第26話 氷地獄①
ドゴオオオオオオン
大きな
「ダーリン、これでぬくぬくなのだ」
「マイハニーありがとうだべ」
ダフネは火の魔法で僕たち……いやンデラさんを温めようとしてくれている。ダフネはンデラさんに倒されて以来、
もし僕や御高齢のイグナティウス様が先に倒していたらどうなっていのだろうか? 考えるだけ無粋か。二人が無事くっついて良かったと思う。
「ダフネ、ここで安易に火の魔法は危険だよ」
「また氷柱落ちるアルヨ」
アネマラは呆れたような顔をして言う。
「マイハニーがすまないだべ」
「ダーリン! 氷柱ごと蒸発させればいいのだ」
「そんなことしたら僕たちごと蒸発しちゃうよ」
「そもそもンデラを見てるだけで寒いアル。バカップルはあっち行くアルヨ」
まさかとは思ったがンデラさんはここでも赤褌スタイルを貫いている。アネマラの言う通り、見ているだけで凍えそうだ。ンデラさんの目標が達成された今、もはや赤褌に拘る必要なないはずだ。
だが、以前と同じ格好のままだ。な、何故なんだ? 本当にンデラさんは変態とでも言うのか? いや、きっと、そんなことないはずだ……
「とりあえず、コートの中にこれを吹きかけよう」
僕はレッドカプスの樹液の希釈液を吹きかける。最強の香辛料と知られるが、希釈すると体を温める作用がある。
「ケイはさすがアル。氷柱を落とすバカップルとは違うアルネ」
「アネマラは一言余計なのだ」
なんだかんだ僕たちは仲良くやっている。一番の功労者はアネマラだろう。不器用ながらも、感情に素直であり、あの一件以来わだかまりもなくなった。
そのおかげで、僕たちはたわいも無い会話が出来ている。そうしながら僕たちは洞窟の奥の方へ歩みを進める。
洞窟内では先程のように松明を使用できないため、発光する低級魔獣である虫「スノウライト」を虫籠に入れて照明にしている。また、洞窟はかなり広いため、迷わないように地面の氷を掘って、千切った「ムーンマッシュ」を埋める。ムーンマッシュとはスノウライトの光を浴びると発光するキノコだ。
「すいません。冒険者の方ですよね。主人とはぐれてしまって、御一緒させて貰えませんか?」
僕たちが歩いていると、突如後ろから女性の声がした。
「な、なんなのだ?」
女性は赤いロングコートにフードを被っている。顔につけた白い狐の仮面が不気味さを醸し出している。アネマラは初対面の人間で僕の後ろに隠れてしまった。
「あの、その仮面は?」
「これは昔、顔を火傷してしいまして、恥ずかしいからこうして隠しています。すいません。怖いですよね? これでも可愛らしいのにしてみたつもりなんですけど」
「いえ、すいません。変な詮索をしてしまって」
冒険者に怪我や傷は付き物だ。顔の火傷を隠すのも特に珍しいことでもない。
「一緒に行くのだ」
「それで構わないだべ」
「ありがとうございます。私はアコネと申します。宜しくお願いします。」
僕たちはアコネさんに順番に自己紹介をした。
「ギルド長もいらっしゃったんですか? 失礼しました。私しばらくギルドに行ってないので、初めましてですよね? あと、その格好は寒くないのですか?」
「オラは半年前に就任したばっかりだ。まだ会ったことがないだべ。よろしく。あと、この格好は寧ろ温かいだべ」
「そんな訳ないアル」
アネマラは僕の後ろからボソッとツッコミを入れる。
「そうですか? ギルド長が言うなら私も履いてみようかしら?」
「いや、やめた方がいいですよ。ンデラさんが特別なので」
「まあ、そうですよね。そんな気がしました」
アコネさんは天然なのか、冗談なのか。どちらにしてもノリが良くて楽しそうな人だ。
「ご主人とはどこではぐれたんですか?」
「この洞窟の奥深くです。ヨルムンガンドが突然現れて、必死に戦っていたらはぐれちゃいました」
「ヨルムンガンドが現れただべか?」
ンデラさんは驚きの声を上げた。
「ンデラさん知っているんですか?」
「ヨルムンガンドは体長が十キロメートルを超える巨大な蛇の魔獣だべ。それにも関わらず、目撃報告が極めて少ない。会ったら最後、ほぼ逃げられないとされる超特級の魔獣。通常なら目撃報告があった時点で、しばらく立ち入り禁止になるだべ」
そんな危険な魔獣……でも、立ち入り禁止になればしばらく、探索もできない。
「僕は行きたい。危険は承知している。それに、アコネさんのご主人を放っておくのは可哀想だ」
「ケイが行くなら私も行くアル」
アネマラはすぐに僕に続いて言った。
「本来、ギルド長としては失格だが、アコネさんの旦那さんを助けるだべ」
「ダーリンが行くなら妾も行くのだ」
「マイハニー。常に一緒だべええ」
「ふふ。面白い方達ですね。皆さんありがとうございます」
アコネさんは深々とお辞儀をした。僕たちは慎重に歩みを進めることとなった。
「グガアアアアアアアアアアア」
しばらく進んだ先に、魔獣が僕たちの進路を塞ぐ。体長十メートルほどの大きな角を持つ兎型の魔獣スノウアルミラージ。コーロー山のアルミラージよりも、遥かに巨大な特級の魔獣だ。
「ここは私が行きます」
アコネさんが言う。ただ、特級の魔獣はプラチナランクと対等。普通の魔導士では太刀打ちできない。
「アコネさん。僕たちも手伝いますよ」
「いえ、この程度なら私一人で充分です」
そう言ってスノウアルミラージへ向かって走っていく。
「待って」
僕は彼女の無謀な行動に制止を促す。
「ニブルスピアあああああ!」
ドドドオオオオオン
アコネさんは氷で槍を作り、スノウアルミラージを一突きで倒した。それに、氷魔法は水魔導士が使用するレア魔法。彼女はとても強い。
「すごいのだ。一突きなのだ」
「アコネさんってプラチナクラスの方ですか? 今の特級の魔獣ですよ!」
「いえ、私はただのゴールドですよ」
ゴールドクラスの中でもこんなに強い人がいるんだ。
「とりあえず、今日はこいつを食べるだべ。サンドホテル!」
ズズズズズン
ンデラさんが地面に鍬を立てると、いつもの豪華なホテルが出来上がる。
「す、すごい。こんなところにホテルを建てるなんて」
アコネさんはとても驚いたようだ。通常の反応が新鮮だ。
「たんと食べるだべ」
例の如く、広すぎる食事会場に案内されて、ンデラさんがスノウアルミラージのステーキ、乾パン、温かいコーヒを用意してくれた。ただ、ここは氷の洞窟。いつものような野菜は殆どない。それでも、この洞窟内では豪華すぎる食事だ。僕たちらアコネさんを含めた五人で食事をすることとなった。
「いつもこんな豪華な旅をしているんですか?」
仮面で表情はわからないが、アコネさんはとても驚いるようだ。それはそうだ。こんな苛酷な場所に似つかわしくない豪華ホテル。僕たちは慣れてしまったが、驚くのが普通である。
「このホテル凄いですよね。僕も初めはびっくりしました。ンデラさんはこう見えても
「まあ、
「妾もダーリンと一緒で
「まあ、まだ小さいのにすごいですね」
「妾はこう見えても、お主より歳上なのだ」
アコネさんが何歳かはわからないが、声の質から二十歳前後だろう。ダフネとはおよそ九百歳差になる。
「ふふふ、面白い冗談ですね。私、結構歳いってますよ」
まあ、アコネさんが例え何歳でもダフネより歳上であるはずがない。
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