第7話 演技の時間

 店に入ると、店内はあちこちに置かれたランプの明かりでオレンジ色に揺れていた。

 

 薪ストーブが何台か置かれているため、店内は暖かだった。お客の数は、ざっと見た所20人前後だろうか?


「へ〜。何だか隠れ家的な多国籍風居酒屋って感じで雰囲気がいいかも」


壁も床も天井も板張りで、木の温もりを感じさせる。


「君の言う多国籍風居酒屋っていう言葉の意味が良くわからないけれども……こんな店に来るのは僕、初めてだよ」


ハンスはどこか緊張した面持ちで囁いてくる。……確かにお金持ちそうなお坊っちゃまには敷居が高い店かもしれない。


「大丈夫です、私に任せて下さい。堂々としていればいいんですよ」


「随分頼もしい事を言ってくれるんだね。ソレじゃ、全て任せるよ」


2人でコソコソと話をすると、カウンター席へ向かった。


「おや? お客さん達……ひょっとしてまだ未成年じゃないの?」


カウンターに立っていた男性店員が早速私達に目をつけて話しかけてきた。


「いえ? こう見えても私は20歳ですけど?」


アンナの年齢は知らない。外見は未成年のように見えるが、そんなことは知ったことではない。


「え? そうなの?」


ハンスが口の中で小さく呟くが、そこはスルー。


「20歳〜? とてもそうは見えな……え?」


そこで男性店員は口を閉ざす。何故なら私がフードを外し、着ていたコートを脱いだからだ。

身体にピッタリとフィットし、胸の谷間を強調するかの様なドレス。


このグラマーな身体を目の当たりにすれば、未成年には見えまい。化粧だってバッチリしている。妖艶な美女に……見えないこもない。


隣に座るハンスでさえ、私に見惚れてるかのようにポカンと口を空けている。


「どう? これでも20歳には見えない?」


「い、いえ……見えます……それで、何を飲まれますか?」


男性店員は、私達に尋ねてきた。


「そうね。それじゃメニューを見せて」


私の言葉に男性店員はメニュー表を差し出してきた。そこで私とハンスは無難なところでホットレモネードを注文すると、早速行動に移すことにした。


「ハンスさん、今から私とあなたは恋人同士のフリをするので話を合わせてくださいね」


そっとハンスの耳に耳打ちする。


「こ、恋人同士?」


途端にハンスの顔が真っ赤になる。う〜ん……なんてピュアなのだろう。

さて、それでは早速始めよう。


「ねぇ、ハンス。私ね、面白いゲームを考えついたの。挑戦してみない?」


「え? ゲーム? 一体どんなゲームなの?」


全く打ち合わせをしていないためか、ハンスは演技を抜きにして本気で興味を持っているようだった。


「ええ。とっても面白いゲームよ。これを使ってね」


そして私はハンスが買ってくれたハンドバッグからマッチ箱を取り出した――

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