第25話 変態と白猫

「アネマラ話がある」


 僕が毎日ダフネに殺されるようになって一ヶ月が過ぎた。新しい「形転けいてん」の方はというと順調に意識を保つ時間が伸びている。


 今はンデラさんがダフネに挑んでいる時間だ。僕はアネマラと二人きりでンデラさんの魔法のホテルの中で休んでいる。


「な、何アルカ?」


 アネマラはいつになく神妙な面持ちで僕の話を聞いてくれている。


「僕ようやく気持ちに気付いたんだ」


「……も、もしかしてアル」


 この口ぶりアネマラは僕の言わんとしていることを、すでに気付いているようだ。


「やっぱり僕は好きだと思うんだ」


「は、はいアル」


 アネマラの声が上ずっている。やはり、アネマラは全て理解している。



「ンデラさんって、ダフネのことが好きだと思う」


「アイヤあああああアル!」


 こ、これは瞑想の初日にされた中段付き。な、なんでだ?


癒結ゆけつ


 死に慣れれしまった僕でさえ、アネマラの拳は相当痛い。当時の僕は、よく死ななかった物だと我ながら感心する。


「ダフネの条件ってさ。自分より強いを探していることから、つがい……いや、恋人を探しているんだと思うんだ。だから、興味がなさそうな円卓の魔導士ラウンデルズになってまで、王国で強い人を探したんだと思う」


「なんて、節操がない小鳥アル」


 アネマラはダフネの行動には気付いてなかったようだ。


「アネマラは気付いていると思うけど、ンデラさんはダフネのことが好きだ。僕は一ヶ月殺されてみて、死の恐怖と痛みを実感した。尋常じゃない。五年間も続けて来たンデラさんの執念は、そうじゃないと説明が付かないよ」


「あの小鳥、ケイにそんなことを」


 アネマラの周りにドス黒いオーラが漂う。


「あ、アネマラ落ちついて。僕が望んでやっていることだから」


 僕は慌ててアネマラを制止する。最近のアネマラはダフネと仲良くやっているが、以前の怖いアネマラに戻って欲しくない。


「それに、ンデラさんが未だにあの格好を貫いているのも、早くダフネを倒したいからだと思うんだ」


「ほ、ほんとアルカ?」


「憶測だけどね。きっとそうだ。ダフネを倒せる算段が付いた今。あの恰好を貫く理由が他に思い当たらないよ」


 さすがのアネマラもここまでは気付いてなかったようだ。だが、ンデラさんも元から変態なわけじゃないと思う。ダフネを倒せるぐらい強くなるまで、あの姿でいるに違いない! これはきっと恋なんだ。


「僕は自滅ばかりしているけど、近い内に新しい『形転けいてん』を修得して、ダフネを倒せる。その前に、ンデラさんに勝って貰って恋を成就して欲しいと思うんだ」


「そ、それは大変アル!!」


「アネマラからも是非、ンデラさんの修行に協力して欲しい」


「わかったアル! ンデラを強くするアルヨ!」


 アネマラはいつになくやる気を見せてくれている。これは頼もしい。この四人の中で一番強いのは、間違いなくアネマラだ。


 以前までのアネマラなら、ンデラさんに修行は絶対無理だった。しかし、最近のアネマラは人間関係を彼女なりに頑張っているようだ。僕もアネマラの素直さを見習わなければいけない。


「前アネマラが言っていたけど、ンデラさんの力は仙人に近いんだよね? 闇雲にダフネと戦うより、仙人の修行をしたら、もっとパワーアップすると思うんだ」


「私に任せるアルヨ!」


 アネマラは自身満々に言う。アネマラは既に立派な指導者の風格を漂わせている!



「ンデラ違うアル! そこはもっとスーってしてヌーあるよ」


 アネマラは不機嫌そうに指導をする。


「な、何を言っているんだべ? スー、ヌーってなんだべか?」


「スーとして、ヌーアルヨ。またはウーってするアル。なんでンデラはわからないアルカ? ケイはすぐに理解したアルヨ」


「す、すいません。アネマラ君。わ、わからないだべ」


 し、しまった! アネマラの伝え方は難易度が高い。僕がフォローしないと!


「ンデラさん、今のを噛み砕くと、瞑想の中で、呼吸を強く意識してみて下さい。空気中のエネルギーと、食事で補った栄養を肺で混ぜるイメージです。集中する中でそのイメージを大切にして下さい」


「さすがケイはわかっているアルネ。私の言いたいことをそのまま言い換えてくれたアル」


 さっきまで不機嫌だったアネマラはご満悦そうにしている。


「そ、そんなに複雑な内容だったべか!? ケイくんはこの指導でここまで強く……て、天才だべ」


「ンデラよくわかっているアルネ。ケイは天才アルヨ」


 アネマラはンデラさんの指導に気合いが入っている。初めはあんなに毛嫌いしていたンデラさんに対してここまで情熱を持って教えてくれるとは。アネマラは成長しているんだなとシミジミ思う。


「次はハーってして、ヌーある」


「また、ヌーだべ!?」


「今のは言い換えると、息を吐くと同時に、先ほど練った気を肺の中でグルグル回転させるイメージをして下さい。息を吐く時はゆっくり丁寧に体の不純物を排出するイメージも忘れないでってことです」


「その通りアル」


「その通りだべか!? 二人は何で通じるだべ!?」


 こうして、アネマラの修行のおかげで、ンデラさんは飛躍的に強くなった。『地仙』という存在は、仙人ほどではないが自然界のエネルギーの一部を扱えるらしい。ただ、ほぼ裸で過ごさなけらばならないという、重たい枷を背負う。


 そして、『地仙』は僕たちとは違い、自然界のエネルギーを属性魔法に合わせることができるようだ。魔法生成のホテルの内装が日に日に豪華になって行くことで、ンデラさんの修行が順調であることを実感した。


「ま、負けたのだ。悔しいのだ」


 僕がダフネを倒す一週間前。ンデラさんは一足先にダフネを倒すことに成功した。


「ンデラ! よくやったアル! でかしたアルヨ。褒めて遣わすアル!」


 アネマラもンデラさん以上に喜んでいる。ああ、どうやら僕はンデラさんに嫉妬しているようだ。弟子の成長を自身のことのように喜べるアネマラは本当に可愛い。

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