第5話 ビームを撃つだけの簡単なお仕事のはず
麻倉さんは少し真面目な顔になって「私、『セカイの敵』討伐についても詳しく伺いたいです。」と言った。
「討伐について詳しく…? ビーム撃つだけじゃん。簡単なお仕事だよ。」
「そのビームを撃つのが難しいんですよ!!」
ビームが打つのが難しい?ビームなんて魔法少女のになったその日から撃てた ぞ。ひゅーっとやってひょいといった感じに。
ぼんやり新米だった頃のことを思い返していると麻倉さんがずいと詰めてさらに問いかけてきた。
「助けていただいた日の先輩は、ビーム一撃で台風を晴らしちゃうくらいの強い威力のものを撃ててましたよね!どんな修行をしたらあれほどの威力のものが打てる んですか?」
「修行…?修行なんてしたことないけど…。ビームなんて魔法少女になっ た時から撃てるし努力のやりようも無いというか…。」
そう伝えると麻倉さんは信じられないという顔をした。
「先輩は魔法少女を始めた時から、あの威力のものを撃てたのですか?!」
「うん…。」
「やはり先輩は天才です!さすがは伝説の魔法少女『プリズマガール・コトミ』!!」
私の両手をぎゅっと握りしめて興奮しながらそう言う。ミミィや時折出会う『セカイの敵』も天才だ、伝説だの言うがいまいちピンとこない。ステッキを数回振り回して出ろと思ったらでるビームだぞ。
仮に私が天才だとてもそのお陰で私はハタチすぎても魔法少女がやめられないだ。こんなにいらないギフテッド他にはないだろう。神様に熨斗をつけてお返ししたい。
「ミコトは最強の魔法少女だといつも伝えてるミィ。」
ミミィが私の羽織っているブルゾンのポケットから顔を出して言った。
「あ、先輩の相棒さんですか?私サクラと申します〜!」
「よろしくミィ〜。サクラ。」
ミミィが私以外の人間と喋っているのをこの9年間で初めて見た。少し変な感じがする。
ミミィが真面目な声色で麻倉さんに話しかけた。
「サクラ、ミコトに憧れるのはいいけれどあまり真似はしないほうが良いミィ。あまりにも魔法少女としてのポテンシャルが違いすぎて最悪命を落としてしまうかも しれない。」
最悪命を落とす・・・・?
え?魔法少女って危険な仕事だったの?今まで敵を見つけたらノータイムでビームをお見舞いしてきたのでこの9年間は一度も命の危険 を感じたことはない。
麻倉さんも「そう・・・ですよね・・・。」としゅんとしながら返事をしていた。
「あの・・・さ。魔法少女の仕事で死ぬことって本当にあるの?」
「当然あるミィ。」
「はい。私も魔法少女の相棒のピティに危険な仕事だから心してかかるようにと言 われています。」
と2人ともさも当然と言った感じで返答してきた。絶句である。
私は今まで魔法少女の仕事に心してかかったことなど無い。私は命をかけて、人生をぶち壊しながら、無休の無給で戦っていたというのか。あまりのショックで脳が揺れる感覚がした。
少し不安になったのでさらに尋ねてみる。
「…。戦ってる時に死んだらどうなるの?」
「何も残らないから失踪として処理されることになるミィ。」
「失踪・・・。」
魔法少女歴9年目にして震え上がるような事実を知ってしまった。
麻倉さんも 黙って頷いている。知ってたのか。君、そんな覚悟を持って魔法少女になったの? 何が君をそこまで突き動かすんだ。
「とても危険な仕事ですけど私も覚悟を決めています。この街と『プリズマタウン』の平和のために!先輩の足を引っ張らないように頑張りますね!」
と麻倉さんは胸を張ってそういった。今日は勝手知ったる魔法少女のことについて話しているはずなのに知らない事実や単語ばかり出てくるな。
「…。プリズマタウンて何だっけ?」
「先輩本気で言ってらっしゃいます?」
「ミコト!ミミィは何回も魔法少女のあり方や仕組みにについて教えたのにまた忘れたミィ!?」
「覚えなくても魔法少女の仕事はできるし、辞められないし・・・。」とボソボソいう私に2人とも少し呆れながら説明してくれた。
2人の説明をかい摘むとこのようなものだった。
ミミィたちの故郷『プリズマタウン』には世界を支えている不思議な結晶がある。
その結晶を狙っている『セカイの敵』はこの街のどこかにある“扉”から『プリズマタウン』 に進行するべく破壊活動を行っていた。
『セカイの敵』目的は結晶を破壊してこの世界を滅ぼし、世界を蹂躙したいといったものだ。
戦闘力を持たない『プリズマタウン』の住人が頼ったのは『プリズマエナジー』を操る適正を持った少女である私たち『魔法少女』。
彼らと力を合わせてこの世界を救いましょうというのが魔法少女の在り方だ。
聞いたことある気がする話だったが、メルヘン色の強い話なのも相まっていつも忘れてしまう。
「そういえば聞いたなぁ。」みたいな反応をする私に麻倉さんは「先輩は使命感を持って努力しなくとも史上最強の魔法少女だから大丈夫ですよね。」と少し皮肉っぽく言った。
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