第23話 相棒

「とうとう完成した。俺はやったぞ」


 ここはデルニエール。この1年は旅の準備と称し、合間合間に旅のための道具や資金稼ぎなど色々な準備はしていたが、レスは主にある魔導機の製作に取り組んでいた。それが今、完成したのだ。


 レスはリムのいる中央に移動する。お馴染みの鉄球は今日もふわふわとカプセルの中に浮遊していた。


「リム!やっと完成したよ!」


「あらまあ。テンションがお高いこと。一体何が完成したんです??ここ最近はずっと何か作ってるのは知ってましたが、あえて聞かなかったんですよ?私の期待を裏切らないで下さいね」


「ふっふっふ。これさ!」


 レスが両手で取り出したのは体長10cmほどの手乗りサイズのだった。


「鳥?」


 テネがどこからか現れてヒヨコを突く。


「…マスター?初手から私の期待を裏切ってます。行き場の失った私の熱いパトスはどうすれば?」


「リムさんや。慌てなさんな。早速始めちゃいますか。ちょっとそこ開けてもらってもいい?」


 レスは、リムが入っているカプセルを指差しお願いする。


「え?いいですけど何するんですか?」


「ありがとう。ちょっと動かないでね」


「ちょっと!えっち!どこ触ってるんですか!」


 レスがリムの球体を掴む。そのまま収納袋から管のようなものを取り出し、ヒヨコと直径させた。


「え、これってまさか..」


「気付いた?そうだよ。これはリムのもう一つの体なんだ」


 リムはいま入っている球体、厳密には魔導機に分類されるのだが、この球体のおかげで存在を維持している。しかし球体はカプセルの中で制御システムに連結されており、施設全体のシステムを制御する役割を担っている、要するにリムはここから動くことが出来ないのだ。各部屋に設置されたモニターを介することでコミュニケーションは可能だが、それだけだ。動くことができない事実に変わりはない。


 レスはそんなリムを放って置けない。これから旅にも出る。リムに世界を見せてあげたかったし、一緒に世界を旅したかった。だったら動ける体を作ってしまえばいいじゃないと考えた結果がこのヒヨコなのだ。


「うそ…本当に作ったんですか?」


「そうだよ。多分うまく出来ているから試してほしいな。こっちへの移動の仕方はリムならもうわかるでしょ?ただこの体では施設の制御は出来ないから使い分けは必要だけどね」


「さ、早速……」


 リムが恐る恐るといった様子でヒヨコに自身のコアを移動させる。管を通り、リムのコアがヒヨコに入る。その瞬間、ヒヨコの目に生気が宿る。


「あああ、新しい体です!動きます。視界もあります。すごい。すごいです!」


「おお」


 ヒヨコが表情を変えずに浮遊したり顔を動かし、周りの様子を見回したりしている。テネも感動している。このヒヨコ、コアの格納部分は複雑な魔導回路の組み合わせと金属で出来ているがそれ以外の素材は生物に近づけるよう、様々な合成素材で出来ている。ヒヨコの羽毛もしっかりと表現している。真っ白なフワフワボデーだ。かなり感動してくれているが表情は無表情なのでちょっとシュールである。


「この体は魔力が動力になってるんだ。だからリムの魔力が尽きない限り、半永久的に動けるよ。ただ、その間は施設を管理する者がいなくなっちゃうから一時的にシステムを任せる魔導回路も作っておいた。リムほど管理できる仕組みではないけど施設に問題なく魔力を供給し続ける管理システムみたいな働きはしてくれる」


「ええ。ええ。なんと言えば良いのか。マスター、私は精霊として生まれてから一番感動してます。これで旅にもご一緒出来るんですね。外に出ることが出来るんですね」


 レスは微笑みながら頷く。リムはずっと長い間、外の世界を見てみたかったのだろう。それはそうだ。2,000年以上もこの施設以外の世界を知らないのだから。


「リムも一緒に旅をすることは俺の中で絶対条件として決めてたことだったんだ。リムは何と言っても俺の相棒だからね。長く待たせちゃったけどこれで一緒に旅に出れるね」


「マスター、ありがとうございます」


「リム姉と一緒にお出かけ。テネも嬉しい」


「よっし!これで旅の準備は終わり。みんなで一緒にいこう!ただ設備のこともあるし、定期的にデルニエールには戻ってこよう」


「あ、そうだ。侯爵にも出発することを伝えないと。ミーナの件もあるし、一度城に行ってくるよ。リムも一緒に街に行ってみる??」


「もちろん!早速、外を見たいです」


「じゃあ、一緒にいこう。あ、その体に戦闘力はないから注意してね?」


「マスター。か弱い乙女を捕まえて何を言ってるんです?戦闘なんてするわけないじゃないですか」


「そりゃそうか。ははは」


「そうですよ。ふふふ」


「いいから早く行こ?」


 そう言ってレスの頭にリム、肩にテネが着地する。


「あ、こういうスタイルになるのか」


 頭にヒヨコ、肩に幼女を乗っけた美男子スタイルである。


「さあ、行きましょう!世界が私を待ってます」


「おーう!」


「賑やかでいいね。嬉しくなってきた」



 ***


 

 早速レス達は転移魔導具でイストンゼムへやってきた。


「これが今の街!随分と原始的な建物が多いのですね」


「知ってると思うけどリムの時代の技術はほとんど無くなっちゃってるからね」


「ああ!現生人族生命体がたくさん。?もかなり増えたんですね。なんかちょっと違うような?」


「『獣人』ね。僕らが『常人』と呼ばれるように彼らもいまでは人族の中のひとつの種族だよ」


 『獣人』。古代では強化人と呼ばれた彼らのルーツは常人である。古代の魔導研究により、人と魔物の融合という禁忌の研究により生み出された。魔導の黒歴史のひとつだ。いまでは、長い年月の中で常人と混ざり合い、ほとんど常人と変わらない容姿をしている。唯一、耳や尻尾など獣の特徴を残しているくらいである。常人よりも動物特有の優れた身体能力も有している。


 リムが忙しなく街の様子を見ては感動に浸っている。レスはゾーイとロンに合流出来ないかと思い立ち、冒険者組合に立ち寄ってみることにした。



 ***


 

 お馴染み冒険者組合に到着し、雑多な室内を見回すと見覚えのあるスキンヘッドの2人組がテーブルに座って雑談しているのを見つける。


「ゾーイさんー、ロンさーん」


「おお、レスか。どうした?」


 2人を見つけたレスは、2人の元に歩いていく。


「ん?なんだ?その頭の上のちんまいのは?」


「…このハゲが。なんて失礼なんでしょう。この至高の姿を見て、ちんまいとは。永久に髪が生えないようにしてやりましょうか」


「え!?ま、まさかこの声。姐さんか?」


「私以外に誰がこの素敵な声色を発せれるのですか」


「そ、外に出れるようになったのか?」


「そう!もう私を縛り付けるものは何もないのです。世界はもう私のものです」


「あんたは魔王かなんかかよ。でも、よかったじゃねーか」


 リムがヒヨコのなりで脅し、ドヤる。ゾーイも最初は混乱していたが今は嬉しそうだ。ロンも和かに頷いている。


「しかし、レスよ。こりゃ、お前が作ったのか?」


「そうなんですよ!旅に出るならリムと一緒に。と決めてたので」


「すげーな。本当によ。魔導具ってのは何でも出来るんだな」


「そうですね。ゾーイさんもロンさんも何か必要だったら言ってくださいね。あ、とっておきの装備は作っておいたので」


「まじか。すげー楽しみじゃねえか」


「ですです。出発前に渡しますので。あとは侯爵に出発の報告をしていよいよですよ」


「わかったぜ、いつでも出発できるように準備しておくわ」


「よろしくお願いします。ではまた」


「「おう」」


 用事も済んだのでゾーイとロンと別れ、レスは領城へ向かうことにした。


「なかなかしっかりとした建物が見えてきましたね」


「あれが侯爵の城だよ、渋い作りだよね」


 城に到着したが、今日は特に城に行くことを誰にも伝えていないため、城内に入り近くの騎士へ要件を伝えることにした。


「レスです。殿下との面会をお願いしたい」


 レスは少し前に騎士爵、貴族になった。まだ貴族街に住居を構えたりはしていないが、貴族として平民のような振る舞いは出来ない。まずは言葉使いから努力している最中だ。


「レス様、ようこそいらっしゃいました。いま確認してまいりますので少々お待ちください」


 

 エントランスで待つこと10分。侯爵は公務で忙しいようで今日は会うことが出来ず、後日改めて面談の予定を入れてもらった。そりゃそうだと納得するレス。大人しく城を後にし、リムと街散策を楽しんでデルニエールに帰っていくのであった。

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