二章 王都ロヌデロイ編

第26話 目指すは王都

「憤!」


「憤!!」


「…憤!!!」


 正面から襲いくる虫型の魔物をテネの『黒の手くろのて』が正面から捉え、ゾーイの『火柱ひばしら』が包み、ミーナの『空圧くうあつ』で火柱ごと一気に空気を圧縮し、解放。爆ぜる。


「憤ッ!」

「憤ッ!!」

「憤ッ!!!」


 続けて側面から襲いくる虫型の魔物をテネが捉え、ゾーイが包み、ミーナが爆散させる。少し前から繰り返されている光景である。


「いまのはよかったわ!」


「おうお嬢、流れるように決まったぜ!」


「ん!」


 ミーナ、ゾーイ、テネが勝利のサムズアップをしている様子を部屋の入口でレスは様子見していた。


「…みんなそれオーバーキルだからね?」


「虫・即・殺よ!」


 ミーナは虫が苦手らしい。


 …ここは王都に向かう途中の遺跡の中。最奥の制御室の前である。レスは制御室の中に入り、モニターの前で何かを操作しているヒヨコの近くに寄った。


「外ですごい音がしてましたけど大丈夫でしたか?」


「大丈夫だよ。三狂が暴れてるだけだから」


「あの2人もやっとマシになってきましたね」


「リムは手厳しいね」


「私からみれば現生人族はよわよわですから」


 古代の人々を知っているリムからするとまだまだあの2人もよわよわより少しマシになった程度らしい。


「そりゃそうか。それで?どうだい?」


「ダメですね。ここも生産物のリストなどは所々残っていましたが、それ以外は全滅です。当時の通信履歴などのログはちょっと厳しいかもしれません」


「そっか。まあ、目的地は別にあるし、急いでる旅でもない。気楽にいこう」


「そうですね、マスター」


 レスは探索終了と判断し、遺跡を後にすることにしたのだった。



 ***

 


 遺跡を出て街道を少し進んだ先にある林の中にレス達の移動の要、『魔導装甲車まどうそうこうしゃ』が隠れて停車している。レス達一行は林の前まで帰還した。


「ロンさーん、エル。戻りましたー」


「..おかえり」


「お帰りなさいませ。皆様」


「制御室のエリアがすでに探索済みのエリアで助かったよ」


 レス達一行の帰りをロンとエルが出迎える。さすがに戦闘が出来ないエルを遺跡内へ連れていくことは出来ないのでロンが一緒に残ってくれることになり、2人で留守番をしてくれていたのだ。


「レスが作ってくれたこの『圧殺プレシキル』のおかげで魔物をサクサク倒せたわ」


 ミーナが『圧殺プレシキル』と名付けた薄い緑色の刀身の刃渡70cm程度の片手剣を掲げる。これはレスがミーナのために作った魔導武具だ。少し特殊というかシンプルな魔法陣を組み込んでいる。この魔法陣は使用者の魔力を風属性に強制変換させる。普段、風魔術が不得意で使用出来ない者でも使用者の魔力を風属性に変換させることで風魔術の行使を可能にする。要はイメージできる範囲で風魔術を自由に行使することが出来る。全くもって魔道具らしくない魔道具だ。ただ、戦闘狂であるミーナにとっては様々な風魔術を駆使して自身の戦術の幅を広げたかったようで大満足のようである。レスもであればと風属性への変換速度を如何に早く出来るかに拘った。

 ちなみにレスは若い割に古風な名付けも好きでよく採用する。『鉄射砲てっしゃほう』や『石飛せきひ』などなど。ミーナやゾーイ達の名付けはいわゆる今風というやつだ。


「気に入ってくれて嬉しいよ!ちなみになんだけどよく使う魔術は魔法陣を追加で組み込むことも出来るんだよ。この技術のすごいところはすでにある魔法陣に魔力干渉して陣を・・・・・」


「レス?わかりやすく簡潔に説明してね?」


「お嬢、本体が出てきたみてえだから気を付けろよ」


「で、ゾーイ。調査はどうだった?」


 ロンがレスをスルーして静かに質問をする。


「おう。姐さんが言うにはここもダメだったらしい。遺跡はけっこう期待薄だとよ。まあ楽しんでこうぜ」


「ゾーイ様、こちらどうぞ」


 ゾーイとロンの会話が終わる絶妙のタイミングでエルが飲み物を差し入れる。さすが侍女である。


「おう!ありがとな」


「いえいえ」


「レスー?そろそろ落ち着いてくれや」


「・・ミーナがよく使ってた魔術は魔法陣として組み込んでしまって・・ん?」


「ん?じゃねえよ。次の指示くれ指示」


「おっと、そうだった。何の話だっけ?」


「次の目的地の話だよ。どうするんだ?」


 ゾーイがレスの会話をインターセプトし、指示を促す。


「そうだね。王都にもだいぶ近づいてきたし。遺跡巡りは一旦やめてこのまま王都を目指しますか」


「了解だ。ひゅー!久しぶりの王都だぜ!」


「今の時代の王の住む都。非常に楽しみですね」


 ゾーイが喜び、リムがレスの頭の上で期待に胸を膨らませている。物理的にも。


「よし。じゃあみんな乗り込んでー」


 一行は『魔導装甲車』で王都へ。街道脇をひた走る。速度は馬よりも少し早い程度なので40キロ程度だろうか。景色が早い速度で過ぎ去っていく。


「リム、どうだい?今の世界の景色は」


「そうですね。自然が増えましたね」


 『魔導装甲車』を操縦しながらレスがリムを気にかける。


「やっぱりそうなんだ。昔は街道もしっかり舗装?だっけ。されてたんだよね?」


「はい、転移魔道具が主流となる前はこの車と同じように魔導車で人は移動していましたので。走りやすいように道も平らに整備されていたんですよ。いまはその面影もありませんね」


「たまに名残のようなものは見かけるけど。魔導車が行き交う様子かー。見てみたかったな」


「マスターは見たら興奮するかもですね。忙しないだけですよ」


「そんなもんか」


「そんなもんです」


「ねえリム。昔の人はどれだけ強かったの?」


 ミーナが2人の会話に入ってくる。いまミーナはレスの隣に座っている。テネはロンの横で昼寝中だ。


「はい、単純に今の人とは持っている魔力量が違いますね。昔は魔力を効率的に増やす道具のようなものもありましたので。わかりやすい例えだと戦闘を生業とする人であれば、複数人で『竜』を狩ることが出来るくらいです」


「竜..」


 竜とは魔物の中でも最強種とされており、1匹の竜で都市ひとつは簡単に滅ぶ。人では例えば一級冒険者が何人いようとも絶対に勝てないとされており、現れた場合は逃げるか、生を諦めるしかないと言われている。気まぐれに人社会に現れる天災のような存在だ。イストンワンで戦った黒退竜などは『竜』から大きく退化し、竜という名が付いているが別種のようなもの。ミーナが古代人の強さのレベルを理解する。


「武具などの技術の差というのもありますが。あとは寿命からも魔力量の違いがわかりますね。当時の人族は平均で500年です。現生人族はマスターより聞きましたが長くて200年ですよね。これは保持する魔力量が影響しているのです」


「今でも魔力が身体の組織にいい影響を与えているというのはみんな知ってる事実だけど、古代の人は効率的に魔力を増やしていたってところが今の人達とは大きな違いかな」


「むー。羨ましいわ。500年も戦えるなんて最高ね。決めた!私も500年は生きる。ということでレス、魔物退治頑張るわよ。それで一緒に『竜』を狩るの」


「ミーナらしい目標だね。もちろん付き合うよ」


「さすがレスね!約束よ」


「私もご一緒しましょう。私の『究極の光』が赤く輝く時、生ある者はすべて息絶えるのです」


「..やっぱお前ら頭おかしいだろ?姐さん、それ味方も全滅してるからな?」


 レスとミーナ、リムの会話を後ろで聞いていたゾーイは呆れるしかなかった。

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