリアです」
キイイイイイイイイイイン
「な、なんだと!?」
俺様の一撃必殺技。一回使えば六時間のインターバルが必要だが、その分、数々の強敵を屠って来た技のはずだ。なのに、たかだか、八割程度しか魔力を回復できない雑魚ヒーラーのバリアにいなされてしまった。
「だから言ったです。先輩たちの技は私程度のバリアでも歯が立たないです。ばいばいです」
アリエルは満面の笑顔で大きく手を振って去って行った。それとは対照的に、俺様たちのメンバーは惨めに泣き続けているではないか。
くそ。なんでだ? なんでなんだ!? アリエルの言ったことは、有り得ないことだが全て正論だ。俺様たちは、弱体化した。いつから弱体化し始めたかはわかりきっている。全てはあいつが居なくなってからだった。
要するに、全てケイのせいだ。
そうに決まっている! くそ。全くなんてことだ。居なくなっても俺様たちに迷惑をかける飛んだ輩だ! 化けて出てきたら、もう一度殺してやる。今度は俺様の手で直々にだ。跡形も無く、燃やし尽くしてやる。
「やっぱり三ヶ月前の行方不明だった魔力ナシの二人の決闘が一番凄かったよな! 白い女の子なんて、魔力がないのにグラドックさんと競り合っていたし。むしろ、ギルド長が止めに入らなければグラドックさんも負けていたかもしれないよな」
「あーあれは凄かった。今でも思い出すと興奮するよ! あの魔力ナシの薬師も相当ヤバいな。俺、逆立ちしたって、あいつに敵いそうにないわ」
俺様たちが泣いている後ろで、冒険者らしき奴らが会話しながら歩いている。何!
? 今、こいつら「行方不明の魔力ナシ」だって? 「魔力ナシの薬師」だって?
「おい! お前ら。俺様に今の話を聞かせろ!」
「あ、あんたはパルヴスフレイムの!」
「マグナスフレイムだ! お前早く死にたいらしいな」
「ひ、ひいいいいい」
俺様がやつらから聞き出したことは、
俺様は絶対に
「あ。君たち噂の『マグナスフレイム』だね」
「あ? なんだ貴様は?」
俺様の前にヘクサエレメンタ教の黒装束を着た胡散臭い男が現れる。ガイアンほどの身長の無精髭の中年だ。
「初めましてだね。僕はレオパルド・パブリカス。ヘクサエレメンタ教の神父をしている。あまり表に出ないけど、こう見えても闇魔導士の序列二位だよ。僕と手を組まないかい?」
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