第9話 るるちゃんの献身と保身

 るるちゃんが涙ながらに話す内容をまとめるとこうだ。


 るるちゃんと麻倉さんは幼馴染で大の親友らしい。

 麻倉さんは小学生の頃から勉強も運動もできて社交的。常に人の輪の中心に居てみんなの憧れ的な存在だったそうだ。


 2年前のある日、2人で下校していると何かに尾行されている気配を感じ、いろいろ調べた結果、妖精のポポィが麻倉さんに魔法少女の適性を感じて調べて回っていたらしい。るるちゃんは魔法少女についていろいろ尋ねた末、将来きっと何にでもなれる可能性を秘めた麻倉さんにそんな生活をさせる訳にはいかない、未来の選択肢を狭めさせたくないという思いから自分が魔法少女になって働く変わりに麻倉さんを勧誘するのはやめてほしいとポポィに交渉。それ以来、麻倉さんの代わりに陰ながら魔法少女として頑張っていたそうだ。なんという献身。


 それなのにある日、麻倉さんの知らぬ間に何処ぞの馬の骨とも分からない魔法少女に憧れ、魔法少女になっていた。強化指定選手になるくらい強かった剣道もすっぱりやめて、魔法少女に専念すると言う。るるちゃんのこれまでの頑張りは水の泡。発狂して私に八つ当たりしに来たというわけだ。


 一通り聞いた上でも私に言われてもといった感じである。というか代わりに魔法少女になるとかどんだけ麻倉さんの事好きなんだよ…。親友の域を超えてないか?と思いながらちらりとるるちゃんの方に視線を向けると


「貴方のせいです。」と真っ赤に腫らした目でこちらを睨め付け、吐き捨てるように言った。


「いや、私のせいじゃなくて麻倉さんの妖精のせいじゃ…」


「貴方のせいよ…。」


「はぁ…。で何。私のせいって言うためだけにわざわざ待ってたの?だったら私帰るけど。」


 話が進まずイライラしてしまい、つい大人気ない態度をとってしまう。中学生ってこんなに話が通じない感じだったっけ…。


「違う。ちゃんと話があるわ…。」


「じゃあ何。」と聞くとるるちゃんはベンチから立ち上がり私の前に仁王立ちをし、私の目をまっすぐ見据えてこう言った。


「私とさっちゃんがピンチになったら助けに来て。」


「は?」


「この前みたいにピンチになった時電話するのでかけつけて。」


「え、やだよ。自分で討伐できそうなレベルのを選んで戦ってよ。」


 なんなんだこの子は。終始、言ってていることが無茶苦茶だ。そして何故そんな不遜な態度でお願いができるんだ。普通に引いてしまう。


 さては学校に友達いない子か?まぁ私も居なかったので人の事言えないけど。


「無理よ!だってさっちゃんが何にでも突っ込んでいくんだもん!絶対引いてくれないんだもの!このままじゃ絶対近いうちに死ぬ!!貴方がさっちゃんを魔法少女にしたんだもの!責任とって!」


「あぁ、なるほど。麻倉さんがね。」


「私、はいと言ってくれるまで毎日来ます。バイト先に。」


「…。」


「いいんですか。いたいけな中学生が死んでも。助けてくれなかった貴方のせいですよ。私、自分の家の引き出しに貴方の名前とバイト先を書いたメモを入れておきます。私が死んだら大人たちは真っ先に貴方を疑いますよ!」


 と一息で言った。よくそんなにすらすら出てくるな。そしてすごく嫌な言い方をしてくるなこの子。的確に嫌なところをついてくる。そして変わらず態度が上からなのはどうにかならないのか。


「わかったよ。」と諦めて返事をすると、るるちゃんは心底安堵したような表情になった。


 そりゃそうか。これで生き残れる確率が跳ね上がったのだ。大好きな麻倉さんとだって心中はしたくないよな。


「じゃあ連絡先交換してください。」


「はいはい。」と言いながら私は携帯のLINEのQRコードを出し、るるちゃんに読み取ってもらう。


「試しに一言送りますね。」


「うん。」


 ぴこぴことLINEの通知が鳴ったので画面を確認すると


『引き受けてくれてありがとうございます。すみませんがよろしくお願いします。』


 とメッセージが入っていた。なんだ、意外と可愛いところあるじゃないか。


「うん、よろしく。」と私が返すとるるちゃんはもごもごと言いづらそうに小さく「はい。」と返事をした。

 また変な仕事を増やしてしまったが致し方ない。るるちゃんが死んで警察がバイト先に来るよりずっとましだ。

 ふとるるちゃんに聞きたかったことを思い出した。


「あ、そう言えばさ。さっちゃんの下の名前ってなんていうんだっけ。」


 これもついでに聞いとこう。本人に聞くより絶対面倒くさくならないから。

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