第35話 母の望む装い
義理の姉・葉月さんはとてもできた人だ。
頭が良くて、綺麗で、良いところに勤めていて。それでいて優しくて気が付く人。結婚挨拶の時に会った葉月さんのご両親も素敵な人だった。
そんな人と出来のよい兄の娘だ。きっと良い子に育つだろう。私みたいな突然変異体でないことを祈る。
ふと“女の子”であることが引っかかる。
「ねぇミミィ。姪っ子が生まれたんだけど。その子魔法少女にしようだなんて思わないでね。」
念の為釘を刺しておく。魔法少女になって人生を破滅させる人間が親族に2人もいてたまるか。私の親族なら魔法少女の適性が高いことも十分にありあえる。
この世で一番必要の無い才能なのだ。持っていないことを祈るしかない。
「ミミィは思わないけど、他の妖精はわからないミィ〜。セカイの敵を全員倒すか、ミコトがならない様に目を光らせるくらいしか対処法は無いミィ〜。可愛い姪っ子のために頑張ってミィ。おばさん。」
普段は子供呼ばわりされていて不快な気持ちにさせられているが、急におばさん呼ばわりされるのも腹がたつ。姪っ子には“ミコちゃん”と呼ばせるように教育しよう。今決めた。
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母の連絡から1週間と少し。約束していたお見舞いの日が来た。
いつも通りにタバコを吸って朝食を取った後、私は家中の窓を開けて換気を始めた。
そして今日着て行く予定の洋服に消臭スプレーを降りかける。
これは母が昨年の誕生日に「ミコトちゃんにも他所行きの綺麗なお洋服が必要かと思って」とプレゼントされたものだ。アイボリーでAラインのシックなワンピース。おそらく3,4万円くらいする。
母は私の好きな洋服はお気に召さない様なので、会う時は母の選んだ洋服を着るようにしている。それが一番面倒くさくなくて良いのだ。
換気をしたままシャワーを浴びる。
母親はとても鼻が良いためタバコの匂いにすぐ勘付くのだ。前回会った時は洋服や髪の毛に残っている匂いで勘付かれた。その時は「時間を潰すために入った喫茶店で喫煙席しか空いていなくて」という言い訳で乗り切ったのだが、今回はもう使えない。
しばらく干しておけば匂いもだいぶマシになってくれることだろう。きっと。
正直なところタバコを吸いすぎて臭いがするか、そうでないかがもう分からなくなってきているのだ。
シャワーを浴びて髪を乾かし、整える。耳たぶにいくつか開いているピアス穴も隠して、ナチュラルなメイクを施す。
私の趣味で言えば、耳にたくさんのシルバーのピアスをつけて、メイクはアイラインをキッと吊り上げて、キラキラのアイシャドウで飾る所謂かっこ良いファッションが好きなのだが、母はどうにもお気に召さないらしい。
振る舞いだけでなく見た目まで尖って、これ以上肩身を狭くするのは賢いとは言えないので母の受けの良いように身支度を整えた。最後に全身を鏡で確認する。
母の望むように装った私はいつも以上に幼くて弱く見えて嫌いだ。
実家までは電車で1時間。そろそろ出発の時間だ。
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