第20話 古代の兵器

「凄まじい威力だな」


 スタンゼンが戦場の様子を確認しながら呟く。石飛せきひの一斉射により、魔猩猩ましょうじょうの群れは半壊。遺跡の入口付近に残る数匹のみまで数を減らすことに成功していた。


「でも、魔猩猩達はこんな状況でも遺跡の中に逃げようとしないんですよね」


 戦場の様子を伺っていたレスは訝しむ。


「確かにな。やはり遺跡の中で何かあった可能性が高いな。ひとまずこのまま一掃するか」


 スタンゼンと話し合いをしていると、櫓の上からグレンが大声を上げる。


「団長!!遺跡の入口から妙なものが出てきました!あ、あれは??石像??動く石像です!」


 レスはグレンの言葉を耳にした瞬間、櫓を駆け上がる。


「あれは…魔導機『ゴーレム』…」


 レスの視界には人型で3mほどの大きさ、石で出来たような身体をもつ存在が現れた。


「ゴーレム??レス君、ゴーレムとは?」


「はい、遺跡の防衛機構のひとつです。侵入者を排除するための兵器のようなものです」


「魔猩猩はあれに追い出されてたってことか」


「その可能性が高いですね」


 レスはゴーレムを観察しながらグレンに説明する。魔導機『ゴーレム』は古代に施設内の防衛を担っていた魔導兵機である。侵入者の排除という命令のみを忠実に遂行するために自律稼働する。硬度の高い石や金属で身体を製作されており、高い耐久性を誇る。施設の防衛機構より供給された魔力が尽きるまで稼働を続ける優れた魔導機だ。


「なぜ外にまで…」


 本来は施設内より侵入者を排除した時点で目的が達成される。レスは暴走の可能性を考慮した。


「グレンさん、あのゴーレムに向けて一斉射を。このままだと近くにいる騎士や冒険者の皆さんが危険です」


「スタンゼン団長!一斉射にて撃退します!」


「許可する!」


 グレンがレスの助言とおり、スタンゼンへ即座に報告、石飛を一斉射した。

 ゴン!という鈍い音と共に着弾した岩石がゴーレムの体表で砕ける。


「か、堅い!?」


「いえ、魔力で体表を覆っているのでしょう。通常の石の耐久力ではないです」


 何事もなかったように近くの魔猩猩をその剛腕で撲殺していくゴーレム。魔猩猩が殲滅されたところでゴーレムの後ろからゾーイが強襲した。


「ゾーイさん!!」


 ゾーイの振り下ろしの一撃がゴーレムの肩部に炸裂する。少し体表を削ったようだ。


「堅ってーな!おい!なんなんだ、こいつぁ?」


 ゾーイの救援に向かうべく、レスは櫓を飛びおり、飛び降りる時に準備をしていた風魔術を発動し、着地の衝撃を和らげる。そのままゾーイの元に駆けつけた。


「ゾーイさん!」


「レス!!後ろ!」


 レスがゴーレムの後方からゾーイの援護のために仕掛けようとしたところにミーナの声が届く。


「もう一体!?ぐっ!」


 レスが振り向いた時には入口から出てきたもう一体のゴーレムの拳がレスに直撃。腕による防御は間に合ったが、衝撃によりそのまま地面を転がるように突き飛ばされる。


「いったー…」


 レスは衝撃ですぐ立つことが出来ない。ゴーレムはそのままトドメを刺すべくレスに向かって突進。再び拳が振り下ろされる。その瞬間、レスの影から大きな黒の手くろのてが出現し、ゴーレムの拳を受け止めた。


「レス、ごめん。助けるの遅れた」


 テネがゴーレムを黒の手で抑えたまま、影から出てきてレスに謝る。


「いや、あれは難しいでしょ。俺も油断して反応が遅れた。助けてくれてありがとう」


「こいつ、このまま弱らせる」


 テネが珍しく怒っているようだ。無表情だが少し声色に怒気が含まれている気がする。黒の手で魔力を四散させようと受け止めた手をそのままゴーレムの腕を覆うように変形させる。


「む。逃げられた」


 ゴーレムは全身を黒の手に覆われる前に腕を分離して後方に退避した。


「おお?分離した!よく出来てる!いま危機を察知して逃げたよね??」


「…この状況で何言ってるのよ」


「いやいや!実際にあの挙動を見ると感動です。魔導回路は回収決定ですね」


 駆けつけたミーナがレスの発言に呆れているが、テネの存在に気づきジッと観察している。


「まあいいわ。それでどう攻める?」


「やつは魔導具のようなものです。雷魔術で魔力の流れを乱したらどうなりますかね?」


「面白そうね。『衝電しょうでん』で動きを阻害しましょう」


「はい。テネ、俺とミーナ嬢で動きを止めるから黒の手でトドメを」


「わかった。思いっきりやる」


「よし!ミーナ嬢、やりましょう!」


 レスはゴーレムを狙って雷魔術『衝電』を具現化するため、ゴーレム目掛けて魔力を伸ばす。ミーナも同様だ。衝電は対象物に対して電撃を浴びせる魔術である。殺傷力は低いが一時的に身体の組織を麻痺させることで動きを阻害する。ゴーレムに内包される魔導板、魔力で動く身体に電撃を浴びせることで生物よりも効果が高いのではないかと考えた。


「「衝電」」


 2人同時に魔術を行使する。左右から迫る電撃にゴーレムは回避叶わず、直撃。雷特有の閃光がゴーレムを包んだ。

 閃光が止むとギギっと身体を上手く制御できていないゴーレムが現れる。


「テネ!今!!」


憤怒ふんぬ!!!」


 テネが矢のように引いて構えていた巨大な黒の手を一気にゴーレムに向けて放つ。物理的にではなく、黒の手の魔力を四散させる効果を全力で叩きつけたようだ。ゴーレムは直撃後、その場で活動を停止した。完全に魔力が四散し、稼働出来なくなったのだろう。


「一撃..テネの黒の手は魔導具にも有効すぎるね。反則級だ」


「この子は何なの?こんな小さな子、いなかったわよね?」


「俺の仲間です。あとでちゃんと紹介しますよ」


「仲間..そんな軽いものじゃない」


 レスの言葉にテネが膨れてしまった。レス、失態である。


「そ、そうなの。今日は聞きたいことが増えていくけどとにかく今は我慢ね」


「そうですね。あとはゾーイさんのほうへ」


 レスはゾーイともう1体のゴーレムがいた方向を確認する。そこにはすでにボロボロのゴーレムとゾーイ、ロンのコンビが対峙していた。ゴーレムの体表は赤く溶岩のように熱を帯びている。ゴーレムの攻撃をロンの岩壁が遮る。岩壁の背後から周り込むようにゾーイがゴーレムに近づき、赤くなっている部分を大剣を突き刺した。同じような攻防を繰り返し、とうとうゴーレムは活動を停止した。度重なる大剣の攻撃と炎柱により、供給された魔力が尽きたのだろう。


「さすがの連携ですね」


「おう。しっかししぶとかったわ。そっちはいい感じで吹っ飛ばされてたけど大丈夫か?」


 レスが近づきながら話しかけるとゾーイは大剣を背に収めながら答えた。


「ゾーイさんの拳ほどじゃなかったですね」


「くっく。冗談言えるようなら大丈夫だな」


「ロンさんも見事な守りですね」


 レスがロンにも話しかけるとすでにロンの肩にテネが居座っていた。


「ロン、レスがひどい」


「何?あとで俺から注意してやろう」


 その短い言葉で何が伝わったのか。レスは苦笑いするのだった。


「随分その冒険者達と仲がよいのね?」


「はい、ゾーイさんとロンさんと言いまして、俺と専属契約を結んでいる冒険者の方々なんですよ」


 ミーナの質問にレスが答える。


「お?よく見ればコイン姫じゃねーか!」


「…あなた、次にその呼び名を言ったら殺すわ」


 ミーナが青筋を立てて、強烈な殺気をゾーイに向ける。


「お、おお…魔物並みの殺気だぜ..」


「ゾーイさん。俺の言えたことじゃないですけどバージョン増やさないでください」


「お?バージョン?まあいい。お姫さま、すまねえな。以後気をつけるわ」


「ええ。そうしなさい。まったくレスの仲間はやっぱり同類ね」


「レス君!」


 スタンゼン団長とグレン分隊長が騎士団と冒険者を率いてやってくる。


「無事か?この場は完全に制圧した。見事な働きであったぞ」


 レスは周囲をみやるとすでに魔物もすべて駆逐され、遺跡の入口周辺は完全に騎士団と冒険者達で制圧されている状況だった。


「いえ、独断先行してしまい、すいません。でもなんとか制圧出来ましたね」


「ああ、あとは複数名を内部の調査に向かわせて問題がなければ今回の遠征は終了だ」


「それでは、その内部調査にも同行しましょう。有識者が着いていったほうが効率がよいでしょうし」


「助かる。では、少し休憩の後、早速調査に向かいたいと思う」


「あと、このゴーレムなんですが、1体頂いてもいいですか??研究に使いたくてですね」


「もう1体いれば十分なのでよいぞ。持っていくがいい」


 しれっとゴーレムの回収を要求するレス。了承を得られてガッツポーズである。


 休憩後に遺跡の調査が開始される。内部では複数の冒険者の死亡が確認され、生存者はいなかった。ゴーレムが稼働を開始したと思われる痕跡が残る部屋にも複数人の冒険者の亡骸を発見。やはり防衛機構を発動させてしまった結果、ゴーレムが稼働。稼働したゴーレムが無差別に排除行動を取り、魔物も遺跡外に追いやられた。というのが今回の顛末として処理されることとなったのだった。

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