第25話 旅立ち

 ここはデルニエール。いよいよ予定していた旅立ちの日がやってきた。デルニエールの中央にレス、リム、テネ、ゾーイとロン、ミーナにエルが集合している。古代文明滅亡の謎を追う面々である。


「それでレスよぅ。まずはどこを目指すんだ?」


 ゾーイが最初の目的地を訪ねる。ゾーイとロンには旅用として新しい装備がレスから贈られている。まずは胸当ての代わりにベストタイプのプロテクターだ。衝撃緩和、斬撃耐性の魔道回路を内包し、物理系の攻撃にめっぽう強い性能を誇っている。素材のカラーリングは黒を基調に差し色で2人のパーソナルカラーになりつつある赤と黄を採用。鉄製の素材を使っていないため、軽く動きやすくなったと2人からは好評だ。次にレスが魔導ブーツと名付けた力作。軽量化を図り、衝撃緩和による足の裏サポート。脱臭効果も付け、大剣と同様に身に付けるだけで極小の魔力を吸収し、稼働する旅のお供に最適な逸品に仕上がっている。


「風の大精霊スージに会いに行こうと思ってます」


「ほぅ。てーと『黄昏の草原』か」


 ゾーイとロンが気合の入った顔つきになる。黄昏の草原とは北領の最北端にある人外魔境である。レスは魔眼で2人を見つめる。かなりの魔力量だ。この1年間で2人はひたすら自身を鍛えていたんだろう。レスも鍛えていたが、そのレベルを超えている。


(強い。相当準備してくれたんだな。俺じゃ普通には勝てないね)


「はい、王領経由で北方を目指します。途中に何箇所か遺跡もあるのでついでに寄ろうかと」


「了解だ。だったら王都にも寄りてえなー。あそこは美人さんが多くてよ」


「あらまあ、私たちのような美女を前にしてよくその発言が出来ましたね?」


「そうね。いい度胸だわ」


 リムとミーナがゾーイを蔑みの目で見る。ミーナは昨日、早速施術を受け魔眼を手に入れた。テンションが上がってレスに模擬戦を挑んできたが、ボコボコにされるまでがセットだった。ミーナの装備はドレスアーマーだが、これもレス作の胸当てを付けた魔導武具だ。徹夜でミーナのために製作した。衝撃緩和と斬撃耐性が付いているので金属でなくてもよかったのだが、ドレスアーマーっぽくなくなってしまうのであえて軽量の鉄を採用している。本当は片手剣も準備してあげたかったが、時間的に無理があった。旅の途中でここに戻って製作しようとレスは考えている。魔導ブーツはエルと2人分新たに女性用の足の形にそのままフィットするスタイリッシュなものを用意出来ている。


「うっ。ジョークだよ、ジョーク」


「ゾーイさんには今度デルニ家の家訓を少し伝授します」


「ぜ、ぜひお願いしてぇ。頼む」


 エルが微笑みながらレスとゾーイの会話を聞いている。エルはメイド服だ。これはかなりこだわりがあるようで旅だろうと着て行くらしい。レスは、動ける魔導メイド服を開発することを心に決めている。戦闘に参加することはできないが家事全般、特に食事の用意は得意ということでエルには生活面のサポートをお願いすることにした。ちなみに水魔術が得意らしい。


「レス、テネもデルニ家。家訓って何?」


 レスの肩の上にいるテネがデルニ家に反応する。テネはレスの仲間というポジションが納得いかないらしく、家族というポジションに収まった。リムと話し合った結果らしい。テネの格好は特に変化はない。もともと魔力の具現化で服装も装っているので特に必要はないのだ。レス一行の最強に死角はない。


「ん?たしかにテネにも伝授しないとね。今度教えてあげよう」


「ん。楽しみ」


 レスも装備を一新している。ベストタイプのプロテクターから白いオープンタイプのロングコートを羽織っている。武器として使用していたガントレットから革製の『指無手袋フィンガーレス』に。魔導具の操作など、動かしやすさを重視してるが性能も抜群だ。拳圧による衝撃波や魔力による障壁の展開など、攻防一体の魔導武具になっている。


「じゃあ皆さん、改めて。この旅は古代文明の滅亡の理由を調べることが目的になります」


「レス、俺らにも敬語はいらんから普通に話せ」


「そう?あまり意識してなかったよ」


 ゾーイの提案にレスは応じる。


「じゃあ、続きを。超技術をもった文明は滅んだ。相当のことがあったんだと思う。俺は手に入れたこの技術を必要であればどんどん広めたいけど、その前に古代文明が滅んだ理由を知っておきたい。何となく知っておく必要があると思ったんだ。だから個人的理由での思いつきの旅に同行してくれるみんなに感謝を。最初の目的地である黄昏の草原だって、人外魔境と呼ばれてるとおり、人の生存圏ではない危険な場所だ。それ以外にも色んな危険があるかもしれないけどみんなで協力していきたいと思う。よろしくね」


「かー!レスよぉ。俺らに任せとけ。そのための対価も十分にもらってるんだ」


「むしろ望む所よね。ゾーイ?強いやつは私の獲物よ」


 ゾーイとミーナの2人は意気揚々と答える。ロンは静かに頷き、エルはミーナを見ながらまったくもうといった感じで苦笑している。


「ありがとう。じゃあ早速出発するんだけど、リム?準備はいい?」


「はい、マスター。すでに施設は最低限の稼働以外は休止状態にしました。リムバードスタンバイOKです。ただ、定期的に戻ってくる必要はありますからね?施設の状態をチェックする必要はありますので」


「うん。それは考えてるよ。転移魔導具も準備してある。旅の途中でいい場所とかあれば設置してこことの転移網を構築しちゃおう」


 リムがヒヨコに移り、レスの頭の上にやってきながら要望を伝える。


「お前ら、すげーこと言ってる自覚はあるよな?ここと世界の各所繋げるって。移動の概念が崩壊するぞ」


「まあまあ、俺たちしか利用出来ないんだし。楽できるところは楽してきましょ」


「いつでもここに戻ってこれるってことね!ここの訓練室、最高なのよね。終わったあとの動きの確認も出来るし」


「ミーナはぶれないね」


「レス、早くいこ」


 テネが飽きてきたようだ。レスに出発を促す。


「おっし!じゃあみんな、外に出よう」



 デルニエールから転移でイストンゼムへ。そしてイストンゼムから王領へ向かう街道のスタート地点から少し離れた街道沿いに一行はやってきた。


「ふっふっふ。いよいよこいつのお披露目だね。快適な旅のために用意した魔導技師レスの力作だ!」


「あ、碌でもねぇぞ。こいつがこうなるときは碌でもねえんだ」


「レス様が興奮されるなんて珍しいですね」


「エルさんよ。こいつの本性はこっちだ。騙されちゃいけねぇ」


「どん!!!」


 レスの掛け声と共に重厚な黒い金属で出来た、馬車のような箱が出現した。車高は2m、全長は5mほどの長方形の物体だ。側面には入口とガラスが設置され、中の様子が窺える。また馬車のように車輪はなく、そのまま地面に接着している。


「「な、なん!!?」」


「ほらな。碌でもねぇ。で?何なんだよこの物体はよ?なんかの超兵器かなんかか?」


 ミーナとエルが驚愕し、ゾーイが呆れる。


「ゾーイさん、よくぞ聞いてくれた!これは『魔導装甲車まどうそうこうしゃ』。馬なしでも走る動く乗り物なんだ。古代文明において軍が開発した移動用の魔導機で、浮遊効果と横への推進機構を合わせることで魔力だけで移動することを可能に!装甲車と名乗っているとおり、防御性能にも優れてて………..」


「姐さん。レスがいつものに入っちまった。どうすればいい?」


「あらまあ。お茶目さんモードですね。ほっときましょう」


「でもレス。これすごい目立つわよ?人の目を集めすぎない?」


「によりどんな地形でも…ん?ミーナ、いい質問だね。それも問題なしさ。こいつには『光学迷彩』の魔導回路も組み込んでるんだ」


「こうがくめいさい?」


「そう。古代の技術のひとつで光と闇の魔術の応用で視認性を限りなくゼロに出来るだよ」


 レスは古代の知識で学んだ技術を惜しみなくこの魔導機に詰め込んでいる。


「さあ、みんな。乗って乗って!」


 レスがみんなを魔導装甲車に誘う。中には8つの座席が存在し、一番前は2座席のみ。前方が確認出来るように全面ガラス張りになっており、モニターや操縦用の装置のようなものが配置されている。レスが操縦席に座りその隣はテネ。2列目にゾーイとロン、後部座席にミーナとエルが座った。


「すごいいい乗り心地ね。これは革製かしら」


「そうですね。ミーナ様。侯爵家が所持する馬車よりも断然乗り心地がよいです」


「さあ、みんな席についたかな?出発するよ」


「システムオールグリーン。『魔導装甲車』稼働します」


 リムがあたかも魔導装甲車を操作しているように語り出す。


「いやいや、姐さん。あんたレスの頭の上にいるだけで何もしてないよな?」


「…こういうのは雰囲気が大事なんですよ。まったくこれだからハゲは..」


「くっ。ロン!いまのは俺が悪いのか??」


「ゾーイが悪い」


「くそ!俺の味方はいないのか。」


「ふふ。盛り上がってきたね。じゃあ皆さん!いきましょう!古代文明の謎に迫る旅へ!」


 魔導装甲車に魔力が供給され、宙に浮く。古代文明滅亡の理由を探る旅がここから始まったのだった。

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