第11話 ギルド②

「これより、クロム・ヘッドリー対ケイ・シーフェドラの決闘を開始する。両者入ってきて」


 僕たちはギルドの館の隣にある石畳の訓練場に場所を移した。


「うおおおおお。決闘だ! 魔力ナシが出るらしいぞ。絶対負けるだろ」

「まぁ、魔力がない奴がどうなろうと知ったこっちゃないがな」

「それよりも次のカード、副ギルド長だって楽しみだな」

「どうやら白いのも魔力ナシらしいぜ。公開処刑にするのか? ちょっと、やることが教会じみてきてグラドックさんらしくない気がするが」


 はあ。ややこしいことになってしまった。ギルド内での喧嘩は、昔からの決まりで一対一の決闘で決めることになっている。当然、僕は決闘に出たことがない。


 ――数分前、ギルドの館の外にて


「ちょっと、アネマラ! 一体、どうしたんだ!?」


 僕はアネマラの一連の言動を問いただす。


「ハゲ達はケイを悪く言ったアル」


「そんなの相手にしていたらキリがないよ」


「嫌な気持ちになったアルヨ!」


 アネマラは僕に激しい口調で言う。


「はぁ、ダメだよ。アネマラ。あまり騒動を起こしては一緒に旅ができない」


「そんなアル……」



 そう言った経緯でアネマラはシュンと萎れている。ちょっと可哀想だったな。元はと言えば、僕を庇ったのが発端だ。言い過ぎた節がある。


「両者見合って!」


 クロムという男は体が大きいので、僕と並ぶとまるで大人と子供だ。筋肉はあるようだが、下腹がだらしなさを感じさせる。両手には武器である二本の長剣を携えており、殺傷力が高そうだ。


 去年までの僕なら対面しただけで恐怖したかもしれない。だが、今こうして威嚇されても、そういう感情は沸いてこない。むしろ、やりすぎないように気を付けなきゃとさえ本気で思ってしまう。


「うおおおおお! クロムううう! 魔力ナシなんか瞬殺してしまえええええ!」

「いや! できるだけ長くいたぶれえええええ!」

「つまらん試合をしたら承知しないぞおおおお!」

「ケイ! ハゲをぶっ倒すアル!」


 わかっていたことだが、ギルド内で僕の味方はいない。ただ、一つだけでも僕に声援があがるのが救いだ。あんなことを言った直後なのに、アネマラは僕を応援してくれいている。感謝しかない。


「ズラああああああ! がんばれよおおおおおお!」


「うるせっ! 俺はフサフサだ! ズラじゃねえ! 殺すぞ!」


 どうやら、ズラであることが噂になってしまったようだ。それに関してはウチのアネマラが申し訳ないことをした。同情の念を禁じ得ない。


「お前、あの目が気持ち悪い女の男か? あんなしょうもない女。魔力ない者同士で慰め合っているのか? 気持ち悪い奴らだ。」


 クロムはガンを飛ばしながら挑発してくる。そんな言葉は効かないと言いたい所だが、アネマラのことを悪く言うのは頂けない。ふつふつと怒りが込み上げてくる。


 きっと、さっきのアネマラもこんな気持ちだったんだろうな。自分のことよりも仲間を嘲笑される方が不愉快だ。やっぱり、後でアネマラに謝っておこう。


「レディイイイイイ! ファイトオオオ!」


「うおりゃああああああ! 死ねえええ!」


 クロムはフライングで僕に切り掛かって来た。意外にも風魔法の使い手みたいだ。頭をちゃんと接着できているのかが気になってしまう。そして、パワー系の見た目の割に、間合いを詰めるのが早い!


「もらったあああああ! ウインドスラッシュウウウウウ!!!」


 スパーーーーン!!!


「すまんなああああ! 瞬殺だああああ!」


 ……


「え? あ、あれ? あいつ何処だ?」


 クロムは辺りをキョロキョロと見回している。


「え、えええええええ! お前なんで魔力ないくせに浮いてやがるんだ!」


 ふう。ズラの人、容赦なく切って来たな。まともに喰らったら、大怪我どころじゃ済まないぞ。やはり僕のことは殺しても、問題ないということなのだろう。


 まあ、今の僕なら切られても大丈夫だろうけど。今日はアネマラから貰った、これを試させて貰う。


「どういうことなの? あの魔力ナシの坊や浮いているわ」

「空を飛べる魔導士って王国内で五人しかいないレアな魔法だぜ」

「しかも、変な武器を持っているぞ。赤い鞭? あんなしょぼいので戦うのか?」


 ギャラリーが少しざわつくな。あまり目立つのも良くないとは思うが、試してみたいことは山ほどある。


 宝貝ばおべい仙花鞭せんかべん』。アネマラが言うには鞭の打撃に毒を付与できるみたいだが、まずは毒なしで試してみよう。


龍螺撃りゅうらげき


 ビュン、ビュン、ビュン、ビュン、ビュン


「うお、危ねえ!」


 ズラの人にかわされてしまった。やはり動きが俊敏だな。射程距離は30mぐらいか。そこそこの間合いがある。あとは速さと正確性だが。少し慣れがいる。


 ビュン、ビュン、ビュン、ビュン、ビュン


「は、早い。近づけねえ。」


 どうやら、の練り具合によって速さや威力が変わるようだ。練習はこのぐらいでいいか。今回は、この神経毒で麻痺を狙わせて貰おう。


縛麻撃ばくまげき


 ビュン、ビュン、ビュン、ビュン、ビュン


 バァン! バァン! バァン! バァン!


「うげっ。痛えええええ!」


 なるほど、見た目は派手だが、威力は強くない。毒を付与することを前提とした武具だな。僕の毒の知識が直に問われる面白い宝貝ばおべいだ。


「うおおおおお、手足が痺れて動けねえええ。お前何をした?」


「何をしたって? 手足の自由を奪わせて貰っただけだ。今のはアコンの花の毒。この花は貴婦人の帽子を思わせる紫色の花だ。妖艶な大人の色気で相手を虜にするかの如く、身体の自由を奪う。とても趣深い毒とは思わないかい?」


 この毒の魅力を語る僕は、つい表情筋が緩んでしまう。


「何を言っているんだ! 気持ち悪い顔しやがって! 毒とか卑怯だぞ!」


 僕はゆっくりとクロムに近づく。


「フライングで切り掛かった君には言われる筋合いはないよ。それに僕は怒っている。もし、大切な人に手を出そうものなら、今度こそ容赦しない」


 僕は表情筋に力を込め、警告する。


「ひ、ひいいいいいい!」


気砲きほう


 ドゴオオオオオオオオオオン!


「勝負あり! 勝者、ケイ・シーフェドラ」


 顔は避けたとはいえ、ちょっとやりすぎてしまったな。クロムは失神をしている。そして、頭にあった被り物もフワリと宙に放り出されてしまった。


「……おい。あの魔力ナシ勝ちやがったぞ」

「クロムはシルバーでも上位の実力者だぞ」

「俺あいつに勝てる気がしねえ」

「なんであいつ魔力がない癖に魔法を使っているのよ。おかしいじゃない!」

「しかも、最後の威力もやばいぞ。訓練場の床がえぐれてやがる」

「クロムのやつ。やっぱり、ズラじゃないか。騙しやがって!」

「こいつ失禁してやがる! 汚ねえ!」


 会場がざわついている。やっぱり、ちょっと目立ち過ぎたな。不本意だが仕方ない。あのズラの人はアネマラに言ってはいけないことを言った。他の人もこれを見て懲りてくれたらいいが。


「ケイ、お疲れアル」


 アネマラは手拭いを渡しながら言ってくれた。


「アネマラ、さっきはごめん。言い過ぎた。仲間を悪く言われるのって腹が立つんだね。アネマラもこんな気持ちだったんだなって」


「わかればいいアル」


 アネマラは微笑んで答える。


「それと、アネマラから貰った宝貝ばおべいは僕と相性いいみたいだ」


「あれ本当に初めてアルカ? もう使いこなしてたアルネ。ケイは一体何者アルヨ」


「アネマラのおかげだよ」


「それより、最後ズラに何言ってたアルカ? 私のこと言ってた気がしたアルネ」


「うーん。気のせいだよ。それより次はアネマラの番だ。大丈夫だとは思うけど、副ギルド長もかなりの手練れだから気をつけて」


 僕は試合中に、ちょっと気恥ずかしいことを言ったと思い、誤魔化した。

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