第14話 ゾーイとロンがやってきた 前編
ここはイストンゼム。あれから1週間が経ち、レスは再びこの街に戻ってきた。設置した転移魔導具は問題なく稼働している。
(さて、ゾーイさんとロンさんを迎えに行きますかね。デルニエールに連れてったらどんな反応するんだろう。楽しみだね)
待ち合わせ場所に指定した冒険者組合の前に向かい歩きながらそんなことを考えるレス。冒険者組合が見えてくると見覚えのあるスキンヘッド、お揃いのカラフルな大剣を背中に背負った二人組がすでに待ち構えていた。何か周囲の視線を集めている。特に女性の。レスは急ぎ足で向かいながら2人に呼びかける。
「ゾーイさーん、ロンさーん。すいません。お待たせしてしまったみたいですね」
「おぅ。レス。1週間ぶりだな。元気してたか?」
「レス、迎えにきてもらってすまない」
ゾーイの挨拶に続き、ロンがお詫びをしてくる。
「ゾーイさん、俺が元気なくなることなんてないですよ。ロンさんもお気遣いなく」
「ちょっといきなり話しかわるんだけどよ?」
そう言ってゾーイがレスに顔を寄せてくる。
「この大剣、まじで最高だな。これ背負って2人でいるとよ。目立つのなんのって。特に女達の視線をビンビン感じてよぉ」
(そっちかー。まあ確かにおまけ機能つけたけどさ)
そう。この大剣にはレスが火と土の魔術とは別に、もう一つ魔導板を内包させている。その魔導板には装備者の魔力を自然と吸収し、装備者のフェロモンを強化する魔法陣が転写されているのだ。古代の知識の中に男女はなぜ惹かれ合うのかというものを研究テーマにしたものがあり、そこから開発された魔法陣のようだ。そこに魔力を勝手に吸収して常時発動する魔法陣を組み合わせ、魔導板を完成させた。さらにそれを武器に内包させるという遊び心溢れる暴挙。フェロモン強化により異性からすればなぜか気になってしまう程度の効果なので外道ではないだろう。
「そりゃ、こんな目立つ大剣を持った二人組ですもんね。注目もされちゃいますよ」
「そうなんだよ!ありがとな。まじで」
「レス、魔術の効果、すごかった。これのおかげで安全に今回の依頼をこなすことができた」
ゾーイが色ぼけなお礼をいい、ロンが硬派なお礼をいう。どちらもレスの狙い通りなので満足である。
レス一行はデルニエールに向かうため、レスの自宅の裏庭にやって来ている。レスは転移魔導具を起動するために外壁に手を当てた。
「まさか、自分家の庭、しかも街の外壁使って転移魔導具設置してるとはな。原理は遺跡のやつとおんなじか?お!繋がったみたいだな!」
外壁の一部に、デルニエールの転移室の様子が映し出されている。
「お待たせしました。では、いきましょうか」
「おうおう!楽しみだぜ」
ゾーイが我先にとデルニエールに転移する。レスとロンは苦笑いをしながら後に続いてデルニエールへ転移した。
「おお!ここがデルなんとかか!」
「デルニエールです。覚えてくださいね」
転移先はデルニエールの転移室。デルニエールの8つのうちの一つの区画を転移専用としてレスが改装した部屋だ。
「おお、遺跡の転移室みたいだな。断然明るいし、綺麗だが」
「そうなんです。参考にさせてもらって作ったんですよ。まだイストンゼムとしか繋がってないですけどね」
ここにはまだ起動していないいくつかの転移魔導具がすでに設置されている。旅先の要所に転移魔導具を設置することでいつでもデルニエールとの行き来が出来るようにしたわけだ。許可した人しか魔導具が起動出来ないように細工済み。それ以外にも旅に必要な道具類の倉庫なども配置されている。
「リムー。戻ったよ。2人に紹介したいからこっち来れるかな?」
「リムだぁ?お前、もう女を連れ込んでんのか?」
「レスだからな。当然だ」
ゾーイが嫉妬し、ロンが珍しく口を開きよくわからない肯定をする。レスはリムのことを2人にはまだ話していない。サプライズというやつだ。レスが呼びかけると転移室の扉の横に設置されたモニターにリムが映し出された。
「おかえりなさいマスター。あらあらまあまあ。ゾーイ様、ロン様、初めまして。いつも主人がお世話になっております。私は主人のパートナーでリムと申します。よろしくお願い致します」
リムがモニターの中でお辞儀をするような動きを見せながら挨拶をする。ゾーイとロンの2人は口が空いたまま、固まってしまっている。
「あら、お二人とも固まってしまいました。口を開けたまま固まるなんてお二人もなかなかお茶目さんですね」
「でしょ。面白い人達だよ。仲良くしてあげてね」
「マスターのお友達という時点で私にとってもお友達ですよ」
「ありがとう」
「はい、それにお二人がいなければマスターはここに訪れていなかったかもしれません。私にとっては感謝をしてもしきれない存在ですね」
「それはそうか。今日は2人にデルニエールの中を紹介しようと思ってるだ。いいかな?」
「もちろんです。あ、食糧生産室と素材生産室などおすすめですよね。きっと驚かれますよ」
「確かにね!俺も初めてリムに連れてかれた時は驚いたもんなー。特に「ちょっちょっと待てや!」」
レスとリムが会話をしていると再起動したゾーイがインターセプトしてきた。
「ちゃんと状況を見ような?もう驚いてるから。まずはこっちのフォローだろうが!こういうときは真っ先にフォローだろ?俺たちいま大混乱中だぞ?」
ゾーイがまったくもってのど正論をぶつけてくる。
「「………」」
レスとリムがゾーイを見る。そのまま無言で向き合うと、
「「いい」」
同時に何かを肯定を口にする。
「何がいいんだ?何が」
ゾーイが困惑の表情で2人に尋ねる。
「リム、やっぱりこれだよ」
「マスター、そうですね。私たちに足りなかったのはこれです」
「ローン!!俺は何か間違ってるのか!?」
「ハッ!」
ゾーイの救援依頼にロンはやっとリブートした。
「お前らよー。まじで。頼むぜ」
ここはデルニエールの中央部。リムが鎮座する施設制御装置の前である。あのあと転移室を出た一行はひとまず中央までやって来ていた。
「すいません、つい楽しくなってしまって」
「あまりにもいい反応をするものだから。ごめんなさい、ゾーイ様、ロン様」
レスとリムは、ゾーイとロンにお詫びする。
「まあいいけどよ。あと様付けはいらねーからな。そんな大層な者じゃない」
「わかりました。では親しみを込めて、ハゲと」
「飛ばしすぎだ!それにこれは禿げてんじゃねぇ!おしゃれで剃ってんだ、おしゃれ!」
リムはゾーイを気に入ってしまったようだ。
「おいレス!お前の相方はどうなってんだ?おれはもうボロボロだぞ」
「ふふ。ゾーイさん、勘弁してあげてください。リムは1,000年以上も1人で過ごしてたんです。人とお話しが出来ることが嬉しくてしょうがないんですよ」
「そ、そんなに..たしかにそれは寂しいな。よし、勘弁してやらぁ。ただ、ハゲは駄目だ」
「ありがとうございます。ゾーイさん」
レスはリムのフォローをし、ゾーイがしみじみ納得。ロンはそんな様子を暖かく見守っている。
「ちなみにリムでいいんだよな。リムは何もんなんだ?生物?でいいのか?
ゾーイは宙に浮かぶ喋る球体に質問した。
「はい、私は歴とした生物です。ちょっと変わった精霊さん?って感じでしょうか」
「せぃれぃー!?」
「なんと」
リムの回答にゾーイとロンはまた驚くことになるのであった。
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