第40話 この人の子が羨ましい

「じゃあ今日はお寿司の出前でも取りましょうか。折角2人が来ているし。」


 母が手を叩いてそう言った。


「あ、私は遠慮しとくよ。明日朝早いんだよね。もういい時間だし帰ろうかな」


 私はすかさず断りを入れた。勿論、寿司は食べたい。死ぬほど食べたい。が、家族といる途中抜けて『セカイの敵』を倒しに行くリスクを背負ってまで食事をしたいとは思わない。毎度訳のない言い訳をするのが辛い。


 今日はまだ奇跡的に1度しか呼び出しをくらっていないがこの後はわからない。


「そんなに忙しいの?お休みの日に電話がかかってきたり…バイトなのに働きすぎじゃない?」


 少しムッとした表情で母が言った。

 母はバイトをしたことがないタイプの人のため、イマイチそのあたりのことがわからない人なのだ。今日日、バイトにだってそれなりの責任がある仕事をさせるところも多い。


「まぁまぁ。ミコにも色々あるんだって。そう言うなよ母さん」


「もう…」


「俺は食べたいからさ!兄さんもそうだろ?いつも注文するとこのだよね?俺電話しようか?」


 理人くんが話の方向を無理やり変えてくれたおかげでこれ以上話が広がらずに済んだ。


「じゃあ、私車で私が駅まで送るよ。来るときは奏斗が送ってくれたし。」


 抱えている奏月ちゃんを奏斗くんに渡しながら言った。


「ミコトちゃん。行こう?」


「あ、はい…!」


 ーーーーーーーーーー


 私は葉月さんと一緒に車に乗り込んだ。


「正直に言うとね。ミコトちゃんはちょっとお家が居心地が悪いのかなって思ってて、そんな中でも来てくれて嬉しかったの」


 本音の部分を言い当てられてどきりとする。私はそんなに分かりやすいのだろうか。今更隠したところで仕方がないので「…まぁそうですね、でも赤ちゃんと葉月さんに会いたかったので…と」言った。


 すると葉月さんははにかみながら「ふふ。嬉しい」と小さく言った。

葉月さんは車のエンジンをかけながら話を続ける。


「こんなことはミコトちゃんもわかってるとは思うんだけどね。お義母さんも心配してて、ただただミコトちゃんが可愛いだけなんだよ。ちょっとそれがミコトちゃんにとって居心地が悪いかもしれないけど。」


「…。はい」


「あ、でもね、可愛いいからと言って何をしてもいいとか、相手の気持ちを推し量らなくていいって言いたい訳じゃないの。ミコトちゃんも相手からのどう思われて居ようが嫌なものは嫌だもんね」


 思わず目線を葉月さんに送る。

 兄達も恐らく私の居心地の悪さに気付いている。その上で「気持ちは察するが、母さんも可愛いがってるのが空回っているだけなんだ。許してやってくれ」と言うのだ。こんなふうに嫌なことは嫌だよね。と言ってもらったのは初めてだった。


「だからね、私はミコトちゃんが来るのが辛いようだったら無理に帰ってこなくていいと思うんだ。正月でもお盆でも。ミコトちゃんが帰って来たいと思える時までね」


葉月さんはハンドルを切りながら淡々と、でも優しい声色で話しを続ける。


「でもね、そうも言いながら、私は偶にはミコトちゃんに会いたいなって思うの。だからお母さんにも言わずにこっそり連絡を頂戴。私と奏月の3人でこっそりデートしよう」


ちょうどそう言い終わったあたりで駅のロータリーに車が到着した。葉月さんの顔を見るといたずらっ子のような笑顔を浮かべていた。


「ミコトちゃんの気が向いた時に連絡ちょうだい。いつでも待ってるから」


「はい…。きっと必ず連絡します」


 正直なところ魔法少女をやっているうちは連絡をすることはないだろうけれど、もし私が自由に出かけられるようになったら1番最初にこの人に連絡をしたいなと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る