第21話 ミーナの質問

 イストンツーでの戦いがひとまず収束し、騎士団と冒険者一行は数十名を経過観察要員として残し、残りはイストンゼムへの帰路に着いていた。


「じゃあ、レス。色々答えてもらおうかしら」


「もちろんです。何から知りたいです?」


 騎士団の隊列から少し遅れるようにして、レスとミーナは2人で並んで歩いている。テネはすでにレスの影の中で休憩中。ゾーイとロンも冒険者の隊列に加わっている。


「まずは、私を助けれくれた時にあの空中に浮いてた丸いやつ。あれは何なのかしら?」


「あれは『鉄射砲てっしゃほう』という魔導具です」


「魔導具..あんな魔導具、見たことないわ」


「それはそうですね。あれはオリジナルの魔導具ですから」


「…..私の聞き間違いかしら。あなた今自分で作ったと言った?」


「はい。俺が作った魔導具です」


「それがどういう事かわかってて言ってるわよね」


「もちろん。ミーナ嬢だから答えてるんです」


 レスは今回の事件を経て、領主や団長など上層部には魔導具が自作であることを伝える予定だった。今回の活躍で間違いなく注目を浴びることになるし、それであれば上手く協力体制を築きたいという狙いもある。


「そ、そう?ってなんで魔導具なんか作れるの?って話よ」


「んー。なんとなくこの後の質問が答えになると思うので他の質問してもらってもいいですか?」


「わかったわ。じゃあ次ね。あの子はだれ?」


「あの子はテネ。精霊です。あ、これはミーナ嬢にしかお話ししないので他言無用でお願いしますね。精霊を連れてるとか、騒ぎにしかならない気がするので」


「あのねぇ、魔導具を自分で作れるってだけで十分騒ぎになるわよ」


 テネの姿は戦場でミーナにしかはっきりと目撃されていない。ゴーレムを鎮圧したあと、スタンゼンとグレン達が駆けつけた時にはロンの肩にいたテネは慌ててレスの影の中に退避した。


「テネは偶然俺が発見して、困っていたので助けてあげたんです。それから懐いてくれて。いまはほとんど一緒に行動してるんですよ」


「え?じゃあ私の模擬戦の時も一緒にいたの?」


「はい、テネはミーナ嬢のことをよく知ってますよ。ね、テネ?」


「ミナは猪突猛進」


「な!?いまのあの子??か、かわいいじゃない。ミナなんて」


 レスが話しかけると影の中からテネの声が聞こえた。呼ばれ方だけでミーナはメロメロである。


「今度ゆっくり紹介しますよ」


「人型の喋れる精霊なんて..お願いね。ちゃんと紹介してね」


「もちろんです。あとは何がお聞きになりたいです?」


「そうね。あなたのなんだけど、体質って言ってたわよね?」


「はい、そうですね」


「さっきの冒険者の2人、ゴーレムと戦ってる時、あなたと同じ金色の眼をしていたわ。でもあの2人も普段は黒眼よね?戦ってる時だけ。しかもあなたと同じ片目だけ。たまたま同じ体質の人が集まったのかしら?」


(ですよねー)


 ゾーイとロンの戦いを近くで見ていたミーナが眼のことに気づかない訳がなかった。レスは質問されることを予測していた。


「わかりました。お話ししましょう。あれは『魔眼』といいます」


「ま、魔眼?やっぱり体質なんかじゃないのね」


「はい、嘘をついていてすいません。魔眼は簡単に人に話せるようなものではなくて」


「いいえ、かなり重要なことなのでしょ?気にしてないわ」


「ありがとうございます」


「それで?魔眼って何なの?」


「そうですね。簡単に説明すると魔力を見ることが出来ます」


「え?」


「魔力を見ることが出来るようになるんです」


「…………」


 レスは再度ミーナの質問に答えたが、ミーナが俯いて黙ってしまった。こころなしか体がプルプルしている気がする。


「………ずるぃ」


「え?ミーナ嬢?」


「ずるい!そんな眼で観られていたら勝てるわけないじゃない!」


(やっぱり勘がいいよなー。ミーナ嬢)


「ずるぃずるぃずるぃ」


「えぇぇ。ミーナ嬢、喋り方が」


 ミーナが何かタカが外れたように子供のような口調になってしまう。


「何??喋り方?なんかもう気を使うのやめた」


「気を使ってたんですか、喋り方」


「そうよ。お母様が貴族の令嬢たるもの、喋り方も淑女たれとうるさいの。って今はその話じゃないでしょ!」


「魔眼の話ですね」


「そう!ってことは魔眼がなければ私が勝てるわけね!」


「いえ、それはないですね。俺のほうが強いです」


 ミーナの推測をキリッと否定するレス。


「な、なんでよ!?」


「魔力の絶対量が違いすぎます」


「私だって魔力には自信があるよ!」


「んー。こればっかりは口で説明できないんですよね」


「魔眼があればわかるって言いたいんでしょ。で!?どうすれば魔眼は手に入れられるの?」


「やはりそうなりますよね。うーん。保留で」


「何でよ!?」


「魔眼の入手の話になるとかなり深い話も一緒にする必要が出てきます。もう少ししたらミーナ嬢にはご報告する予定でしたが、近いうちに長期の旅に出る予定なのですが、その旅に同行出来る仲間にしか話せないんです」


「あの冒険者達はその旅に同行する仲間ってわけね。…長期、長期って言った?」


「はい。長期です。今までは2週間に一回はイストンゼムに戻ってきてましたが、その旅は当分戻ってこれない予定です」


「じゃあ、私との模擬戦は?」


「ちょっと出来なくなってしまいます。すいません」


「いつ出発の予定なの?」


「あと1、2ヶ月後くらいでしょうか」


 ミーナがレスの説明を聞いてまた俯いてしまった。レスがそんなミーナの姿を見て心の痛みを感じていると、バッとミーナが顔を上げた。


「じゃあその旅に私も着いてく」


 驚愕な発言をするミーナ。さすがのレスも唖然としてしまう。


「いやいやいや、ミーナ嬢。あなたは侯爵令嬢ですよ。旅ですよ?旅。どこに旅する侯爵令嬢がいますか」


「旅に同行する仲間なら魔眼のことも教えてもらえるし、模擬戦も毎日出来る。これは最高ね」


 レスの言葉に耳もかさずにミーナはぶつぶつと呟いている。


(これは最短で解決しようと何かをしでかすぞ)


「この話は一旦お預けね。もうなんとなくわかったけどあなたが魔導具を作れることと魔眼は無関係じゃないんでしょ?」


「あ、はい。そうです。魔導具を作るには魔眼が必要なんです」


「魔眼なんて聞いたことない。だから今の人たちは魔導具を作れないわけね」


「ミーナ嬢の理解のとおりです」


 ミーナの理解力は高い。戦闘狂だが、優秀な女性なのだ。


「とにかくこの続きは街に戻ってから。まずはお父様への報告。あなたには褒賞が出ると思う。あれだけの活躍をしたからね」


「ありがたいお話です。街に戻ってすぐというわけではないですよね?』


「報告のあとに状況の整理とか準備もあるからすぐではないと思うわ。明後日くらいかな?まだ街にはいるんでしょ?」


「そうですね。では、明後日までは街にいるようにしますね」


「そうして。明後日のお昼前には城に来てもらえるとありがたいわ」


「わかりました。では、明後日は城にお伺いします」


 そうこう話していると前方にイストンゼムの外壁が見えてきた。


「さて、早速お父様と話さなくちゃ。絶対に着いていくんだから」


 ミーナが小さな声で呟いている。


(おお。明後日は何かが起こる予感がするよ。まあ、なるようになるか)


 レスは明後日のお城訪問に想いを馳せながら一歩一歩、イストンゼムへの道を踏み締めるのだった。

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