第33話 この動画は一生拡散される
「ねぇミコトさん。昨日の光の柱見ました?」
休憩室で菓子パンを齧っていたら久留米ちゃんが話しかけてきた。またその話題か。店長と違い彼女相手にバッサリ話を切るのは気まずい。
「…見てないよ。」
「見てないのか〜。私見たんですけどヤバかったですよ。夜なのに急に空が明るくなって。で、また段々暗くなって…いやまじで、世紀末かなって。」
久留米ちゃんは昨日みたテレビ番組の話をするような軽さで笑いながら話していた。
「ふ〜ん。そりゃすごいね。」
私は変に反応しないようにと思いすぎるあまり、心底興味がなさそうな声が出てしまった。
「やだ、ミコトさん興味なさそうすぎる。」
久留米ちゃんはカラカラと笑いながら私の肩を軽く叩いた。久留米ちゃんは私の横の椅子に腰掛けながら話を続ける。
「にしてもあれってなんだったんですかね。テレビで有識者が、季節外れな時期に雪とか霰が降ったりする異常気象的なものって言ってたりしたんですけど。急に空が光るって異常気象とは関係ないですよね。」
「だね。よくわかんないね。」
あれは私が撃ったビームでただの超常現象です。そう説明できれば一生懸命この世の理の中であの事象の説明をしようとしている専門家たちの手を止めさせてあげられるのに。研究するだけ無駄なのに…。優秀な頭脳をそんな無意味な研究に割くな。
「あ、あとネット上では陰謀論も騒がれてて、政府が何かしらの兵器を開発していて、それが暴発した〜みたいな説もあるそうですよ。無茶苦茶ですけどこっちのが地に足ついてますよね。解釈として。」
「…そうだね。」
陰謀論。こちらもスケールがでかい。そして異常気象以上にタチの悪い解釈である。何せ黒幕がいる解釈なのだ。働いているうちに気が紛れていたが再び胃がキリキリと傷み始めた。
「あ、私出勤の時間になりました。先に行きますね〜。」
「いってらっしゃい。」
久留米ちゃんはタイムカードを打刻して厨房の方に入って行った。
私は休憩室で一人になったのを確認してカバンの中にいるミミィに声を潜めて話しかける。
「とんでもないことになったんだけど。どうしよう…。」
するとカバンの中から小さく「ミィ〜。」と鳴き声がした。
ミィ〜じゃねぇよ。ミィ〜じゃ。鳴いてる場合じゃないよ。
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