第14話(閑話)傲慢の代償②

「アースブレイク!」


「ウォーターシャワーボール!」


 ドオオオオオン!


「いったい何匹いるのよ!」


 俺様はエンバル・フレイムハート。熱さで気が狂いそうな岩場。マグマの河が横に流れている。ここはボルケーノ遺跡の内部。


 対峙しているのは全身を石の皮膚で覆われた人サイズのトカゲの魔獣、ストーンリザードの群れだ。


 特級のロックリザードならまだしも、上級のストーンリザードなら俺様たち『マグナスフレイム』にとっては、例えそれが百匹の群れでも恐れるに足りない。いつもの俺様たちにとっては朝飯前。準備運動にも成りはしない、寝ていても倒せる相手だ。


「ミリアーナもう一発だ」


「ええ! もう無理ですわ!」


「くそ。じゃあ、ガイアン。もう一度アースブレイクだ」


「す、すまない。俺も魔力切れだ。」


「アリエル! 魔力回復だ!」


「ええ! またですか!? もう何度目ですか!」


 ……朝飯は充分に喰ったはずだ。念入りにストレッチもした。睡眠も八時間きっちり! な、何故だ!? 俺様たちがこんなストーンリザード如きで苦戦しているだと? そんなわけあるはずがない。二年前にパーティーを結成して以来そんなことはなかった。


 今回も楽勝でこんな所、素通り当然に探索に行くはずだった。夢か? これは夢に違いない。白昼夢なのか? 俺たちはきっと疲れているんだ


 このメンバーになって三ヶ月が過ぎた。コーロー山の時は何故だかわからないが、調子が下がったのでしばらく休養を取った。久しぶりの遠征だ。


 俺様たちは戸惑っている。何故か前のように魔法を連発できなくなった。流石に三ヶ月は長すぎたのか? まあ、ちょっと体が温まったら元に戻るはずだ。休養をとり過ぎて体が鈍っているだけに違いない。


「ホーリーヒールです」


「アリエルこれだけですの? もっと回復できないかしら」


「ええ! 八割方は回復したです」


「まあ、いい俺様が蹴散らす。ファイヤーエンブレムスラアアアアッシュ!!!」


 ドゴオオオオオオオオン!


 俺様はストーンリザードの群れを一掃する。これをあまり多用できはしない俺様の必殺技だ。本来はこんなところで使うものでもないが、みんなが本調子でないため、仕方なく使ってやった。


「ねーアリエル。あんた毎回思うけどもっと回復できないわけ?」


「私これでも光魔導士の序列四位です。私以上に回復できる人はそういないです」


「えー。以前は丸い玉一粒で全回復していたのにー」


 空中にいるセレスティアが頬を膨らませて不満を示している。確かに、以前は丸い玉で俺たちの魔力が全回復できた。


「最高級のポーションもあるです。これでも魔力の回復は七割しかできないです」


「はあ? なんでよ? 最高級なのになんでそんなに効果がしょぼいのよ!」


「しょぼくないです。私が教会の伝手で手に入れた最高級品です。普通は五割も回復できないです」


 どういうことだ? あのクソ薬師の薬が本当は貴重な物だっただと? そんな話あってたまるか! ただの田舎臭い草とかの混ぜ合わせだったはずだ。


「お前ら! いくら相手が雑魚の魔獣だからって油断しすぎじゃないか?」


「えー。そんなー。私いつもより力出ないんだよね。風邪でも引いたのかな?」


「私もですわ。前よりも何故か魔法の範囲が狭くなった気がしますわ」


「俺もそうだ。前よりも力が沸いてこない」


「えーそうなんですか? 確かに、先輩方の序列から考えたら、もっと強くてもいいはずです」


「アリエル! ちょっとは口を慎め!」


 俺様はアリエルの軽率な発言にビシッと言ってやる。言ってやるが、確かに、こいつらの実力が明らかに落ちている。今、序列を決める決闘があれば三つぐらい落ちるかもしれない。


 俺様も実は魔力を以前のように練れなくなってしまった気がする。なんというか、腹に力が入らない感じがする。食事が悪いのか?


 いや。今はケイ雑魚薬師が作った田舎臭い料理ではなく、アリエルに用意させた最高級の保存用冒険食だ。食事が悪いはずがない。何故なら最高級品だからだ。


「それにしても、以前ここに来た時とは比べ物ならないぐらい暑いですわ」


「ほんとー。そうだよねー。そうだ、だからみんな熱中症で調子が悪いんだ」


「そうか。確かに俺も以前より汗だくだ」


「えー。そうですか? 今日はここ数年で一番遺跡内の温度が低いらしいです。マグマの勢いが例年より弱まっているそうです」


「あんた、それどこ情報よー? 現にこんあに暑いじゃない」


「そうですわ。いつもは修道服を着ても全然暑くないですもの。今日は異常ですわ」


「先輩! こんな所、修道服って馬鹿ですか? 下手したら死にますよ」


「アリエル! もうちょっと先輩を立てろ!」


「エンバルさん、すいませんです。でも、こんなに快適な遺跡初めてです。みんな、なんかおかしいです」


 さっきからアリエルは何を言っているんだ。俺様も今日の暑さは異常だと感じる。だが、アリエルの言う通り、マグマの河の勢いが弱いのは事実だ。何かがおかしい。


「そうだー! アリエル。体を冷やすスプレーは持っていないの?」


「セレスティアさん、何のことですか? そんなポーション聞いたことないです。また、謎の薬ですか?」


「あれー? ケイあの馬鹿が使ってた気がしたけど気のせいかー?」


「いや、ケイやつは確かに暑い日に何かを吹きかけていた」


「あの、スーとする臭いやつですわね。もう、あんな薬草臭いの嫌ですわ」


「そうだ! 熱を冷ます薬はあるです!」


「アリエル何よー! さっさと出しなさいよ」


「でも、これは打撲による炎症をとるやつです。普通そういう使い方しないです。それに、」


「なによー。私が貰うんだから!」


「せ、セレスティアさん。それそんなに飲んだらお腹が痛くなるです!」


 どういうことだ? ケイポンコツは何も役に立たない、魔力ナシの無能。そんなやつが気温に合わせて、謎の体温を下げるスプレーを使っていたというのか?


 いや、あの無能にそんな気が利いたことができるはずがない。だが、みんなの調子が悪いのもまた事実。本当に殺されたケイ馬鹿の怨霊だとでもいうのか?


 馬鹿げている。俺たちは今、ケイ魔力ナシがいなくなって気分よく冒険しているんだ。あんなやつの影がちらつくとか縁起でもない。


 まったくケイあの無能は死んでも俺様を苛つかせる。今回は、原因不明の体調不良だ。早く病院に行くべき。撤退だ!


「お前ら、今日はなぜか体調不良が多い。一旦、王国に戻ることにする」


「エンバルー。お腹が痛いよー」


「せ、セレスティアさん。ポーションの用法用量は守るです」

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