第19話(閑話)傲慢の代償③

「あ! なにあれー?」


 空から探索するセレスティアが何かを発見したようだ。


「なんだ? 何かいたのか?」


「フサフサの白猫に青い蛇が巻き付いて猛スピードで走っているのが見えたの。魔獣かなー?」


「猫と蛇の魔獣なんて聞いたことないですわ。本当だとしたら新種ですわね」


 魔獣に詳しいミリアーナが答える。たしかに、俺様もそんな魔獣は聞いたことがない。


「俺も聞いたことがない。おそらく、蛇に襲われた猫が必死に抵抗しているのだろう」


 ガイアンがそれらしい仮説を述べる。


「そんな馬鹿なことあるー?」


『マグナスフレイム』がこのメンバーになってから、一年経った。今日はコーロー山で、討伐クエストを受けることになっている。


 この一年は最悪の年だった。俺様たちは絶不調。いわゆるスランプだ。調べていないが

厄年に違いない。


 まず、今までのように力や魔力がみなぎらなくなった。初めは風邪などの体調不良かもしれないと思ったが、いくら病院に行っても何もない。むしろ健康体だと言われた。


 魔力がみなぎらないものだから、クエストも今までのように、こなすことができなくなった。今まで楽勝だった魔獣に、なぜか苦戦を強いられることが多くなったのだ。


 クエストの失敗を繰り返し、実力が伴わない間抜けだと俺様たちを評する奴も現れた。見つけ次第、俺様がギャフンと言わせてやっているがキリがない。


 そして、アリエルを除いた全員の序列が下がった。俺様たちは『マグナスフレイム』を結成以来、破竹の勢いでランキング戦を制して来たが、ここに来て全員が序列を落としたのだ。


 ガイアン、ミリアーナ、セレスティアはそれぞれ序列が十位。ギリギリ序列持ちプラチナに収まっているが、もう一つでもランクを落とせばゴールドになる。


 そして、俺様も序列を一つ落として火魔導士の序列三位となった。俺様はかろうじて負けていないが、突如どこからともなく、強い才能が現れた。


 火魔導士の序列一位は長い間イグナティウス様だった。御年六十歳を迎える身だが、『幻炎の魔導士』の二つ名に相応しく、見えない炎操る俺様の目標だった。


 それが今までどこに居たのか、急に出て来たダフネというチビ女にあっさりやられてしまったのだ。あいつは何者だ? 正直に言って今の俺様でも太刀打ちできないだろう。あいつは化け物だ。


「セレスティア。ワイバーンの巣は見つかったか?」


「全然だよー。木が多すぎて、全然穴が見つからない」


 俺様たちは今回コーロー山にワイバーンを四体を狩る討伐クエストに来ている。たかだか上級の魔獣だ。ゴールドの魔導士と同等の強さ。俺様たちは全員プラチナのため、今回はスランプに対して、リハビリの意味合いがある。


「ついでに、ケイあの馬鹿薬師の亡霊もいないか見ておいてくれ」


「ギャハハハ、ケイ魔力ナシのことだから、あの世に行けずに本当に彷徨うろついてるかもしれないよねー」


 あわよくば、あわよくばだ。もし、仮に、ケイ魔力ナシが生きていたとしたら、もう一度俺様たちのパーティーに入れてやらんでもないと思っている。


 俺様も馬鹿じゃない。この一年間の不調の原因はアイツが居なくなったせいの可能性もあることは薄々気づいている。万が一、ケイ無能が生きていて、俺様が誘ってやれば泣いて喜ぶだろう。


 俺様たちはケイあいつから情報を絞り出し、以前のように奴隷同然で働かせてやるんだ。もし、生きていたら命を救ってやるんだから、当然だろう。


「せんぱーい。ワイバーンの巣みたいなところがあるです」


「でかしたぞ! アリエル」


 アリエルが見つけたのは山の崖肌にある不自然に掘られた穴。ワイバーンが掘った巣穴に間違いない。


「いいかお前ら! 今回のクエストはただ討伐するだけじゃない。それぞれ一人一体ずつ倒す。今までの不調のリハビリが目的だ!」


「御意だ」


「はーい」


「わかりましたわ」


「せんぱーい。私もですか?」


「アリエルは、もし万が一ピンチになった場合のみ助けてやってくれ」


 俺様は華麗にリーダーシップを取る。


「では、行くぞ! ファイヤーボオオオオル!」


 ドオオオオオン!


 俺様は巣穴に魔法を当て、軽めの爆発を起こす。


「出て来たぞ!」


「一、二、三、四、五。大変です! 先輩! 五匹も出て来たです!」


「仕方ない! 俺様が二体引き受ける!」


「さすがです!」


「じゃあ行くぞ! フレイムスラッシュ!」


「ウオーターフォールですわ!」

「ロックバズーカだ!」

「トルネードキックですー!」


 ドン、ドン、ドン、ドオオオオオン!


 俺様たちの鮮やかな魔法攻撃だ。これなら、たかだか上級の魔獣に耐えられる筈もない。本当に軽い肩鳴らしてだったな。


「先輩たちー。まだ一匹もやっつけてないみたいです。」


「くそ、まだだったか!? ファイヤーボルドソード!」


「スプラッシュアロー!」

「サンドストリーム!」

「テンペストニー!」


 俺様たちの怒涛の魔法攻撃だ。一度目はほんの少しだけ油断してやったが、二度目はない。俺様たちには簡単過ぎる粗末な仕事だった。


「先輩たちー。ドラゴンさんピンピン飛び回っているみたいです!」


「くそ、小癪な! インフェルノアタック!」


「ウオーターキャノンボール!」

「メテオストーンシャワー!」

「サイクロンヒールドロップ!」


 俺様たちの本気の魔法攻撃だ。さっさと、くたばれば良いものを。下手に避けるから苦しんで死ぬことになる。哀れなドラゴンだったな。


「先輩たちー。ドラゴンさんたち、餌を食べ始めたみたいです。もぐもぐタイムです。これは、た、大変です! 可愛い過ぎるです!」


「くそ、舐めてかかりやがって!」


 結局、俺様たちは三十分ほど、同様に魔法の攻撃をし続けた。


「ホーリーヒールですぅ。ドラゴンさんたち可愛いそうですぅ」


「ぷはー疲れたー」


「ああ、やっと倒せたな」


「苦戦しましたわ」


「お前ら! ちょっとたるんでないか! 結局倒せていないじゃないか! 相手はたかだが上級の魔獣だぞ」


 そう、こいつらは倒しきれていない。最終的に、俺様が必殺技のファイヤーエンブレムスラッシュで全て薙ぎ払ってやった。


「そう言う、エンバルだって息を切らしすぎだよー。最後はあの必殺技に頼っていたじゃないのー」


「ああ、確かにまずいな」


「私たち何故か弱くなっているわね」


 くそ。本当にどういうことだ。上級だぞ。上級! ゴールドクラスと同等の魔獣だぞ。こいつらがプラチナからゴールドに落ちるのは目に見えてしまっている。


「お前ら原因は何だと思う?」


「前みたいに魔力が連発できなくなったー。私ずーと空を飛ばされているもん」


「飯かな? 力が入りづらい」


「荷物が増えたからですわ。無駄に体力を奪われますもの」


 やっぱりだ。どれもケイ役立たずにやらせていたことがなくなったからだ。こいつらはアリエルに気遣ってか言わなかったが、薬のせいもある。


 ケイザコ薬師が使っていた薬とアリエルが使う薬とは雲泥の差がある。魔力や体力の回復効果もケイ田舎薬師の方が優れていた。


 しかも、ケイクズ薬師の薬は魔力増強、体力増強、体温調節、雑魚避けなどポーションにない効果を発揮するものも多かった。


 もはや、ケイ無能薬師の薬は最上級の光魔導士に匹敵するということか? いやそれ以上かもしれない。認めたくない! 認めたくないが事実だ。


 あぁ、何て歯痒いんだ! 今度もし会ったら、俺様たちに恥をかかせた分働かせてやる! 覚悟しろよ! とりあえず、今日のところは撤収だ。


「お前ら、今回のクエストは達成した。王国に戻ることにする」


「エンバル、すまない。俺たち、しばらく動けそうにない」




【あとがき】

 長編に挑戦しました。ストックが尽きるまで、しばらくは13時6分に投稿します。面白いと思いましたら、ぜひ評価をお願いします。

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