第8話 そんなの私に言われても

「あ、笹島さんお疲れ様で〜す。この前京都旅行ったお土産置いといたんでよかったら食べてください!」


 バイトの事務所で休憩していたら学生バイトの久留米ちゃんが声をかけてきた。


「ありがと。京都いいね。誰と行ったの?」


「えへ、彼氏とです。」と小さく照れながら言った。


「笹島さんて旅行とかしないんですか?」


「しないね〜。特に行きたいところとかもないし。」


 実際のところはこの街から離れるとミミィにデジタルタトゥーを残すと脅されているため旅行がしたくともできないというのが現状である。


「へ〜。まぁそういう人もいますよね。」


 今話しているのが主婦パートの三上さんだったら「若いのに信じられない!」だとか「今しかできない楽しいことがあるのよ」とか「私が若い頃は海外旅行とか結構行ったものだけど」だとか色々言ってくるのだがこの子はこんな感じで流してくれるので喋りやすい。ギャル風でノリが軽くて気軽に距離を詰めてくる子だが私は私、他人は他人の線引きがしっかりされているので個人的にはとても付き合いやすいタイプだ。そのまま久留米ちゃんと雑談をしていると携帯のアラームが鳴った。


「あ、私休憩終わるや。配達戻るね。」


「はーい!行ってらっしゃいっす〜。」


 私は厨房に休憩から戻り配達に戻る旨を伝え駐車場へ向かう。出発の準備を整え走りだそうとすると背後から「あの!」と大きな声で声をかけられた。


 振り返ると近辺の公立中学校の制服を着た女の子がいた。黒髪のロングヘアーをハーフアップにしている綺麗な子だ。何故かこちらを睨みつけている。


「この姿だとわからないかもしれませんが…この前助けてもらった雪下るる…です。」


「あぁ水色の…。その節はどうも…。」


 るるちゃんは以前として私を睨みつけている。どう考えても恩人に向ける表情じゃないだろうそれ。というかバイト先に凸するな。


「あなたに話があるんだけど。」


「今働いてるからこれが終わったらね…。」


 最近の中学生は待ち伏せがお好きなんですね。せめて相手の都合は考えようね。と私は思った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 バイトを終えて以前麻倉さんと話をした公園へ2人で向かった。るるちゃんは終始むっすりとした表情を浮かべている。私、なんでこんなに礼儀も態度も悪い子のために時間作っているんだろう。彼女が全然話し始めないのでこちらから「話って何かな。」と聞いてみた。


「あなたのせいであの子は、さっちゃんは魔法少女になっちゃった!どうしてくれるんですか!?」


 るるちゃんはすごい剣幕で捲し立ててきた。その様子に私は呆然とする。


「あの子にこんなことさせないために私は魔法少女になったのに!最近は会っても先輩、先輩ってあなたの話ばかり私と一緒にいるのに…。」


 と言いながらるるちゃんは啜り泣き始めた。なんだこの子は。めちゃくちゃ怖いんですけど。さっちゃんっていうのは朝倉さんの事か…。

 私のせいで魔法少女にっていうのはお門違いすぎる。私しっかり止めたよ。魔法少女には絶対ならない方がいいってちゃんと言った。なのにあの子が勝手に魔法少女になったんだよ…。

 というか最後の私の話ばかりするのって私は悪く無くない?

 朝倉さんと私はまだ3回しか会ったことないのにるるちゃんと会う時私の話ばかりしてるの?


「えっと…。るるちゃん?」


 私が戸惑いながら声をかけると、るるちゃんは「さっちゃんは魔法少女なんかじゃ無くて皆の前でキラキラしていて欲しいのにぃ…。魔法少女するために部活とかも辞めちゃって。さっちゃん、さっちゃん…。うぅぅ。」


 とこぼしながら先ほど以上にわんわんと泣き始めた。


 そんなの私に言われても。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る