第10話 ギルド①
――ゴールディア王国
「着いてしまったアル」
アネマラは僕の後ろにピッタリ着いてコソコソと王国を歩く。
「やっぱり苦手? 無理はしなくていいよ」
「大丈夫アルヨ」
そう言いながらも、キョロキョロしている。まるで、不審者だ。
「周りがジロジロ見てくるアル。不快アルヨ」
「それだけ変な動きをしていたら、みんな見ちゃうよ」
まあ、可愛い見た目も相まって視線を集めるのは確かだ。
◇
「冒険者ギルドに着いたよ。久しぶりだな」
「ここで何するアル?」
「僕たちはボルケーノ遺跡やアイスヘルに行く許可証を貰う必要があるんだ。だから、まずはパーティーを探してSランクを目指さないといけない」
「私はケイと二人がいいアル」
たしかに、パーティーの最低人数は二人だからそれも可能だ。その場合は、新規のEランクから初めて、Sランクまでランクを上げる必要がある。
そもそも僕たちは魔力がないから高ランクのパーティーに運よく加入できる可能性は低い。そうなると、まずはアネマラもギルド登録をしてもらう必要があるけど、厄介だな。
「わかった。それで行こう」
「いいアルカ?」
アネマラは目を輝かして言っている。
「とりあえず、その場合はアネマラもギルド登録をしてもらうけどいい?」
「もちろんアル」
「その際、約束して欲しいんだけど魔力がないことはバレないようにして欲しい」
「なんでアルカ?」
「この国では魔力がないことは色々と厄介なんだよ」
「わかったアル。私絶対言わないアルヨ」
◇
「こんにちは」
「あら。ケイさん! 無事だったんですね。心配しましたよ」
手を握りながら話してくれるのはソフィアさん。メガネをかけた黒髪おさげの若い女性である。ギルドの受付役だ。彼女は魔力がない僕にも分け隔てなく接してくれる貴重な存在だ。
(ケイ、この女いきなり何アル? 私この女苦手アルヨ)
アネマラが僕にそう囁く。人嫌いだから人見知りしているんだろう。ソフィアさんには仕事の斡旋でいろいろとお世話になるから、こればかりは慣れて欲しいのだが。
「あら? この綺麗な方。ケイさんの彼女さんですか? こんにちは」
「こんにちはアル。あなた見る目あるアルネ。私アネマラ言うアルヨ。よろしくアルネ」
綺麗と言われたからか、鼻歌混じりの上機嫌になってくれている。仲良くできそうで良かった。
「アネマラは僕の師匠なんです。ギルド登録して貰えますか?」
「いいですよ。では、これに手を当てて魔力を放って下さい。魔力を計測してくれます」
締まった! 一年前にはないシステムだ。
「これアルカ?」
まずい! 魔力がないことがバレてしまう。
『
パリン!
「ケイ。これ壊れたアルヨ」
……魔力を測るらしい球体は粉々に壊れてしまった。
「ええっ! 壊れちゃいました。すいません。怪我はないですか?」
「大丈夫アルヨ」
「ちょっと待っていて下さいね。せんぱーい! 魔力測定器が故障です!」
どうやら魔力がないことはバレなかったみたいだ。結果的には良かったのかもしれない。
「ちょっと、あれ『マグナスフレイム』にいた魔力ナシじゃない?」
「ああ、例の行方不明の。ホントだ。生きていたんだ。悪運だけは強いんだな」
「どうせ遅かれ早かれ魔獣の口の中だ。さっさとくたばれば良かったのに」
ああ、周りが気づいてしまった。面倒だな。この国で魔力がない人間への反応は基本的に二パターン。無関心か、疎まれるかだ。
特に教会に近い人たちが蔑んで来る。国教『ヘクサエレメンタ教』は魔力そのものが神だ。だから、魔力がない僕たちは神に見放された異端として差別される。
「アネマラ。こういうのは気にしないようにして。僕は全然気にしていないから」
「そこの姉ちゃーん。そんな魔力ナシといないで俺のとこのパーティーに入りなよ」
「お断りアル。あなた達何アルカ? ケイのこと悪く言って不快アル」
やってしまった。僕は手を額に当てながら思う。
「アネマラ! いいから!」
僕はアネマラを制止しながら言う。
「よくないアル! ケイのこと悪く言うやつ私嫌いアルヨ」
「なんだと。少し顔がいいからって調子に乗りやがって」
「私も魔力ないアル! それがどうしたアルカ? あなたは髪がないアルヨ」
「ふざけんな! 俺はフサフサだ!」
「面妖な帽子の下のことを言ってるアルカ?」
「ぷっ。ちょっともしかしてアイツ」
「ダメよ、笑っちゃ。可愛いそうじゃない」
「やっぱりズラか! 騙しやがって」
アネマラのやつ、速攻、魔力がないことばらしているじゃないか! しかも、余計な事言ってギルド内がざわつき出してしまった。
「あん! お前何を根拠に言ってるんだ! 泣いて土下座しても許さねぇ! 生きていることを後悔させてやるよ! 気持ち悪い目をしやがってよ!」
「ちょっと、そこまでにしとけ!」
「ふ、副ギルド長。戻っていらっしゃっていたんですね」
助かった。割って入ってきたのは筋骨隆々の大男。体には歴戦の傷が刻まれている。グラドックさん。去年まではギルド長だったが、世代交代をしたのか?
以前通りなら土の魔導士の序列二位。五十歳という年齢でこの実力は化け物レベルである。ギルドを長年支えてきた大黒柱的存在だ。
グラドックさんに言われて、ズラの男はオドオドしながら副ギルド長に従う。
「グラドック副ギルド長ありがとうございます。僕たちも言い過ぎました」
僕はグラドックさんに、まず感謝の意を伝える。
「ケイ、そんなことないアルヨ。そいつらが悪く言うのが悪いアル」
「一部始終は見させてもらった。お嬢ちゃんの言う通りだ」
「そうアル。話がわかる筋肉アルネ」
「ア、アネマラ。その人偉い人だからもっと敬った言い方を」
僕はこそっと言うが、興奮しているのか聞こえてないように見える。
「だが、お嬢ちゃん。残念ながらここは冒険者ギルドだ。強い者だけが正義。強ければなんだっていい。そういうところだ。自分の正義を貫き通したければ強くあることだ」
「私、強いアル。ケイもそこらのハゲ達より百倍は強いアルヨ」
な、何を勝手に!?
「なんだと、俺たちはシルバークラスだぞ! ブロンドのしかも魔力ナシが俺たちより強いわけがないだろ!」
顔がトマトみたいな赤になっている。相当ご立腹しているみたいだ。
「と言われているが、二人ともどうするかい? 腕に覚えがあるようだけど、己れを貫くため決闘をしてみるか?」
ふ、副ギルド長何を言っているんだ!?
「いいアルヨ。決闘するアル」
「ちょっと、アネマラさん自重を」
「いい心構えだ」
「は? 魔力ナシの分際でか? 俺に盾ついたことを公開させてやる!」
ズラの人は目を見開いて僕たちに威嚇してくる。
「私そんなハゲとの相手嫌アルヨ。ケイが決闘したらいいアル」
「え? ちょっとアネマラ!?」
「ふん! 今頃になって怖気付いたか」
「私は筋肉のおっさんと決闘したいアルヨ」
「ほう。私と戦いたいと?」
「アネマラさん。ちょっと落ち着いた方が……」
「いいだろう。勇敢な少女。名前は?」
「アネマラ・ヘナプラスター言うアル」
「いいだろう。本日、ギルドの規則に従い決闘を執り行う。対戦カードはクロム・ヘッドリー対ケイ・シーフェドラ。そして、私グラドック・アイアンフィスト対アネマラ・ヘナプラスターだ」
あれ? おかしいぞ? 僕たちは穏便にギルド登録をしようとしただけなのに決闘をする羽目になってしまった。
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