第32話 よろず猫
『
レスの説明を受けたガストンはカプシンを尋問し、取引先の大まかな情報を手に入れる。ギュンガ王国に戻った後にすぐにでも救出に向かうとのことだった。ジロの誘拐から始まる一連の騒動はこれで一旦の決着となった。
次の日、もともと訪れる予定だった『よろず猫』へモルの案内でやってきたレス一行。猫の宿り木と同様に木造の建物で柔らかい落ち着いた雰囲気の商店だ。猫の宿り木からそこまで離れていない場所にあった。ちなみに宿の方はジロが店番として残ったため、ロンが一緒に留守番をしてくれている。ミミはロンの肩から離れないのでそのまま一緒にお留守番だ。
「皆さん、ここがよろず猫よー」
「おお、いい感じのお店ですね」
モルは先導して扉を開けて中に入っていく。
「ニニー?紹介したい人たちがいて連れてきたんだけどー」
「あらモル。いらっしゃい」
ニニと呼ばれた茶色い髪をポニーテールでまとめた女性が駆け寄ってきた。猫耳に尻尾、店名からも猫族なのだろう。
「こちら、レスさんとお仲間の人達。よろず猫に行ってみたいって言ってくれたから連れてきたの」
「こんにちは、レス・フォン・デルニと言います。こっちが俺の旅の仲間で…」
レスはミーナとエル、ゾーイを紹介する。
「それでこの頭の上にいるのが」
「ニニさん、はじめまして。私、究極生命体のリムと申します」
パァーンという音が聞こえるような勢いで体から光を発しながら自己紹介をするリム。
「「ま、眩し!」」
「が、姐さ、目、目が!な、なんで」
リムを直視していたモル、ニニ、そしてなぜかゾーイまでが目を眩ましてしまう。ミーナとエルは慣れたもので視界から外していたので影響を受けていない。
「リムさんや。光量光量。みんな目がやられちゃってるよ」
「あらまあ。私としたことが。人とこうして暖かく触れ合うのが嬉しくてつい高揚してしまいました」
「待てや、姐さん。いま絶対光に指向性があった!俺のほうに!おかしいだろ!」
レスが注意し、リムが言い訳をする。ゾーイはどうも納得がいっていないようだ。
「貴族の、な、なかなか濃い人たちね。私は店主のニニと申します。そ、それよりその頭の上の鳥さんが喋ってる?」
「はい、二二さん。究極生命体ともなると喋れてしまうのです。よろしくお願いしますね」
「究極生命体ってすごいのね。..まだまだ私は無知だったわ。勉強させてもらいます。皆さん、改めていらっしゃいませ」
リムのどこか破綻している説明を自然に受け入れてしまうニニ。なかなかの強者のようだ。
「ぜひ店内の商品を見て行ってください。色々取り扱っておりますよ」
早速レス達は店内の様子を見て廻る。魔導具から始まり、武具、生活雑貨と幅広い。数が多いわけではないが質の高さを窺える商品ラインナップだ。
「…ニニさん、ロヌスではあまり見ない魔導具がありますね。整備もすごくよく行き届いています」
「わかりますか?実は主人が魔導技師なんですよ。いまも店の工房で魔導具の整備をしてます。あとで紹介致しますので」
「ほう。それはぜひ一度お話したいですね。このお店はお二人で?」
「いえ、娘も含めて3人で営んでます。『またたび商会』という商会名でこのよろず猫とモルに任せている猫の宿り木を展開しているんですよ。私が一応商会長です。もともと商売好きでして。ギュンガの魔導具とか、武具、雑貨などを仕入れてこちらで販売してるんです」
「ニニとはギュンガにいた頃からの顔馴染みなの。その縁もあって、宿をやってみないか?って誘ってくれたのよ」
「..いいですね。非常にいい」
「何がいいんだ?何が」
二人の説明に意味深な返答をするレス。その反応の意図を掴めず若干警戒するゾーイ。ミーナとエルは雑貨コーナーで和気藹々と物色している。
「ふふ。お二人は仲がいいんですね。見ていて和みます」
「いんや、ニニさん。こいつは魔導具が絡むとまじで色々やらかすんだ。目が離せねぇんだよ」
「心外だね、ゾーイさん。俺は魔導具に関しては全力なだけさ」
「全力すぎてやらかすって言ってんだよ。このバカタレが」
二人の問答を微笑みながら見つめるモルとニニ。
「お母さんただいまー」
そこへニニの娘が帰ってきたようだ。
「あれ、お客さん?」
レス達の元にニニと同じ茶色い髪色でショートヘアの猫族の美少女が歩いてきた。すらっとした体型で活発そうな雰囲気の少女だ。ミーナと同世代くらいだろうか。
「ピピ、ご挨拶して。モルの紹介でお店に来てくれたレスさんとお仲間の皆さんよ」
「・・あ、うん!皆さんようこそ。よろず猫へ。看板娘のピピと言います。何か気になるものがあったら質問してね」
きゃぴっとした感じで挨拶をするピピ。
「初めまして、ピピさん。俺はレス・フォン・デルニと言います。で、一緒に旅を・・」
「・・王子様・・」
「ん?」
レスが皆を紹介しようと仲間のほうへ視線を移しているとピピの呟きが聞こえた。再度ピピを見ると熱い視線で見つめられている。
「あの!王子様ですか!?」
「いや、俺は貴族ではあるけど王子ではないよ」
「違います!そういうことじゃないです!あなたは私の王子様ですか?」
「な、なるほど!?ピピさんの王子ではないかな?」
「そ、そんな!?いえ、そんなはずはないです。ビビッと来ましたから」
いきなりのピピの自分の王子様発言にレスが混乱する。
「違うわ!レスは私の獲物よ!」
「そうです。マスターは私のマスターです」
「ん!」
「私としてもいきなりは認められないですね」
私の王子様発言に影からテネも飛び出し、集まってきた女性陣が憤慨する。ミーナの獲物発言はちょっとニュアンスが違う気がするが。
「銀髪美少女に金髪美女..ってあれ?鳥さんに。この子、いま影から?え?」
女性陣?の参戦に困惑するピピ。しかし、頭を左右に振りながら再度レスを見つめる。
「いいえ、引けない。王子様、私と結婚を前提にお付き合いしてください!」
「い、勢いがすごい。ピピさん、俺はいま女性と付き合うとかは考えてないんだ」
「そうよ。レスは私が先に倒すんだから」
「マスターには崇高な使命があるのです。いまは女の子に現を抜かしている場合ではないのです」
「ん!」
「流石です。レス様。ちゃんと殿下との約束を守っておられますね」
混沌に混沌が塗り重なっていく。先ほどまでの穏やかな雰囲気はどこへいったのか。それぞれが絶妙に噛み合っていない。唯一、リムのみが会話を成立させているくらいか。
「!!?…いや。諦めないよ。今すぐじゃなくてもいい。お母さん、私は猫族の誇りにかけて引かないからね」
「それでこそ猫族の女。惚れたなら突撃あるのみです。頑張るんですよ」
「ピピちゃんは情熱的ね。素敵だわ」
「止めよう!?ニニさん、モルさん、まずは止めような?娘さんが初対面で求婚してるから。もう場がすごいことになってるぜ?」
獣人は皆、感情をストレートに表現する種族のようだ。
***
一旦、落ち着いてちゃんと自己紹介をしようということになり、店の中にある商談スペースに腰を落ち着かせた一行。
「しかし、個性的な娘さんだな。ニニさん」
「はい、当店自慢の看板娘です。あのキャラクターがお客様にも好評なんです。娘のおかげでリピーターになってくれるお客様も多いんですよ」
商魂逞しいとはこの事か。ゾーイの発言にニニは経営者目線で言葉を返す。やっと落ち着いた雰囲気で会話が始まろうとしていたその時、
「よーーーし!いい出来だ!ばっちりだぞ!」
大きな男の声が店内に響き渡るのだった。
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