3-猪瀬ー陸と京極様の出会い
貴嗣様が青島を睨んでいる。正確には青島の携帯をだ。
青島の秘密の婚約者とやらの素性を探ろうと少量のアルコールと貴嗣様の催眠で口を軽くさせようとしたのに、我々にとって最悪のタイミングでスマホがなった。青島の催眠状態が解かれてしまったのだ。
表示は『父』。だが、このタイミングでかかってくるものなのか。婚約者が青島のスマホと同機させて音を拾っているのでは?
婚約者に関しては、完全に秘匿にしている青島だ。婚約者の表示を別名にしている可能性がある。
「出ろ」
貴嗣様が低く命じる。青島と話させるのも嫌だが現在の情報が皆無な状態よりはましと判断されたのだ。少しでも婚約者の情報を得なければと、耳をすませるが……表示通りに父親で肩透かしだった。
貴嗣様はというと、優しい目で青島を見ている。貴嗣様の表情の変化に気がつくのは長年仕えている私と……青島位だろう。青島は人の表情をみるのが上手い。ただ、貴嗣様の表情の変化の一部は、青島の事でしかおきてない、その事実を青島は知らない。
6月の頭だった。
気分転換にと貴嗣様がお一人で大学の図書館に向かわれたのだ。
一時間後、我々の元に戻って来られた貴嗣様は覇王の気を纏っていた。
運命に出会われたのだと、皆一目で理解した。
「今日の17時から18時の間で図書館にいた者を調べよ」
命じられて、即座に私の部下が動いた。
元々、この大学にΩは、否、Ωもβも少ない。捜索はすぐに終わると思われていた。だが、一週間経ってもそれと思しきΩがいなかった。
貴嗣様の苛立ちは凄まじく、上位αである側近の私達でさえも、物理的に息苦しくなっていた。
運命に会えば、αは変化する。そして共にいれないと落ちる。カンフル剤、否、コカインのようなものだ。運命の番は、αに極度の高揚とエネルギーに満ちた感覚を与え、精神的覚醒状態を促す。一方で、それと離れれば
なんとしてもと思うのに、遅々として進まない。
ある日、貴嗣様に中間報告を求められた。報告してこないということは何も判明していないという事。それが分かっていながら、私達に報告を求められたのだ。つまり叱責だ。
その圧に、側近ですら、絶えられなかった。失神する者までいた。
「私はΩのみを調べろとは命じていない」
バース関係なく首実検を行い、そしてたどり着いたのが青島だった。
下位も下位のα。
何かの間違えではないかと思った。
けれど青島と再会した貴嗣様の変化が、全てを物語っていた。
覇気を纏った貴嗣さま。
貴嗣様の離脱症状をみた我々にとって、青島は無くしてはならない者になった。
なのに
青島には婚約者がいるという。許されるものではない。当然、処分の方向で動くが、なんの情報もえられなかった。
京極のネットワークですら情報が取れないのなら、青島の脳内婚約者なのではという疑惑まで出てくる。
だが………
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