第22話 燃焼鳥③
「あれ? 僕は生きている」
「ケイ! 良かったアルううううう」
アネマラが泣きながら僕に抱きつく。僕は火に包まれた謎の少女の炎によって死んだはず。だけど、炎に包まれる前まで鉛のように重かった体が嘘のように軽い。
「アネマラ。僕は大丈夫だから。それよりもここ?」
ンデラさんのホテルが倒壊している。あちこちに裂かれたような戦闘痕。何が起きたんだ?
「良かったアルううううう。死んだかと思ったアルヨ!」
アネマラは涙で目の周りが真っ赤だ。
「だから言ったのだ! 妾が治してあげたのだ」
声がした方に目を向けると岩陰に半ベソの少女がいた。十五歳ぐらいのあどけなさ。燃えるような真っ赤な髪と瞳が印象的だ。
ただ、少女の服がボロボロで、長い髪もボサボサになっている。誰かに襲われたのか? そして、この口ぶりから僕を治してくれたらしい。
「君、大丈夫?」
「大丈夫じゃないないのだ! この女凶暴なのだ!」
アネマラにやられた? どうしてと聞こうと思ったが、アネマラが少女を怖い顔で睨みつけている。
「あ、アネマラ、さん、事情を教えてくれるか、な?」
アネマラが、いつになく怒った表情をしているので、僕は恐る恐る尋ねる。
「こいつがケイを殺したアル!」
「だから、仮死状態なのだ。何度も言ったのだ!」
そう言う少女に対して、アネマラが睨みを利かす。怖いです。アネマラさん。
「僕は大丈夫だよ。むしろ前よりも体が軽くなったみたいだし。僕を助けてくれたんだよね? 感謝しないと」
なんだか、少女が不憫に思えて来たので、体裁を繕うように訴える。
「ほら! この男もそう言っているのだ! だから、許して欲しいのだ」
少女は必死にアネマラに弁明をしている。だが、アネマラは、また睨み返す。
「ひっ! なのだ」
何があったかはわからない。いや、状況からだいたい察しがつくのだが。とりあえず、少女はアネマラにかなり怯えている。
「アネマラ。何があったかは詳しく知らないけど、僕は元気だ。僕を思ってのことならありがたいけど、許してあげて欲しい。おそらく僕の恩人だ」
「……ケイがそう言うなら許すアル」
アネマラは仕方なくといった感じで渋々、僕の言葉を受け入れてくれた。
「も、もう大丈夫なのだ?」
「もう大丈夫だよ。こっちにおいで」
僕はそう言うと少女はオドオドしながら、こっちに来る。
「とりあえず、助けてくれたみたいでありがとう。僕はケイ・シーフェドラ。薬師をやっている。そして、彼女はアネマラ。僕の師匠で一緒に旅をしている」
「妾はダフネ・ユーフォビアなのだ。ダフネと呼ぶのだ」
やっと怯えた表情から笑顔になってくれた。まだ、ぎこちないけど、笑った顔はかなり可愛い。大人になったら相当な美人になるに違いない。
「ダフネだね。よろしく」
「よろしくなのだ」
「さっそく本題だけど、僕を燃やした炎って何だったの? 炎の魔法?」
「レナスキイグニスは、再生する炎なのだ。一度、仮死状態にして完全回復するのだ」
「完全回復!?」
「そうなのだ」
少女はさも当然のように返答する。しかし、完全回復魔法と言うと、光魔導士序列一位のリコリス女王のみが扱えるとされる奇跡の魔法。こんなあどけない少女が最上級の魔法を使えるのか?
「ダフネはどうして、僕を助けたの?」
「ンデラに妾を倒せる素質があると聞いたのだ」
ンデラさんといえば僕を助けるために回復魔導士を探しに行ったと聞いたけど、この子が?
「ンデラさんに? どういう関係なの?」
「妾を何度も倒そうとする諦めの悪いやつなのだ」
この子、まだ十五歳ぐらいに見えるけど。ンデラさんは、この子に負け続けているのか? ンデラさんは圧倒的に強い。おそらく
「ンデラさんは
「強いのだ。それに妾も
この子もこの若さで
だが、火魔導士の序列一位は「幻炎の魔導士」のイグナティウス様だったはず。長年、
「まさか、イグナティウス様を倒したの?」
「当たり前なのだ。まだ、ンデラの方が強いのだ。あんな、爺いが最強なんて人間は弱すぎるのだ」
まるで、人間じゃないかのような口ぶり。もしかして、僕が炎に包まれる前に現れた、赤い小鳥。『
ンデラさんも僕たちが動物になっても、驚く素振りすらなかった。まるで、他にも『
「君ってもしかして仙女?」
「違うのだ。あんな不老不死の化け物と一緒にされて欲しくないのだ」
そう聞いて、またアネマラがダフネをギッと睨む。
「ひっ! なのだ」
「アネマラ」
「ごめんアル」
アネマラは僕に咎められて、しょんぼりしている。
「妾は『レッドホンバード』と呼ばれているのだ」
なんだと!? レッドホンバード。『四霊獣の秘方』の素材は彼女の羽。しかし、千年生きたとされる霊獣だぞ。霊獣は人に化られる魔獣と聞くが、こんな少女が?
「本当に!? ダフネは千年生きているとされるレッドホンバードなの?」
「そんなわけないのだ! まだ、九百十四年しか生きていないのだ。そんな年寄りじゃないのだ!」
ダフネは必死に年齢について抗議をする。そんなに長く生きてもやっぱり歳を気にする物なのか? 乙女心は難しい。僕たちより、よっぽど不老不死じゃないのか?
「それはごめん。配慮が足りてなかった。それにしても、若い見た目だね」
「まだ、転生して十四年しか経ってないのだ」
転生。そういえば、聞いたことがある。レッドホンバードは一度生涯を終えると、炎に包まれて再生すると。伝説上のものだと思っていたが本当だったんだ。
「みんなー大丈夫だべかー?」
遠くからンデラさんの声が聞こえて来た。声のした方向をみると、ンデラさんが猛スピードで地面をクロールで泳いでいる。
「へ、変態アルううううう!」
ンデラさんの息継ぎの時の顔がそう思わせたのだろう。普段は綺麗な顔なのに、この人は所々、残念なのが勿体無い。
「ンデラ、遅かったのだ」
「ダフネ君が早すぎるだべ。それよりもこの光景やっぱり遅かったべか」
ンデラさんは魔法のホテルの惨状を見て、何かを悟ったかのように言う。
「申し訳ない。事情を話してから行くべきだっただべ」
「ほんとなのだ! 妾は死にかけたのだ」
「それは本当にすまないだべ。それにケイ君も無事でなによりだ」
ンデラさんはダフネに深々と頭を下げ、僕の安否を気遣ってくれた。この人はやっぱり、格好以外は常識人だな。
「ところで、ダフネ。僕は君の羽が欲しい。病の妹を救うのに必要なんだ。譲ってくれないか?」
「ケイ君!?」
「いいのだ」
ンデラさんが悲壮な面持ちで僕の方を見ている。何かあったのだろうか? それよりも、すんなり「レッドホンバードの羽」が手に入りそうで良かった。
「ありがとう。助かるよ」
「条件があるのだ」
「条件?」
「妾を倒すのだ」
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