第8話 お買い上げ、ありがとうございます

「マッチでゲーム? 一体どんなゲームなの?」


ハンスは演技抜きに、本気で興味を示している。その証拠に目がキラキラ輝いているのだから。


「いい? ハンス。マッチというのはね、ただ火をつけるためにあるわけじゃないのよ? 色々なゲームが出来るのだから」


マッチをテーブルに並べながら、ハンスに語る。


「お待たせいたしました。ホットレモネードをお持ちしました……おや? お客様。一体何をされているのです?」


タイミング良く男性店員が飲み物を持って現れた。チャンスだ!


「ええ、ちょっとしたゲームをやってみようかと思っているの。一緒にどうですか?」


私は4本のマッチ棒をテーブルの上に並べると、予め用意しておいたナッツを置いた。


「「……?」」


ハンスと店員は不思議そうに並べたマッチを見つめている。そこで私は2人に尋ねた。


「さぁ、2人とも。この形をチリトリだと思って考えて頂戴。このマッチ棒を2本だけ動かして、ナッツをチリトリから出してみて」


そう、これは……知る人ぞ知るマッチ棒クイズ。基本中の基本、チリトリからゴミを出すクイズなのだ。

早速、2人は頭を悩ませ始めた。


「ええ!? マッチ棒を動かしてナッツを出すの?」


「そんなこと出来るはず無いじゃありませんか!」


ハンスも店員もテーブルの上のマッチを凝視しながら、考え込んでいる。


「そんなこと無いわよ〜。方法さえ分かれば簡単なんだから」


私は2人の様子を見ながら、ホットレモネードを飲んだ。うん、甘くて美味しい。


「ねぇ、ナッツに触れたら駄目なんだよね?」


「ヒント! ヒントを下さいよ!」


カウンターテーブルを覗き込んでウンウン唸っている2人に興味を持ったのか、店内にいたお客がワラワラと集まり始め、いつの間にか店の人たち全員が集合していた。


「ええ? 何だって? ナッツをここから出すのか?」


「マッチを2本だけ動かして出すなんて不可能だろう?」


「おい、俺にちょっとやらせてくれよ! ほら、出せたぜ?」


「嘘言うな! お前、今ズルしてただろ!」


フフフ……私の狙い通りだ。もはやテーブルの上は大盛りあがり。誰もがチリトリクイズに悩んでいる。

しまいに人々は次々と降参し始めた。


「あ〜!  駄目だ! 全く分からん!」


「降参だ! 答えを教えてくれよ!」


「俺にだけ、俺にだけ教えてくれないか?」


いやはや、もう大騒ぎだ。そこで私は声を張り上げた。


「はい! 時間切れです! では、私が正解を見せてあげます! 皆さん、よーく見ていてくださいね?」


全員私の言葉に大きく頷く。


「はい。ではいきますよ〜」


私は早速2本だけ動かして、もののみごとにナッツをチリトリの外に出してみせた。


『おぉ〜!! すごい!!』


全員が歓声をあげる。


「そんな斬新な方法があったなんて!」


「すごい! 感激だ!」


「他の連中にも教えてやりたいぜ!」


そこですかさず、私はマッチ箱をテーブルの上に置いた。


「皆さん、これはマッチ棒ゲームと言って、マッチでしか遊べません! どうです? 今のゲーム、知らない人たちに教えて自慢したいと思いませんか?」


するとその場にいた全員が大きく頷く。


「では、このマッチを1箱1500円で販売させていただきます。欲しい方はいらっしゃいますか?」


「くれ! 売ってくれ!」


「俺も買うぞ! 皆に教えてやるんだ!」


「1箱……いや、2箱売ってくれ!」


こうして、皆我先にとマッチを買っていき……持参してきたマッチは全て完売することが出来たのだった――

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