第13話 ギルド④

「そうだ。まだ名前を言ってなかったべ。これは失礼した。オラの名前ンデラ・グリーンフィールド。半年前からこのギルドの長をしてる。一応、土魔導士の序列一位だべ」


 僕たちの会話の間に割って入った爽やかイケメンで赤褌のギルド長が自己紹介をかます。格好のインパクトに劣らずの肩書きだ。


「一位ってことは円卓の魔導士ラウンデルズの!? あ、そうだ。初めまして。僕はケイ・シーフェドラで、こっちがアネマラ・ヘナプラスターです」


 僕も自公紹介で返すが、アネマラは赤褌のギルド長に圧倒されてしまい、僕の後ろに隠れている。


「変態アル。変態アル。変態アル……」


 アネマラは壊れたおもちゃのように呟く。


「よろしくだべ。それで、オラは勿論、円卓の魔導士ラウンデルズの一人だ。新参だけどな」


 すごい! 円卓の魔導士ラウンデルズと言えば各属性魔導士の序列一位で構成された六人の英雄だ。全員が歴史に名を刻み、後世に語り継がれる。


「ところで、本題に戻すが君たちの、さっきの力なんだべ? 魔力がないって聞いが、本当だべか?」


 赤褌のギルド長の目が急に鋭くなり、僕たちに質問する。その目つきに怪しさを覚えるが、下手なこと言うのはもっと危ない気がして差し支えない範囲で答えることにする。


「これは仙術と言います。魔力がない人だけが使える特別な技術です」


「そうか。そんなものもあるとは、知らんかったべ」


「はい。僕も修得したばかりなので、詳しくありませんが」


「彼女にも聞きたいが、何故か怯えられるべ」


 あんたの格好のせいだよと、喉元まで出かけたが、何とか飲み込んだ。この人は素で理由がわからないような顔をしている。案外アホなのか?


「僕でよければ答えられる範囲で答えますが」


「助かるだべ。ケイ君は、『チセンの集団』と関わりはあるべか?」


「知らないです」


「そうか。それなら仕方ないだべ」


 ンデラさんはなんだか残念そうな顔をした。


「すいません。全く思い当たる節がないです」


「まあ、知らないならいいべ。君たちは許可証が欲しいんだったべか?」


「はい。『四霊獣の秘方』の素材を探しているので」


「そうか。それは王国の悲願のだべ。だが、オラもここの長を任されているべ。簡単に許可するわけにはいけないだべ」


「そんな! グラドックさんは何とかするって」


 ンデラさんは僕たちに許可証を出せないと告げられ、僕は焦る。


「許可証はSランク以上のパーティーのみだべ。Sランクは特級の魔獣を想定したランク。要するにプラチナ一名以上か、経験を積んだゴールドが複数人だべ。ケイ君はまだブロンド。アネマラ君も加入したばかりでブロンドだべ」


 至極当然な意見だ。ンデラさんはギルドを束ねる立場。そう簡単に例外を作れない。だが、僕たちには力があるそれを認めて貰えばなんとかなるかもしれない。


「待ってください。確かに、僕たちはまだブロンドですが、特級の魔獣も倒してます」


「わかっているだべ。君たちは強い。すぐにゴールドになれる実力もある。それどころか、魔力がさえあればきっとプラチナの実力だべ。だが、それとこれとは別だべ。決まりだ」


「そ、そんな」


 ダメだった。この赤褌のギルド長はきっちり規律を重んじるタイプだ。取り付く島がない。


「それで、オラが直々に試験するべ。いいだべ?」


 え!? そんなことできるんですか? さっきまでの話は何だったのかと思うも、またとないチャンスだ。


「はい! 試験をお願いします」


「うん。いい心がけだべ」


 僕たちはそう言ってギルドの裏山に付いて行く。


「ケイ、私あいつ苦手アル。生理気的に無理アルヨ」


「そんなこと言っちゃ失礼だよ」


 僕たちはそんな会話をしながら、人気がない所まで行き、そこでンデラさんの足が止まる。


「ここでいいだべ」


「あの試験官とか立ち会いはなくて大丈夫ですか?」


「大丈夫だべ」


 この赤褌のギルド長は何を言っているんだ? さっき「決まりだべ」と言っていたじゃないか。規律を重んじるんじゃないのか?


「あの、僕たちは何を? 魔獣を倒せばいいんでしょうか?」


「いや。ここの魔獣は強くても上級だべ。もちろん、上級を一人で倒せたらゴールドの実力だが、Sランクパーティーにはしてやれないだべ」


「では、何をやれば?」


「オラの腹筋に訓練場での攻撃をしてみるだべ」


気砲きほう』を腹に? 今では僕の十倍ぐらいある岩をも破壊する技だ。ダンデさんは鍛えてはいるが、身長百八十センチぐらいの細身。とても耐えられるとは思わないが?


「あのぉ、人に向かって撃つのは危険かと」


「オラを舐めるな! 手加減すると不合格にするだべ」


 はぁ、仕方ない。僕はンデラさんの実力を知らないが、 円卓の魔導士ラウンデルズだ。それにさっきの試合で僕の『気砲きほう』を見ている。きっと、すごい魔法を持っているに違いない。


 格下の僕がギルド長を気遣うのは確かに不遜だった。失礼極まりない。力を手に入れたことでの驕り。もう少しで謙虚さを忘れる所だった。僕は本気で行く!


「では、行きますよ」


「いつでも、来るべ」


 ンデラさんは両手を広げて、僕の攻撃を待ち構える。しかも、目まで瞑って余裕を見せている。くそ、白い歯がやけに眩しい! なんてオーラだ!


気砲きほう


 僕はンデラさんの均整の取れた腹筋に掌を当て、渾身の一撃を放つ。


「んだらべやああああああああああ」


 ドン、ドサドサドサ、ゴオオオオオオオン


 ……え? この赤褌、何の魔法を使わずに攻撃を受けたのだが。吹っ飛ばされた勢いのまま木々を薙ぎ倒し綺麗に転がって行ってしまった。


 百メートルほど離れた岩にぶつかりようやく止まる。そこに前のめりに倒れて、力尽きた。麦わら帽子が虚しく僕の近くに転がって来る。


「ご、合格だべ……」


 僕に合格を告げると、バタンと倒れた。な、何だったんだー? この人はまさか無策で受けたのか? 初見ならまだわかる。僕の攻撃を知った上で倒れたんだけど、やっぱりアホなのか?


「た、大変だー! とりあえず、ギルドの医務室に運ばないと」


「この変態、阿呆アルカ?」


 アネマラは僕が気遣って敢えて出さなかった言葉を軽々と口にする。


「ぼ、僕もそう思う。だけど、今は急ごう!」


 アネマラが激しく嫌がったので僕がンデラさんを担ぎ、ギルド内の医務室に運ぶ。何故、裏山に登ったのか謎だった。ただ運ぶのに面倒なだけだ。


 ンデラさんを気絶させてしまい、ギルドの人たちに叱られると思ったが、みんな「まあ、ンテラさんだから」と気にしないでいる。普段からそういう人なんだろうか? よくわからない人だ。


 気絶してから三十分ぐらい経った頃、ンデラさんは医務室のベットからヌッと起き上がる。あれだけ吹っ飛ばされたのに、何事もなかったように爽やかに伸びをしている。普段、あまり他人に苛つくことがない僕でも、なんとなくイラっとした。


「ああ、びっくしたべ」


「大丈夫ですか?」


「あんなの大したことないだべ」


 はい? そうですか。たしかに、あの攻撃に無傷なのはすごいが、三十分ぐらい気絶していましたよね? この人は本当に掴めない。


「さっき合格と言っていましたが、僕たちもSランクパーティーに認めてもらえるってことでしょうか?」


「いや。それは無理だべ。決まりだ。諦めろ」


 この赤褌は何を言っているのだろうか? 決まりと言ったり、個人で試験をしたり、僕たちを振り回して楽しんでいるのか?


「では、先ほどの合格はどういう意味でしょうか?」


「オラが君たちのパーティーに入るべ」


「い、嫌アルうううううううううう!」

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