第11話 魔導武具

 レスは厚い抱擁を受けたあと、組合を後にする。今は3人で食事をしようという話になったため、ゾーイおすすめの料理屋へ中央通りを歩いて向かっているところである。


「ほんっとうに無事でよかったぜ。2年だぞ、2年。何があったんだ?」


 ゾーイが嬉しさを爆発させるようにレスの背中をバンバン叩きながら質問を投げかける。凄まじい衝撃だ。嬉しさのあまり無意識に魔力が腕に流れてしまっているのではなかろうか。衝撃緩和の魔導板を内包したプロテクターを着ていなければどうにかなっていただろう。一方ロンは相変わらず抱擁のあとはクールだ。無言で頷いている。


「いや、それがですね…」

 

 レスはこの2人には本当のことを話すことを決めた。まずは受付長のダーゼンに説明したように生産部屋で赤い光線の魔術に襲われたところまでを話し、壁を破って部屋を脱出。地下があったことを話す。


「まじかよ。あそこ地下あんのか。俺らが再度部屋ん中に入った時は壁に穴なんて空いてなかったぞ?」


「遺跡の修復機能が活きてたんでしょう。もしくは崩れたかですね」


「ああ、一箇所確かに崩れてたかもな。それで地下でなんかが起こったのか??」


 ゾーイが少し興奮する様子で続きを催促してくる。


「でた場所はどうも失敗作の魔導具を廃棄するような場所で…」


 レスはそこからすぐに黒いトカゲに襲われ、まったく歯が立たず、袋小路に追い詰められたところまでを語る。


「冒険してんな、おい!もしかしてそれで怪我でもしてどっかで療養してたのか?」


「いえ?怪我もなく切り抜けましたよ。袋小路でさらにトラップが発動してですね…」


 レスは更にそこからデルニエールに辿り着くまでの流れを熱く語る。


「歩きながらじゃあ詳しく話せませんが、辿りついた場所は俺が追い求めていたような場所でして」


「ほう..てーとあれか?そこでなんか問題とか、何かに捕まったりしたのか?」


 レスは満遍の笑顔で答える。


「いえ?問題なんてなかったですし、捕まってなんかもないですよ。知識を得るのに夢中になっちゃいまして。気づいたら2年経っててげらっ!!」


 一瞬のうちにレスの笑顔がゾーイの拳により歪み、そのまま拳によって変形していく。斜め上の軌道で撃ち抜かれた拳により、レスは綺麗な放物線を描いて中央道りのど真ん中へ倒れ込んだ。大の字着地である。


「「「「「「…………………」」」」」」


 静まる観衆。青筋を立てて拳を斜めに突き上げているゾーイ、無言のロン。


「この!バカヤロウが!!どんだけ心配したと思ってやがる!」


「ゾーイ、レス聞こえてない。あれ気ぃ失ってるぞ」


 流石のレスも完全に不意打ちのパンチを回避する術はもっていない。気を失ったままゾーイに担がれ、料理屋に運び込まれるのだった。



「….いっはぃ。すこぃはれれます」


 料理屋の個室に案内され、そこで目を覚ましたレスは凄まじい痛みと自身の顔の腫れに苦々しい顔をしていた。


「やかましい..少しは反省しやがれってんだ」


 少しやり過ぎたと思っているゾーイ。そっぽをむいてブツブツ話している。


「ひとますなおひていいへすか?」


 このままではせっかくの食事も満足に取れないと判断したレスは治してよいかとゾーイに尋ねる。


「あ?治すっていったのか?勝手にしやがれ」


 レスは収納袋から15cmほどの布を取り出し、腫れた患部を布で覆う。すぐに腫れが引き始め、布を外すと何事もなかったような綺麗な顔が現れた。


「え?おま、え?いま何した??」


 ゾーイの表情が驚愕に染まる。ロンも同様だ。


「ふぅ。すごい痛かったんですけど。これは人の治癒力を高めて怪我を治す魔導具です」


「それが魔導具?初めて見るぞ。そんなもの」


「ふっふっふ。でしょうでしょう。これは俺が現代に甦らせた魔導具、『治療布ちりょうふ』です」


 遺跡にあるのは古代に生産された魔導具だ。布製の魔導具など風化により残っていても魔導具だとは思われず、回収などされていないだろう。


「甦らせた…もしかしてやれたのか?レス?」


「はい!自分で作れるようになりました!」


 ゾーイが自分ごとのように喜んでくれる。ロンはレスに向けてサムズアップしている。


「しっかし、はぁぁ。それに夢中になって帰ってくるのを忘れていたと」


「本当にごめんなさい。ご心配をおかけしました。あ、これお土産です」


 レスは収納袋から2枚の治療布を出す。1枚は先ほどの治療布と同じ大きさ、もう一つは30cmほどの大きさのものだ。


「傷の範囲が広い場合は大きいほうが便利なので。どちらを持つかはお二人で決めてください」


「いいのかよ。こんなすげー道具貰っちゃって」


「もちろんです。あ、欠損は治せませんから注意してくださいね」


 レスは念の為、注意を促す。


「わかったぜ。しっかし。本当に魔導具作れるようになったんだな」


「はい、地下に魔導具を作れる施設を見つけたんです。そこには古代の知識もあって。魔導具だけじゃなく、古代の知識すべてが学べるんですよ」


 レスはこの2人には実際にデルニエールを見にきてもらいたいと考えているので簡単な説明に留める。


「…そこは俺たちも行くことは出来るのか?ぜひ一度行ってみたいんだが」


「もちろんです!明日には帰る予定なので一緒にいきませんか??」


 レスは嬉しそうに即答する。


「あ、明日!?すげーありがたいがいきなり過ぎだな。明日から1週間はちょっと遠方に遠出の仕事が入ってるんだわ」


「そうですか..残念です。じゃあ1週間後に迎えにきますよ」


「いいのか?」


「はい、もちろんです」


「やったぜ!なあ、ロン。楽しみだな!」


「ああ」


 ロンが笑顔で頷く。


「あ、そうだ。あとこれはお礼です」


 レスはそういうと袋から今度は大剣を2本、取り出した。刃渡150cmの大物である。鞘に入っているので刃の色は見えないが、それぞれ赤色の刃と黄土色の刃をした特徴的な大剣である。鞘の色も刃の色に合わせてある。


「おいおいおい、なんてもの出してんだ!なんだよ、これ」


「これは魔鉄製の魔導武具です。魔鉄はかなり頑丈な鉄と認識しといてください。赤い方は火魔術、『火柱ひばしら』を発動させることが可能です。魔導具と同じなので魔力を込めることで発動します。ポイントは火柱を自身から半径5m以内の任意の場所、方向に発動させることです」


「え、ちょっと待て待て待て。やばすぎるだろ。そんなの」


 効果を聞いて青ざめるゾーイ。


「はい、傑作です。これはゾーイさんに。火魔術、使えましたよね?」


「たしかに使えるけどよ。よく覚えてたな」


「使えなくても十分に扱えますが、使えたほうが相性がいいのは間違いないので」


 レスは赤い大剣をゾーイに手渡す。次はロンである。


「ロンさんにはこちらを」


 レスはそう言って、黄土色の大剣をロンに手渡す。


「これは」


「それは土魔術の『岩壁がんぺき』が宿ってます。ロンさんの得意な属性はわからなかったのですが、ロンさんの戦い方をイメージして作ったのがこいつです。岩壁はまさに岩の壁を具現化する魔術です。これも赤い方と同様の範囲に形状、薄さ、大きさを魔力を込める量で調節して出すことが出来ます。守りながら戦うロンさんにピッタリの武器だと思ってます」


「レス…..ありがとう」


 ロンは深く頭を下げてお礼を口にする。


「ロンさんそんな!頭を上げてください」


「でもよ。レス、なんで俺たちにこんないいものを」


 ゾーイが自身の疑問を口にする。なぜこんなにという様子だ。


「お礼がしたかったんですよ。生産部屋の防衛機構が動いたあの時、最後の最後までお二人は俺を助けようとしてくれました。あれ、お二人だって死ぬ危険がありましたよね?ちなみに俺が最後まで置いてかないでっていってたらどうしてたんですか?」


「「置いていくわけがない!」」


「ほら。それがあの時わかったのでうれしかったんですよ。本当に。数時間しか一緒にいなかったはずなのに、この人達は命をはるんだと。その後も何回も遺跡に捜索に来てくれたんですよね?本当にいい人達確定です」


「そんな大事なことを言うのを2年も忘れてのか?」


 ゾーイが恥ずかしさからか、レスを茶化す。


「ゾーイ??」


 ロンがすかさずゾーイを諌めるように名前を呼んだ。


「んん!すまん。レス、こちらこそありがとう。いいもんをもらった。大切にするぜ」


「はい!ガンガン使ってやってください。何かあれば俺が直すんで。あ、銘はまだないのでつけてあげてくださいね」


 その後はたわいない会話と食事を楽しみ、食事会は終了する。



「レス!!今日はこのまま色街いくぞ!俺様が金を出してやる!お勧めの店があるんだ」


 ゾーイの店を出たあとの第一声がこれである。


「いいですね。甘えさせていただきます!」


 男3人は肩を組み合い、色街に消えていくのだった。

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