第15話 ゾーイとロンがやってきた 後編
デルニエールには古代の魔導文化の知識、歴史がすべて保存されており、その技術を再現することができるすべての施設が存在することをレスは2人に説明した。常に驚愕の表情を浮かべながら説明を聞く2人。
レスの説明を聞きながらまずは食料生産室へやってきた。ここは人の身体に必要な様々な栄養素を多数の魔法陣で作り出す『魔導機』が設置されている場所である。レスは古代の知識として大型の魔導具のことを『魔導機』、武具は『魔導武具』と呼称してことを学び、そのままそう呼称するようにしている。魔導機を通じて生産される食料は、見た目は1cmくらいの小さな固形物。栄養価によって様々な色がついたものだが、まず味気がない上に満腹感は得られない。身体に必要な栄養素をしっかりと得ることは出来き、健康的に過ごせるだけの代物なのである。
「かああああ、しっかしバカでけえ魔導具だな!」
ゾーイが生産室に入って、魔導機を見た瞬間に吠える。確かに生産室の8割、横幅だけでも30mはあるだろう超巨大魔導機である。この中に様々な魔法陣を転写した魔導板が配置され、魔導回路として組まれ、最終的に小さな固形物を生産しているのだ。さすがのレスも資料で内容を把握しただけで分解して調べようとは思っていない。
「で、これがその『栄養食』ってやつか。ほんとにこれで食事したことになんのか?」
ゾーイがそう質問し、ロンは興味深そうに手に摘んでまじまじと見つめている。
「食事と同じ効果があるのは俺が2年ここに引き篭もっていたことで実証出来てますね。ただ、ほんとに味気ないんですよ。ただ水で飲むって感じです。試してみます?」
レスがそういうと2人は頷いて栄養食を口に含み、そのまま噛み砕いて食し始めた。
「おお、なんつーか。ちょっと素材?の味っぽいのはあるがただの粉のかたまりを噛んで飲み込む感じだな。こりゃ、俺には合わんな」
「……..」
ゾーイは渋面になり、ロンは無表情で黙々と色々な栄養食を試している。栄養の過剰摂取が心配である。
「俺は勉強や研究なんかに夢中だったんでそこまで苦ではなかったですけどね」
「とはいえ、やっぱり古代人ってのはすげーな。こんなもんまで魔導具で作っちゃうんだからょ」
次にレスが案内したのは素材生産室。ここにも同規模の魔導機が設置されている。この素材生産室でも魔導板によって様々な物質が作り出され、掛け合わせることで任意の素材を作り出す。食料生産の魔導機もそうだが、古代人の叡智の結晶だとレスは思っている。
「ここで俺の『
「その通りなんですけど『
「おう。こいつの銘だ。熱い男みたいでかっこいいだろう」
(お、おう。暑い、暑すぎるよ。ゾーイさんらしいか)
「ち、ちなみにロンさんはなんて銘を?」
「『
「直球ですね」
「ああ、わかりやすいだろう」
レスは頷いて、2人が大剣を気に入ってくれていることを再認識し、話題を変えることにした。
「お二人は何か欲しい素材ありますか?試しに作りますよ」
「そうだなー。そろそろ胸当てを新調したかったんだが、いい素材がなくてな。堅い金属でおすすめあるか?」
「俺も同じく」
ゾーイとロンは同じものを所望する。
「お、了解です。じゃあちょっと待っててくださいね」
レスは魔導機に備え付けられたモニターを操作し、素材をチョイスする。様々な素材、量、色なども指定でき、素材の解説機能もついている優れものである。
(んー。胸当てね。2人とも体格は近しいから同じくらいの量かな。硬度優先ね。最高硬度のやつをプレゼントしよう)
レスがモニターを操作すると、魔導機が生産を開始する。魔導機内で生産工程が完了するとモニター横の専用スペースに素材が排出されるようになっている。しばらく待っていると赤い金属と黄色い金属の塊が排出された。
「「おおおお!!」」
ゾーイとロンは実際に金属が生産され、出てきたところを見て驚愕の表情を浮かべた。
「はい、ではこれを使ってください」
レスは素材を2人に手渡す。かなりの重量がある金属だ。
「おう、なかなかずっしりくる重さだな。これ何の金属なんだ?」
「アダマンタイトですね」
「「アダマンタイト!!?」」
レスの答えにゾーイとロンは綺麗にハモる。
「お、お前、そんな気軽くもらえる金属じゃねえぞ。いくらすると思ってる?しかもなんか色ついてるし」
「いえ、お二人に中途半端な素材を渡すことは出来ません。堅い金属なら最高硬度でしょう!」
「そ、そうか。じゃあありがたくいただくわ」
「レス、ありがとう」
レスの勢いに負けて申し訳なさそうにしながらもアダマンタイトを受け取る2人。笑顔なので本心は嬉しくてしょうがないはずだ。
「これ、行きつけの鍛冶屋に持ってく時、絶対突っ込まれるよな、ロン?」
「勢いで行こう。遺跡で見つけたと言い切ろう」
レスは喜んでくれて大満足である。
それから訓練室などを見て周り、いい時間になってきたので中央へ戻ってきた。
「レス、今日はありがとうな。貴重な体験だったぜ」
「レス、ありがとう」
ゾーイとロンはお礼をそれぞれ口にする。
「いえいえ、楽しんでいただけてよかったです。最後にお二人に相談があるのですが」
「ん?なんだ?」
レスは少し真剣な顔になり、2人に話を切り出す。
「お二人に相談というか提案なのですが、俺と冒険者として専属契約を結びませんか?」
「おお?急にどうした?専属って意味わかってるか?」
「もちろんです。なのでちゃんと契約を結びたい」
レスは2人に旅へ同行してもらいたいと考えていた。遺跡を周るにしても冒険者の同行は必ず必要だ。信頼できる2人についてきてほしかった。とはいえ、2人にも生活があるのでしっかりと契約という形を提案したのである。
「条件は?」
ゾーイがシンプルに質問してくる。リムとロンは無言で静観している。レスとゾーイに話は任せるようだ。
「はい、まず俺がお二人に求める対価は旅の同行です。一方お二人に提供できる対価は2つです。まず1つは俺が製作した魔導具をお二人に無料でお譲りします」
「その時点でこちら側のほうが得をしていると思うが」
「いえ、俺が作る魔導具はまだ世に流通させないほうがいいものもありますので。ある程度選ばせていただきますし、量も制限させていただきたいんです。俺自身の資金を稼ぐために販売をする可能性もありますし。もちろん事前に相談はしますよ」
「それでもだが、まあいい。2つ目は?」
「はい、これがお二人にとってはもっともメリットがあり且つ絶対に守ってほしい秘密の一つになるんですが」
レスはここで少し間をあけて2人の様子を確認する。2人とも真剣に耳を傾けてくれている。
「魔眼の施術をさせていただきます」
「ま、まがん?」
ゾーイは訝しげな顔で質問を投げてくる。ロンは無表情だが理解は出来ていないようだ。
「はい、魔眼です」
レスはそういうと自身の魔眼を発動させる。左目が金色に変わる。
「お、おま!なんだ?その眼?」
「な、なに?」
ゾーイとロンは今日一番の驚愕の表情を浮かべている。
「これが魔眼です。この眼は魔力を見ることが出来る眼なんです」
「魔力が見えるだと!?」
ゾーイが少し声高に叫ぶ。その凄さを一瞬で理解したのだろう。レスは魔力が見えることによって魔導具が作れるようになったこと、戦闘でのメリットなどを簡単に説明した。
「戦闘での有用性はすぐ理解出来ていたが。なるほど魔導具ってのはそもそもその魔法陣が見えないと作れないわけだな」
「はい、旅に同行いただく場合、危険も伴うと思います。お二人にはいままで以上に強くなってほしいんです」
「2等級冒険者を捕まえてよくいうぜ。でもいまより強くなれるなら願ったり叶ったりだな」
「あれ?いつの間に2等級になったんです??知らなかったんですけど」
「お前なー。この間色街に遊びいった時に話しただろうが。ちゃんと覚えとけよ」
「あらあらまあまあ」
びっくりするレス。教えられていたらしいが覚えていなかったらしい。リムも知られざるレスの行動に思うことがあったようだ。
「すいません、ちょっと脱線してしまいましたが、これが対価のお話です。最後に今回の旅の目的ですが..」
レスは旅の目的は古代文明が滅亡した理由を各地の遺跡を調査することで突き止めるためと説明する。ここはどのような真実があるのかなど未知な部分が多く、これは必ず話してから判断してもらおうと決めていた。
「いま話した旅の目的や俺たちのこと、魔導具の出所などお二人からは情報が漏れないように徹底してもらいたいってことくらいです。あとはもし旅の途中で離脱の必要性とかがあればその時相談して決めましょう。どうです?」
「否はないな。どうだロン?」
「問題なしだ。逆にお願いしたい」
ゾーイとロンは契約に同意してくれた。これで2人は仲間だ。レスは信頼出来る仲間が増えて心の中でガッツポーズである。
「ではでは、私の出番ですね。さあさあゾーイさん、ロンさん。お二人に魔眼の施術を行いますよー」
表情はないが嬉しそうに話し出すリム。
「え、お前が施術をするのか?」
「あら?私では不服な感じです?」
「そ、そんなことはない!ぜひお願いするぜ!」
一瞬で失言を理解し、軌道修正を図るゾーイ。なかなか出来る男である。
「じゃあ、リム。2人をお願いね」
レスはそうリムに告げる。2人が仲間になったことで気持ちが昂るのだった。
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