第30話 捜索

「レスさん..ジロが、ジロが帰ってこないの..」


 モルが悲壮な表情でくつろぎスペースにいるレスへ話しかけてくる。


「いつもなら夕方には必ず帰ってくるはずなのに..」


「「…」」


 ゾーイとロンが探しにいこうと無言で立ち上がる。たしかに今日は夕方になってもジロの姿を見かけない。


「..ゾーイさん、ロンさん、落ち着いて」


「でもよ!レス!昨日のガストンの話もあるだろ?何かあったに違いないぞ」


「俺に任せて」


 レスはゾーイ達を落ち着かせるためにジッと見つめ、一言だけ告げる。


「..わかった。何か手があるんだな?」


 ロンが落ち着きを取り戻してレスに従う。


 2人が落ち着いたのを見て、レスは魔導袋からデルニエールにあるモニターのような黒い板を取り出す。横幅が25cmくらいの長方形の形をしている。魔力を供給しその魔導具を起動させる。モニターには中心に緑色の点、端のほうに赤い点が表示されている。


「レス?この点は何なの?」


 ミーナがモニターを覗き込み、質問してくる。


「うん。この緑色の点がこのモニターのある場所。つまり猫の宿り木がある場所で、赤い点がおそらくジロ君がいる場所」


「「「「「!!!」」」」」


 ミーナ、ゾーイ、ロン、エル、モルが驚きの表情で言葉を失っている。


「時間も惜しいから簡単に説明するけど、これは『受信機じゅしんき』っていう魔導具。この『発信機はっしんき』から発せられる特殊な魔力を受信してこのモニターに位置を示すんだ」


 レスは周囲に1cmほどの小さな金属製の魔導具を見せる。これはレスが遺跡探索に活用できるのではと準備していた魔導具だ。『発信機』には魔力を予め込めて発信させるタイプと周囲の魔力を吸収して発信するタイプの2種類を用意している。


「ガストンさんからあの話を聞いてからジロ君が心配だったんだよ。で、今日の朝に本人にはお守りってことで『発信機』を持たせたんだ。それでモルさん、ひとまず安心して。ジロ君は生きてる。もし、死んでたらまずこの魔導具は反応しない」


「ああ…ジロ…」


「レス!でかしたぜ!早速そこに向かおう!」


「そうだね。モルさん、この方向ってなんかあります?」


「それだと距離がわからないから何とも..」


「了解。まあとにかく向かって・・「帰ったぜー!」」


 レスが言いかけている途中でガストンが宿に帰ってきた。


「ん?お前らどうした?..なんかあったのか?」


「おう。ガストン。ジロが帰ってこねーんだ」


「「…」」


 ゾーイの説明に無言で外へ向かうガストン達。


「待って、待って。ガストンさん」


「ああ?待ってられるか。いますぐ探しにいく」


「うん。居場所はわかったから一緒に行こう」


「本当か!?どうやってって今はいいか。よし、行くぞ。すぐ行くぞ!」


「ちょっとだけ待って。ロンさん」


「..ん?どうした?」


 レスはロンに直径10cmほどの黒い球体を手渡す。これはレスの『鉄射砲てっしゃほう』と同型の魔導具である。


「これは『氷霧球アイスフォグ』。氷の霧を発生させて相手の視界や動きを阻害出来る魔導具。包んだ範囲を凍結させることも出来るんだ。ロンさんなら使いこなせると思う」


「..なるほど。確かに俺向けの魔導具だな。ありがたく使わせてもらう」


「使い方は簡単。魔力を込めれば自動でロンさんを追尾するし、操作もできる。向かいながら操作に慣れておいて」


「..わかった」


「よし!ガストンさん達もお待たせ。じゃあ行こう!」


「おう!行くぞ野郎ども!」


 エルを宿に残し、レス一行と猛る獅子団はジロ捜索に出発した。



 ***



 モニターを確認しながら先頭をいくレス。一行は通りを走るのではなく、目立たぬように建物の屋根を伝ってモニターが示す位置へ向かっている。

 赤い点が近づいてくるとレスは一行に合図を送り、その場で静止した。赤い点が示す場所には今日の営業を終了した何かの商店と隣接した倉庫がある。倉庫の前には数人の人影が見える。見張りか何かだろう。


「あの倉庫のほうにジロ君の反応がありますね。二手に分かれて一気にいきましょうか。表から行って陽動してその隙に裏手からジロ君を救出しましょう」


「いいな。それで行こう。俺たちは鼻が効く。救出のほうに回るぜ」


「わかりました。ミーナ、ガストンさんのほうについて行ってくれる?」


「私は陽動のほうが向いていると思うのだけど」


「それ戦いたいだけでしょ?ミーナにはこれ」


 レスは『魔通信まつうしん』をミーナに渡す。


「それでジロ君を確保したら俺に知らせて欲しいんだ。ミーナは速さもある。いざとなったらジロ君を連れて退避してほしいしね」


「そういうことね。そういうことなら表は任せるわ」


「ありがとう。よろしくね」


 レスは全員に向かって再度作戦を伝える。


「じゃあ、表からは俺とリム、ゾーイさん、ロンさん。裏はミーナと猛る獅子団の皆さんに任せます。派手に暴れながら突入するんでよろしくお願いしますね」


「マスター?私も派手に暴れても?」


「うーん。俺の頭の上で何かあったら助けてほしいかな」


「お任せを。この私に不可能はありません」


「よっしゃ!派手にいくぜ」


「..!」


 表組の気合が入る。珍しくロンも前のめりだ。


「通りに人もいないし、早速」


 レスは拳を引くように構え、まっすぐ拳を前方に勢いよく突き出した。指無手袋フィンガーレスに実装されている衝撃波だ。

 空気の衝撃波は倉庫の前にいる数名の見張りの間の地面に直撃し、ドンという轟音と共に周囲を風でかき乱す。


「今!」


 ミーナ達は足に魔力を循環させ、一気に裏手に飛んだ。レス達も同時に入口へ飛ぶ。


「なるほど?見覚えのある顔だね」


 レスが倒れている見張りの1人を確認すると見覚えのある顔があった。先日、通りでジロに絡んでいた冒険者である。

 先ほどの音で倉庫の中から続々と8人ほどの冒険者風の男達が現れる。


「なんだ!?今の音は!?あ、テメェはこの間の!」


「この間ぶり。どうも大事にしたいみたいだね。覚悟しなよ」


「まったく。性懲りもなくまたあなた達ですか。やっぱりクズ野郎共でしたね」


 先日、リムに気絶させられた男がレスに気付き、声を上げる。


「な、何なんだテメェら。いきなりなんだってんだ!..ん?いまヒヨコがしゃべったよな?」


『リムキャノン』


「ぎゃーー!目、目が!」


 リムが間髪入れずに空気弾を冒険者の目に向かって発射した。これは痛い。


「ゴミムシが。私を視界に入れないで下さい」


 見ることすら許されないらしい。冒険者は目を抑えながら倒れもがいている。


「..こいつらが犯人か」


「ロ、ロンさん?」


 珍しくロンが顔に青筋を立てて冒険者達を睨め付けながら静かに一歩一歩向かっていく。ロンの周囲には氷霧が漂い始めている。


「うらぁ!!」


 冒険者の1人が長剣を抜き、ロンへ振り下ろす。が当たる寸前で小さな氷壁が出現し、剣を受け止めてしまった。


「な、氷だ、と?」


 続けて氷霧がその冒険者と後ろの冒険者達を囲み、まとわりつく。


「なんだこの霧!?」

「つ、冷てえぞ!」


 そのまま一気に凍結させるロン。


「「「おお」」」


 霧が晴れると顔を除いて全身が凍りつき、立ったまま身動きが取れなくなった冒険者達が姿を現した。流れるような動きに感嘆の声を上げるレス達。


「..レス、中に行こう」


「ロンさん、なんか迫力があるね」


 レスが小さな声でゾーイに話しかける。


「ロンはああなるとちょっとこえぇぞ。黙ってついていこうじゃねぇか」


「そうだね」


 ロンに続き、倉庫の中に入るレス達。倉庫の中に入ると意外と中は明るく、入口を入ってすぐの場所はちょっと広めのスペースのようになっていた。中心にソファーが置かれ、周辺にはベッドなどが設置された生活間溢れる空間だ。

 ソファーには1人の男がふんぞり返りながら座り、こちらを向いている。口元は薄っすら笑っているようにも見える。ジロはこの奥のスペースにでも囚われているのだろう。


「おーおー。騒がしいお客だな。外に行った奴らはやられちまったか」


 随分と余裕な態度の男が今度の相手のようだ。

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