第33話 猫族の魔導技師
「おっし。ニニー!仕上がったぞー。これも店頭に出しといてくれぃ!」
直径30cmの箱型の魔導具を抱え、小柄だががっしりとした体格、ニニとピピと同じ、茶色い髪で短髪の猫族の男が店の奥から現れた。
「おおん?お客さんが居たのか。いらっしゃい!よろず猫へ!ちょうどいま新しい魔導具の整備が終わったところでな。こいつなんだが、どうよ!このフォルム!俺が仕上げた『
「ドム?ちょっと落ち着いて?まずはあなたの紹介からさせて頂戴」
「おお?そうだった、そうだった。すまねえな。テンションが上がりっぱなしでよ。んん!改めてドムだ。よろず猫の魔導技師をやってる。よろしくな!!」
バァァン!という効果音が聞こえるような勢いで持ってきた魔導具を掲げながら自己紹介をする男。濃ゆい。この非常にパワフルな男がニニの旦那であり、ピピの父、そしてよろず猫の魔導技師。ちなみに『冷蔵機』とは、食物等を低温により長期間保存することが出来る生活に根付いた魔導具である。
「ほう..いい仕事してますね。使い勝手をしっかり考慮した大きさ、面の仕上げも素晴らしい。ちょっと見せてもらっても?」
レスがすぅっと近づき、ドムが抱える魔導具に興味を示す。
「..姐さん。これはやべぇよ。絶対にやべぇ。俺の本能が警笛を鳴らしている」
「奇遇ですね。私も同じ気持ちを抱いていた所です。この邂逅は非常に危険です」
ミーナの頭の上にいるリムへゾーイがそっと囁いた。リムも同意見のようだ。
「中も十分なスペースが確保されてますし、、お?この躯体に使っている板、中が空洞になってますね。もしや冷却効果を効率的に持続させるための?」
「おお!?よくわかったな、あんちゃん!そうだ。空洞設けると外の温度の影響をあまり受けなくなるから魔力効率が良くなる!『冷蔵機』はギュンガで発見されることで有名だが、俺の『冷蔵機』はあえて躯体を取り替えて販売してるのよ!」
周りそっちのけで魔導具談義で盛り上がる二人。
「かくなる上は私の『究極の光』で!」
「姐さん、待とう?それ、なんか聞き覚えあるぞ?」
究極奥義を発動しようとするリム。止めるゾーイ。
「レス様、ドム様とピピ様にちゃんとご挨拶しましょう?」
会話に夢中になっているレスを諌めるエル。レス一行の暴走をしっかりとコントロール出来るようになってきている。
「あ、そうだったね。ありがとうエル。ちょっと夢中になっちゃったよ。改めての紹介になっちゃうけど、俺はレス・フォン・デルニと言います。それで・・」
改めてレスは自身と仲間の紹介を行う。
「最後にミーナの頭の上にいるヒヨコがリムです」
レスの紹介と共に胸を張るリム。その様子を見たテネ、ミーナ、エル、モル、ニニは瞬間的に目を逸らす。ゾーイは
「紹介に預かりました、究極生命体のリムです。よろしくお願いしますね。ドムさん」
究極生命体のフレーズと共に光りだすリム。ゾーイがバックステップでソファーから飛び退く。
「ふ。甘いぜ姐さん。そう何度も喰らってたまるかってんだ。視えてんだよ。俺の目元に向かってくる魔力線がなぁぁ!」
ゾーイが後ろに退避した瞬間、魔力線が軌道修正され、再度ゾーイの目元に向かう。
「ってなにぃぃ!線が、追尾してくる、だと!?ぎゃぁぁぁ」
「おおお!?眩しいぞ!!」
「きゃっ!目がぁ!」
『
(すごい。無駄に高度な魔力操作だ。追尾する魔力線か。魔力が視える相手には非常に有効だね)
内心で感嘆していた。今回の被害者は新規2名に既存1名である。
…視界も落ち着いたところで歓談を再開する一行。
「リムさんや?それはもうやんないとダメなの?」
「はいマスター。これは絶対です。最初が肝心なのです」
「そっかぁ。じゃあしょうがないね」
「しょうがなくねぇ!」
必然の行動であると説明するリムに納得するレスと納得のいかないゾーイ。
「がっはっは!面白い鳥さんだな!ん!?ニニ、鳥は喋るんだったか?」
「リムさんは究極生命体だから会話も出来るそうよ」
「そうなのか!?すごく気になるがまあいいか」
ニニの中では究極生命体ということで特に疑問はないらしく、ドムも気にしないことにしたらしい。
「ドムさん、実は俺も魔導技師なんです」
「ほう!どうりで話がわかるわけだな!」
レスは自分も魔導技師であることをドムに打ち明ける。ドムの目が光る。
「え..お父さんとお母さんの関係と一緒じゃない。これはもう絶対..」
ピピが小さく呟いている。レスはひとまずスルーすることにした。
「せっかくなんで俺の魔導具も見てもらいたいんですよ」
レスはそういうと、球シリーズをテーブルの上に2台取り出した。
「……」
「こ、これは」
ドムが球シリーズを見て言葉を失い、ニニが目を輝かせている。レスは『
「な、な、な!」
レスは『鉄射砲』の操作を続け、ドムの目の前で静止させた。
「おおおおお!!」
雄叫びと共にドムに鷲掴みにされる『鉄射砲』。
「ほらな。姐さん、やっぱレスと同類だよ」
「そのようですね。果たしてこの邂逅が世界にどのような影響を及ぼすのか」
ゾーイとリムがかなり壮大なスケールで今後のことを話し合っている。
「これは!?自力で浮遊しているのか?しかも操作出来る?こ、こんな魔導具は見たことがないぞ!」
「ふっふっふ。すごいでしょう。ここでは出来ないですけどこの魔導具は攻撃用で鉄鉱石を射出出来るんですよ。そっちのもう一台は護身用でも使えるんですが、電撃を発することが出来ます」
「レスさん!この魔導具を当店に卸してもらうことは可能ですか!?」
『鉄射砲』に夢中になっているドムを放置してニニが真剣な表情でレスへ問いかけてきた。
「ゾーイさん、後で詳細は相談するとして話をちょっと進めてもいい?」
「色々考えてたんだろ?全然構わねぇよ」
レスはまずはゾーイに確認を取る。それからニニに向き直り、話を進めることにした。
「もちろんです。俺からも提案があるんですが。またたび商会として、俺達と契約を結びませんか?詳細はこれから詰めさせていただきたいですが、こちらからは魔導具の卸売と技術提供、またたび商会からは王都での俺たちへの拠点提供をお願いしたいんです。で両者の取引内容については合意がない限り、他者へ公開しない約束も結びたい」
「こちらからの申し出なのでぜひにと言う所ですが、内容について確認してもよろしいでしょうか。まず卸し以外の技術提供とは何でしょう?」
「はい、提供をいただきたい王都での拠点の話に繋がるのですが、まず猫の宿り木を拠点とさせて頂きたいんです。部屋をいつでも確保しておいてほしいというわけではなくて、お客さんなどの人目に付かない場所の一画をお借りしたい」
「不思議なご要望ですね。内容については契約を前提としなければ教えて頂けないということですね?」
「はい。すいませんがそうなります」
「ニニ、私はレスさん達なら何も問題ないと思ってるわよ。ジロの恩人でもあるの」
モルがニニに受け入れる旨を話してくれる。
「モルさん、ありがとう。それで技術提供の部分ですが、俺は複数の魔導具を持っていますので猫の宿り木の設備に使えそうなものを提供しようかと思います」
「レスさんはその魔導具や技術などが漏れてしまうことが最大のリスクというわけですね。そこさえちゃんと守ればお互いにとってメリットしかない契約と」
「その通りです。ご理解が早くて助かります」
ニニが即座に今回の契約のポイントを押さえてくれる。レスとしては非常にやりやすい相手だ。レスはニニを見つめ、返答を待つのだった。
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