第16話 火山遺跡②

「いやー。君たちは元気いっぱいだべ。いいことだ。冒険者は、やっぱそうでないといけないだべ」


 僕たちは、ンデラさんを全力で撒こうとしたが、無理だった。もはや一緒に行動する他はないみたいだ。


(嫌アル。嫌アル。嫌アル……)


アネマラは、また錯乱しているようだ。


「ところで、君たち動物に変身できるんだったら、許可証なんていらんかったべ。動物は勝手に出入りしているだべ」


(な、なんだと!?)

(な、なんてことアル!?)


 僕たちは撃沈した。なんてことだ。冒険者ギルドに訪れた一連の流れは全く無駄だった。それどころか、赤褌のギルド長がおまけで連れて来てしまったということなのか?


(なんてことアル。なんてことアル。なんてことアル……)


 アネマラは尻尾を力なく降ろし、トボトボと歩く。


「何か来るべ」


 ダダダダダ、ダダダダダ


 少し歩いたところで、何かが群れで近づいてくる!


「あれはロックリザードだべ」


 体長は僕たちの三倍はあるであろう大型のトカゲの魔獣、ロックリザード。全身は黒い岩のようなもので覆われている。およそ二十匹はいるだろう。群れを成して、僕たちに猛スピードで襲って来る。


「オラに任せるだべ!」


 そう言って、ンベラさんは僕たちの前に立ち両手を広げた。軽く僕たちの方に向き、輝かしい歯を見せびらかすように微笑みかけて来る。


 さすが、円卓の魔導士ラウンデルズ。この王国で最強の六人の魔導士の一人だ。これだけの数の魔獣に対して、一切臆することがない。


 ロックリザードの強さは特級。プラチナクラスの魔導士と同等の力を持つ。それにこの数。普通はプラチナの人でも、複数人のパーティーで挑む相手だ。


「オラにかかってくるだべえええええ!」


 ンデラさんは強い口調で叫ぶ! さ、さすがだ! いったい、最強の魔導士はどんな魔法を繰り出すのだろうか? 


 ダダダダダ、プチ、ダダダダダ


 え? あ、あれ? 今ンデラさん、魔獣の群れに容易く踏み潰されて、地面の岩にのめり込んだように見えたけど。え、えええ!? ま、負けた?


(トカゲエエエ! でかしたアルううう!)


(アネマラさん!?)


(褒めて遣わすアル! これでケイと二人っきりアルヨ)


(アネマラ。今はそれどころじゃないんじゃ。ンデラさんを倒した勢いそのままに、僕たちに狙いを定めて来ているよ!)


(わかったアルネ。私が『獣戯じゅうぎ』でメッタメタのコテンパンにしてやるアル)


(今、褒めて遣わしたんじゃ……)


 とりあえず、アネマラが元気を取り戻してくれて良かった。それに、この前のグラドックさんの試合では、結局『獣戯じゅうぎ』を拝むことが叶わなかった。初めて見ることになる。しっかりと勉強させて貰おう。


(『獣戯じゅうぎ天地乾坤霊峰白猫てんちけんこんれいほうびゃくびょうアル!)


 アネマラがそう唱えると体から膨大な湯気のようなものが溢れ出て来た。普段、は感じるものであって、見ることはない。だが、溢れ出ているものがだということは直感的に分かった。白くて美しいオーラだ。


 それは猫の姿のアネマラを覆い尽くし、形を作って行く! 威圧感が半端ない。息をするのを忘れてしまうほど神々しい光景。これから何が始まるんだ!?


「サンドキャッスルだべ!」


(え!?)


 突然、地面から大きな城が建築された。ロックリザードの群れを飲み込む。全てのロックリザードは、覆っている岩の皮膚を粉々に破壊され、息絶えてしまった。こ、これがアネマラの『獣戯じゅうぎ』!?


 いや、考えたくないが、今さっき地面の岩の下からあの声がしたような気がする。ま、まさか!?


「ははは! 君たち大丈夫だべ? オラが全部やっつけたから、安心するだべ」


 地面から突き出した城のてっぺんで、ンデラさんが腕組みをして僕たちに話かける。


(ンデラさん!? 生きてたいんですか?)


 と言ってもンデラさんには聞こえるはずもないが、白い歯を見せつけたドヤ顔で親指を立てている。『伝心でんしん』は僕とアネマラの間だけの技のはずだが。


 それにしても、こんな魔法があるなんて! 僕は『マグナスフレイム』や、女王の元パーティーでプラチナクラスの魔導士の魔法を数々見てきた。


 同じ円卓の魔導士ラウンデルズでもリコリス女王はサポート特化型で派手な攻撃は持っていなかった。今まで僕が見て来たどんな魔法よりも、威力や規模が桁違い過ぎる! この人いったい何者なんだ?


「ンデラさん。ありがとうございます。助かりました」


 僕は『形転けいてん』を解き、人間の形に戻って感謝の意を伝える。服装や裏山の件で、変な人ととしてしか認識できていなかった自分を恥じた。ギルド長はやっぱりすごい人だ!


「こんなの大したことないだべ。それより、アネマラ君は大丈夫べか? 怪我しただべ?」


「あ!?」


「しくしくアル……」


 アネマラはさっきいた場所のまま、『形転けいてん』を解き、四つん這いになって泣いていた。


「アネマラ。大丈夫? ケガしてない?」


「大丈夫アル。私、ケイにいいところを見せたかったアルヨ」


 僕が手を差し出すと、アネマラは涙を拭きながら言う。たしかに、『獣戯じゅうぎ』はすごい迫力で続きを見せて貰いたかった。


 今回はンデラさんの邪魔……いや、そんなこと言うもんじゃない。助けて貰って見られなかったが、あれはあれですごかった。僕は今まで以上にすごい人たちとパーティーを組んでいるのかもしれない。


「今度、またカッコいい所を見せてよ」


「うんアル」


 アネマラは笑顔を作り、返してくれた。


「青春だべ」


 ンデラさんは、僕たちと少し離れたところで傍観しながら感動の涙を流していた。この人は服装があれなだけで、心はピュアなのかもしれない。

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