第4話(閑話)傲慢の代償①

「ハッハハ。これで『マグナスフレイム』は全員序列持ちプラチナランクのメンバーだ。ようやく真のSSSトリプルエスパーティーになったな。初めからあんな奴、こうしておけば良かった」


 俺様はエンバル・フレイムハート。火魔導士の序列二位だ。公爵家嫡男という家柄で魔導士として才覚のある俺様は、いずれリコリス女王を娶る予定だ。そして、このゴールディア王国の王になるのに相応しい。


 二年前に俺様は『マグナスフレイム』を結成した。その際、即位前の女王のパーティーの遠征に一回だけ加わったケイあいつが移籍することになった。


 同世代の実力者を探していた俺様は、女王の「非常に使える男がいる」という言葉を鵜呑みにしてしまった。入れてみたら、まさか魔力を持たない奴だったとは。最悪だ。


 ケイ魔力ナシは戦えるとほざいていたが、邪魔されても困るので雑用をさせた。所詮、魔力ナシは奴隷のようなものだ。それが俺様たちと冒険できて、さぞ御満悦だったろう。


 しかも、薬師のくせにポーションを全く使わない。古臭い薬草ばかりで俺たちは迷惑していた。「こっちの方が効くから」と戯言をほざいていたが最新のポーションに敵うはずもなかろう。


 今は実力派白魔導士のアリエルが仲間になり、ケイ無能の存在意義は完全になくなった。今頃は魔獣の腹の中だろう。俺様の『マグナスフレイム』の格を落とした罪は重い。


「薬草臭いのに解放されて晴れやかですわ。それにしても別れた時の顔、本当にダサかったですわね」


 黒魔道士のミリアーナ。少々お洒落にうるさい所があるが、スタイルがいい。俺様の愛人として置いておかんでもない。


「ギャハハハ、本当にダサいよねー。もうストレス溜まりまくりー。ガイアンなんてよく相手にしてあげれたね。逆に尊敬するわ」


 空中格闘家のセレスティア。こいつは口が悪いが、顔はいい。俺様の愛人候補としてそばに置いてやっている。


「そう言うな。女王への義理立てだ。それにエンバルの指示もある。お前みたいにあからさまな態度は取れんだろ」


 パーティーの盾役、ガイアン。こいつは人が良さそうに見えるが計算高い男だ。俺様に忠実なのがいい。


「先輩たちー。荷物重いです。もっと分担して持って欲しいです」


 新人の白魔導士アリエル。俺様好みの童顔巨乳。そして、教会側の人間だ。俺様としても教会とは仲良くしておきたい。今回、ケイを追放する発案もこのアリエルによるものだ。教会は魔力がない奴にヤケに厳しいからな。


「アリエル、お前がここで追い出そうと言ったんだから、お前が持つのが当たり前だろ!」


「そんなー。これ一人で持つ量じゃないですよ」


「すまないな。俺には大斧アースガルドアックスがあるから、少ししか持ってやれない」


「そうよ。私たちだってちょっと荷物持ってあげているじゃない。ケイあいつは全部持ってたじゃん。」


「ホント、荷物持ちなんてダサいこと嫌ですわ。汗でびしょびしょ。早く帰ってシャワー浴びたいですわ」


「先輩たちー、ケイさん何もしていないから追い出しても問題ないって言ってたじゃないですか」


 くそ。ケイあいつどうやってこれを持っていたんだ。みんなで分担してやっとじゃないか。何かトリックがあるに違いない。地位の低いやつは、妙に小賢しいところがあるからな。


「そうでしたっけ? それよりも汗かいたから薬下さい」


「薬? 何のことですか?」


「薬って言ったら、汗の薬に決まっているじゃない」


「そんなポーション聞いたことないです」


「ケイはいつも丸い玉をくれたわよ」


「そんなの知らないです。それにケイさんの薬は全部捨てました。今時ポーションじゃない薬ってありえないです」


「はあ、なんで用意していないの?」


「ポーションなら最高級のものを選り取り持ってきますよ。ただ、汗の薬なんて聞いたことないです。気のせいじゃないですか?」


「なんなのよ。全くですわ」


 くそ、ミリアーナ巨乳が頬を膨らませて拗ねちまったじゃないか。これも全部ケイあいつが悪いに決まっている。


「それよりお腹すいたー。アリエルご飯にしてー」


「それも私ですか? 仕方ないですが、材料を下さい」


「エンバルー。材料はー?」


「俺様は知らねえよ。ガイアン、ケイあいつから食料も奪ったんじゃないのか?」


「いや。あいつは持っていなかった」


「はあ? じゃあ、あの肉とか野菜はどこから出てきたんだよ?」


「えー私も知らない。もしかして、自分で狩ったとか?」


「そんなわけないだろ! いつもアルミラージとかの肉が出ていたぜ。シルバーランクで互角だ。ケイブロンドランクならもっての外だろ」


「それもそうだな。だが、あいつのカバンの食料は、緊急用の保存食しかなかったのは事実だ」


「あー。それは私が食べちゃったです。おいしかったですよ」


「アリエルてめぇ」


 くそ。どういうことだ。ケイあいつは、俺たちを困らせようと食料を隠したのか? どんだけ、俺様たちに迷惑をかければ気が済むんだ。全く、腹の虫が治まらねえ。


「それより、ここどこー?」


「は? 地図があるだろ」


「地図はあるけど、ここがどこかわからないと意味ないじゃない」


「お前飛べるんだから、それぐらい見ればわかるだろ」


「無理だよー。だって見渡す限り木だよ。わかりっこないって」


「せんぱーい。こっちにケイさんが付けた印があります。ここ、たぶんDYの125地点です」


「良かったな。セレスティア。これで場所がわかる」


「無理無理―。場所がわかっても方角がわかるわけないじゃん。ミリアーナ助けてー」


「たしか、コンパスがあったはずですわ」


「すまない。これは役に立ちそうにない」


「はあ!? なんでコンパスがクルクル回っているのよ」


 何が起きているんだ?たかだか、役立たず一人がいなくなっただけで混乱しているというのか? そんなことないはずだ。きっと、慣れていないだけで、慣れればすぐにうまく回るはずだ。


「そんなことよりも、今日は虫が多いですわね。私、とても不快ですわ」


「そうですか? 『コーロー山』はいつも虫が多い所です」


「はあ、そんなことないわよ! 今まで虫なんてほとんどいなかったですわ」


「たしかに、今日はやけに虫が多い」


「ちょっとー。空も虫だらけなんですけどー」


「ほんとですか? そんなハズないですけど」


 なんなんだ今日は? よくわからないトラブルが続くじゃないか。もう、ケイあいつが怨霊となって出てきているというのか?


 くそ。癪だが、今回はホワイトマオタイガー諦めるしかない。コーロー山の魔獣は強い。ホワイトマオタイガー以外にも超特級の魔獣の報告が密かに入っている。


 そのときは、SSランクパーティーが無惨にも全滅したそうだ。そいつに遭遇したら負けはしないだろうが、こちらもある程度犠牲を覚悟しないといけない。


 せっかく、気分よくケイあいつを追い出したはずなのに。いても、いなくても俺様を苛立たせる。


「お前ら、今日はなぜかトラブルが多い。一旦、王国に戻ることにする」


「だから、帰り方がわからないんだってー」

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