第22話 大倉くん、案外まとも
今日は主婦パートの源さんがお子さんの体調不良により急遽欠勤になってしまったため死ぬほど忙しかった。ギリギリの人員でしかシフトを組めないのは本当に辛い。店長、ちゃんとスタッフ募集してくれ。平日じゃなかったら終わってたぞ。
閉店30分前、ラストオーダー15分前。現在時刻は21時半。
このままラストオーダー直前の注文を受けずに今日を乗り切りたい。
この時間のスタッフは厨房担当の大倉くんと配達担当の小崎さん。
店長は裏で何かしらの事務作業をしているようだ。何をしているかは知らないが。もう一件配達が入ったら店長に行かせるしかないな。
今日の総労働時間は10時間。配達や立ち仕事がメインの業務のため流石に疲れた。作業を進めてはいるが完全に集中力が切れてしまう。
こんな時は後輩と雑談でもしてみるかと思い大倉くんに話を振った。
「大倉くん、もう仕事は慣れた?」
「はい、割と。」
「初めてどんくらい経つっけ?」
「やっと2ヶ月ぐらいっすね。」
「ふーん。早いね。もうそんなもんか。」
お互いに作業の手は止めずに会話をする。人と話してるだけで体の疲れが若干気にならなくなるような気がする。このまま残り30分乗り切りたい。
「笹島さんは何年くらいここで働いてるんすか。」
「あ〜私?3年くらいかな。」
「へ〜。意外と短いんすね。仕事、めちゃくちゃ詳しいからもっと長いんだと思ってました。」
「うーん。まぁ結構出勤してるからね。それに店長あんな感じだし。」
私がそう言うと大倉くんは小さく「あぁ…。」と漏らした。店長は悪いやつではないが使えないのだ。
「そういや大倉くん大学生だっけ?どこ行ってるの?」
「あ、早川稲大の理工学部っす。」
名門…。こいつこのチャラついた感じで頭いいのかよ。せめて大学デビューであれ。そんな大学行っているならもっと割りのいいバイトあるだろうよ。
「え。めっちゃ勉強できるんだ。だったらもっと割りのいいカテキョのバイトとかにしなかったの?」
「あ、いやカテキョもやってますよ。ただ社会経験としてこういうバイトもやっといた方がいいかなと思って始めただけっすね。」
「ふ〜ん。なんでピザ屋なの?」
「接客業はしてみたかったけど、ずっとそれだけの仕事は無理だなと思ったんすよ。俺、人見知りだし、愛想マジでないんで。その点ここだといい塩梅かなと思ったんすよね。」
「へ〜。結構色々考えてんだね。」
「っす。」
入りたての時は、本当に何を考えてるか分からない面倒なやつかと思ったが、慣れてきたら意外と気がつくし意外と真面目に働く。
「今でこそちゃんと働いてくれるけど、入ったばっかの頃は客に口答えするし、やべーやつかと思ったよ。」
「はは…。マジであの時はテンパっちゃって。冷や汗ダラダラだったすよ。やべーこと言っちゃったなと思って。」
「マジでそういうの顔に出ないよね。」
「自分的には普通に悪いと思ってるし、申し訳ない顔をしてると思ってるんすけどね。」
話に一区切りついたあたりでアラームが鳴る。ラストオーダー終了の時間だ。
「お。ラストオーダー乗り切ったね。締めの作業しよう。」
「っす。」
さっさと終わらせて帰ろう。と言って私たちはまた無言で各々の作業に戻った。
大倉くんがいいやつで良かった風に会話を終わらせてしまったが、初対面の時に中学生呼ばわりしたの私は忘れてないからな。
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