第18話 火山遺跡④
超特級の魔獣ボルケーノドラゴン。魔獣の強さは魔導士のランクと対応させて作られている。特級はプラチナランクと同等の強さを有する魔獣を指すが、超特級はそれ以上に強いことを示す。
その中でもボルケーノドラゴンは、遭遇する前に逃げることが冒険者の中での常識だ。気性の荒いドラゴン種であり、一度目を付けられたら生きて帰れることはない。
「急いで逃げなきゃ!」
「もう遅いだべ」
ンデラさんがそう言うと、突如遺跡内の温度が上がる。近づいて来ている証拠だ。
ダダダダダ、ダアアアアアン
ンデラさんが造った建物を壊して、姿を現す。体長は五十メートルといったところか? かなり大きい。赤い体に、大きな翼、鋭い爪、息をする度ドラゴンの口から黒い炎が噴き出ている。間違いない。ボルケーノドラゴンだ。
「んだ。もっと最悪だべ。あのドス黒い炎はボルケーノドラゴンじゃなかっただべ。インフェルノボルケーノドラゴンだ」
数々の冒険者を葬って来た圧倒的な強さを持つボルケーノドラゴン。その更に上を行く上位種。威圧感が半端じゃない! 巨体に反して動きも疾い。これはもはや逃げられない。
「私が行くアルヨ。ケイは見ておくアル」
「アネマラ危険だよ!」
何を思ったのか、アネマラは突如として一人で相手にすると言っている。普通なら無謀な行為。そんな愚かな選択だが、アネマラは強い!
ンデラさんも確かに魔導士として圧倒的な強さを見せてくれた。しかし、それを踏まえた上で、僕の中での最強はアネマラだ。一年間、一緒に修行して来たが、彼女の強さの底は計り知れない。
「任せるアル」
アネマラはそう言うと、インフェルノボルケーノドラゴンの方に走り出した。ドラゴンは真っ黒な火炎の玉をを吹きつける。
ドン、ドン、ドン
アネマラはピョンピョンと跳ねて、ドラゴンの攻撃を難なくかわして、スッと懐に入る。
『
グサッ、グサッ
インフェルノボルケーノドラゴンに傷を付けるが、皮膚がゴツすぎる。乾坤剣の短い刃では大したダメージを与えられるはずがない。
ブシャアアアアア
いや。どうやらそんなことなかったようだ! ドラゴンは大量の血を吹き出す。乾坤剣の特性か、または僕の知らない仙術の技術で深い傷を与えることができたのだろうか?
『
ドドドドド、ドゴオオオオオン
アネマラは先ほど裂いた傷の箇所に、気砲を連続で飛ばす。前にグラドックさんの時に見せた技術だ。やったか? いや、まだだ。黒い炎を吹いているのが見える。
アネマラの怒涛の攻撃でも致命傷までは行ってないようだ。先ほどの連続攻撃でも倒れないとは、さすが超特級の魔獣なだけある。相当なタフさだ。
今度はボルケーノドラゴンが大きく息を吸った。来る!
「ゴガアアアアアアアアアア」
巨大な漆黒の炎の竜巻を吐き出して来た。やばい! アネマラに直撃する!
『
キイイイイイイイイイン
アネマラはボルケーノドラゴンの炎を相殺した。乾坤剣の切先から気砲を放ったように見えたが、先ほど皮膚に傷を付けた技と関係あるのだろうか?
「ケイ、見とくアルヨ!」
アネマラは僕に対して大きな声で伝えてくれている。きっと、僕に何度も見せてくれようとしていた『
「はい! 師匠!」
「行くアルヨ」
「『
アネマラはそう唱えると、『
まるで、巨大な白猫。いや、猫なんて可愛いものじゃない。これは巨大な虎。白く輝き、とても神々しい姿だ!
グサアアアアアアアアアアア!
アネマラの姿を見失ったと思ったその刹那、インフェルノボルケーノドラゴンは八つ裂きになって朽ちてしまう。ほんの一瞬の出来事だった。
僕がかろうじて見えたのは、白い虎が高速でドラゴンに対して爪を立てていたことだ。目に捉えただけで十回程度は切りつけていた。おそらく、もっと多かっただろう。それほど、アネマラの攻撃が早かった。
「ケイ、やったアル。見たアルカ」
アネマラは、また人の姿に戻る。先ほどの凄まじい光景が何だったんだと思わせるほど、あどけない表情で僕に話しかけて来る。
「すごい。すごいよ。アネマラ!」
僕は感動した。僕の師匠は僕と同じく魔力を持っていない。それにも関わらず、最強だ。僕の目指すべき道はやはりアネマラであり、一生付いて行こうと思えるような出来事だった。
「オラも感動しただ。なんという強さ! アネマラ君はオラなんかよりも断然強い! ああ、なんて神々しい姿だったんだべ」
「ケイ、どうだったアルカ? 私カッコ良かったアルカ?」
アネマラはンデラさんの賞賛をなかったかのように僕の方に向かって、天真爛漫に問いかける。戦っている時とのギャップが激し過ぎる。まるで別人だ。
「それは、もちろんカッコ良かったよ。あんな強い魔獣を圧倒するなんて」
「ケイも近いうち私と同じぐらい強くなるアル」
「そうなるといいよね」
僕にお世辞を言ってくれているが、正直僕はまだまだアネマラの足元に及べていないと感じる。だが、一年前までは魔力を持たず魔法を全く使えないことに嘆いていた僕が、アネマラの強さに嫉妬するのは不遜だろうか? 正直ちょっと悔しい。
「さあ、今日はもう遅いだべ。ここで一旦、一休みにするべ」
「ここって、さっきまで強い魔獣がウヨウヨいたところで休憩ですか?」
ここはさっきまでレッドコックローチとインフェルノボルケーノドラゴンと戦っていたところ。遺跡の中の広めの場所だが、溶岩の川も近くに流れるし、魔獣の死骸も多い。とても休める雰囲気じゃないが。
「そうだべ。こういうところでも休息するのが冒険者のスキルだ。サンドホテルだべ!」
ンデラさんをそう言いながら、鍬を地面に突きつける。そうすると、土塊が盛り上がり、ホテルの形を形成する。しかもゴールディア王国で最も格式が高いロイヤルゴールデンホテルの形を模している。
「ンデラさん! すごいです」
やっぱり、このギルド長の魔法のスケールは桁外れだ。こんなに巨大で繊細な魔法をできるのは、僕が知っている限りこの人しかいない。
「さあ、中にはいるだべ」
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