第12話 ギルド③
「これより、グラドック・アイアンフィスト対アネマラ・ヘナプラスターを開始する。両者入ってきて」
司会が決闘の開始を宣言する。
「グラドック副ギルド長の決闘が、また見られるなんて!」
「ギルド長時代は決闘をしていなかったから本当に久しぶりね」
「対戦相手の女の子、とても戦えるように見えないけど大丈夫かしら?」
「どうやら、あの子も魔力がないみたいよ」
「ああ、それなら安心して見てられるな。遠慮しないでやっちゃっていい」
観衆がざわついている。中には魔力がないことへの中傷もあるようだ。こういう人たちは一度、差別対象と見なせば、そこで思考が止まってしまうのだろう。
全く。この王国の宗教はどうなっているんだ。僕に対しては何を言われてもいいが、それがアネマラ向けられたものだと胸糞が悪くなる。
「アネマラがんばれえええええ!」
「勇敢な少女よ。君とケイ君とはどういう間柄なんだい?」
「私が師匠アルヨ」
「ということは、君もあの不思議な力を使うと認識して間違いないね?」
「私の方がまだ強いアル」
「そうか。なら、私も本気を出しても構わないか?」
「何が問題アルカ?」
「いえ。紳士たるもの、可憐なお嬢さんに力を出しすぎるのも気が引けてね」
「何を言ってるアルカ? 私の方が強いアル。それに筋肉よりもケイの方が強いアルヨ」
アネマラ、勝手なこと言ってれるなよ。僕は確かに強くなったけど、相手は副ギルド長で土魔導師の序列二位だ。弱いわけがない。
「レディイイイイイ! ファイトオオオオオ!」
今回は僕の試合と違ってゆっくりとした始まりだ。お互いに牽制しあっている。僕の時はズラの人がせっかちだったからな。
アネマラは二本の白と黒のナイフを逆手で握っている。きっと前に言っていた
「そんな小刀で大丈夫かい?」
「問題ないアルヨ」
確かに、グラドックさんが持つ身の丈の倍はある大鉾に対して、質量が違い過ぎる。どういう戦い方をするのだろうか?
「では、私から行きますね」
グオオオオオン!
すごい! あの巨大な大鉾を軽々振り回す。
キイイイイイイイイイイン!
それに、アネマラもナイフで刃を滑らせてカウンター狙いだ。身のこなしが軽い!
『グランドトレーマー!!!』
地面が揺れ、大地から
『
アネマラも空を飛んで応戦だ。
「君も当たり前のように飛ぶんだね。飛行能力はかなりレアな魔法のはずだが」
「私がケイの師匠と言ったアル」
「おい、あの女も飛んでいるぞ」
「まじかよ。なんであいつら魔力ない癖に飛べるんだよ」
「それにあの女の身のこなし何なんだ。全く見えなかったぞ」
会場がざわつき出した。アネマラの実力を認識し出したようだ。
「アースゴーレムズ!!!」
ズン、ズン、ズン、ズン、ズウウウウウウン!
グラドックさんは五体の巨大な土人形を作り出した!
『
ボン! ボン! ボン! ボン! ボオオオオオン!!!
アネマラも『
「今のは囮ですよ!」
グラドックさんがアネマラの後ろに飛び込んで、切りかかる。
「知ってるアル」
グサッ! グサッ!
アネマラは難なくかわし、グラドックさんの両肩にナイフを刺す。いや、刺さってる様には見えなかったが、何かしたか?
「おい、グラドックさんやばくないか?」
「あの白い女やべーよ。めっちゃ強え!」
「なんだ? あの魔力ナシの赤目女。悪魔かよ!」
観衆はアネマラの強さに驚いている。アネマラを悪魔扱いしている人もいるし、この人らは素直にアネマラを称賛できないのだろうか?
「お嬢さん。やりますねぇ」
「筋肉はまだまだアル。もっと鍛錬を積むアルネ」
「返す言葉もありませんね。これでも私はかつて『
「ただ、筋肉が大きいだけアル」
「それはお嬢さんにしてみればそうでしょうね。では、最後に必殺技を試させて貰いましょうか。果たして通用するか?」
「ケイ! 見とくアルヨ。『
「はい!」
仙術の奥義『
「二人ともおおおおお、ストップだべえええええ!」
突如、訓練場の入り口から大声がする!
「へ、変態アルううううううう!!!」
声の主は、麦わら帽子から覗く金髪の真っ白な歯を持つ爽やかな好青年の顔。畑仕事の後だろうか? 首にはタオルを掛け、右手には
なぜ筋肉がわかるかって? そりゃ、わかるさ。だって、このイケメンは股間を覆う布切れ以外の衣類を身に付けていなからさ。うん。アネマラの言う通り。変態だ。
「そんなに暴れられたら困るだべ」
「マスター! あなたと言えど、私とお嬢さんの決闘に水を差す真似は感心しませんな」
マ、マスター!? この超ド級のさわやかイケメンの変態がギルド長!? まだ若く見えるけど、僕よりちょっと上ぐらいじゃないか?
「何、馬鹿なこと言ってるだべ! 君ら二人が本気出したら、建物が壊れるにみ決まってるべ。いったい、修繕費いくら掛かる思ってるだべ!」
まごうことなき正論。そして、この喋り。ギルド長は田舎出身なのか? 強い人は基本的に魔力が高く、貴族出身であることがほとんどである。実際、グラドックさんも辺境伯の出自だ。この人にはそのオーラがない。いや、別のオーラは凄まじいが。
「何普通に話しているアルカ!? その格好何アルネ。変態アルカ?」
「これのことか? これは
「い、嫌アル! こいつ何アルカ? ケイ助けるアル!」
珍しくアネマラが怯えている。この堂々とした態度。やはり只者ではない。
「お嬢さん。すまないね。この続きは日を改めてでもよろしいか?」
「別に筋肉には恨みないアル。私はボルケーノ遺跡とアイスヘルの許可証が欲しいだけアルネ」
アネマラ!? もしかして、そこまで考えての行動だったのか? 僕は彼女の行動を浅はかだと決め込んでいた。馬鹿だったのは僕の方だったみたいだ。
「ふむ。なるほど。それで私と決闘を。パーティーは組んでいるのか?」
「私とケイの二人アル」
「二人だけなのか? まあ、二人ともそれだけの実力がある。そして、残念ながら君たちをよく思わない連中が多いのも事実だ。私たちの力不足で、申し訳ない」
「二人で大丈夫アルネ。他は邪魔アル」
「確かに君たちと比肩する者がなかなかいないのも確かだ。わかった。許可証は私が何とかしよう」
「筋肉はいい筋肉アルネ。気に入ったアルヨ」
決闘が終わり、僕たちは訓練場の外で落ち合う。
「アネマラ、ありがとう。まさかグラドックさんとの試合を許可証を貰うのに使うなんて思ってもいなかったよ」
「うまくいきそうで良かったアル」
アネマラは鼻を膨らませて、ドヤ顔を披露する。
「初めから計算して?」
「計算アルカ? なんとなくアル」
アネマラのことだ。本当に計算とか抜きにして、野生の勘みたいなもので動いたのだろう。
「ちょっといいべか?」
「ギ、ギルド長!?」
「へ、変態アル!?」
「君たち何だべ? 明らかに、グラドックより強い」
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