第3話 遺跡イストンワン
遺跡の中は外壁と同じ石のような素材で作られた内壁で仕切られており、天井には等間隔で照明の魔導具が設置され、すべての照明魔導具が稼働しているわけではないようだが視界の確保には十分な明るさがあった。真っ直ぐと伸びた横幅5m、高さは10mはありそうな通路、見える範囲にこれまた等間隔に部屋への入口のようなものが見える。しっかりと区画整理がされた構造のようだ。
(街では見たことのないタイプの照明魔導具!!稼働していないやつは取ってもいいよね??)
「よし!」
レスは身を屈め、魔力を下半身に循環させる。下半身の筋力が強化されたことを確認し、それから一気に天井に向かって跳躍。
「バカタレが!よし!じゃねー。」
跳躍後すぐにゾーイがレスの足を掴み、地面に引き戻す。勢いよく引き戻され、レスはバランスを崩して床に尻持ちをついた。
「いつつっ」
「まったくよぉ。いいか?遺跡では何がきっかけで防衛機構が動くかわかんねーんだ。どうせあの照明取ろうとしたんだろ??まじで目が離せねーな。ちょっと落ち着いてそこに座れ」
防衛機構..レスはハッとなり、自分が危険な行動を取ったのだと認識させられた。これは大いに反省である。体育座りになり、俯く。
「魔物を斃したこともねーのに大した魔力操作だよ。で、反省は出来るようでなによりだ。..これで女にはモテるんだから世の中どうなってんだ。いや、むしろこのギャップが…..」
「ゾーイ、さっさと説明を始める」
ゾーイが腕を組んで考え込んでしまっているとロンが珍しく会話を促してきた。
「おっと、すまねぇ。さて、いいかレスくん。さっきも言ったが遺跡内では何が原因で防衛機構が動いてトラップが発動するかわかんねぇ。突飛な行動は控えてくれ。」
「わかりました。ご迷惑をおかけしてしまいました..ちょっと本当に冷静に行動するようにします」
「よし。さっそく探索についての説明をはじめっぞ。まず、遺跡はいくつかのエリアに分けられている。入口があるここはエリア1だ。全部で9つのエリアに分けられてて、現在はエリア3までが探索済みになってる。ちなみにここイストンワンは1階構造で現在の探索済みのエリア内には地下はねぇ。ここまではいいか?」
レスは体育座りのまま、頷いた。予備知識のとおりである。
「そりゃ、調べてるか。まあ、続けるぞ。なぜ全部でエリアが9つあるのがわかるのか。それは転移室の存在だ。遺跡の入口付近には俺らが転移室と呼んでる部屋が必ずあってな。その部屋には遺跡の各エリアに一瞬で移動出来る魔術みたいなもんを発生させてる魔導具が設置されてるんだわ。イカれてるだろ?古代人様は歩くのも億劫だったんだろうな。それだけでそんな魔導具を作っちまうんだから」
「さいっこうにイケてますね」
レスは体育座りのまま、キリッと答える。事実、遺跡の面積は広大なので億劫なのではなく、効率を考えた結果なのだろうが。
「お前、ほんとによ。ツラがいいから余計腹立つわ。で、ここイストンワンにも転移室がそこにあるわけだが、全部で9つの魔導具が設置されてる。これは相互で起動させないと動かないようになっててな。いまのところ、3つのエリアを探索してそれぞれのエリアで転移室を見つけ、転移魔導具を起動させることに成功してるってわけだ。俺ら冒険者が命を張って危険を冒して未知のエリアを突き進み、人々に古代の叡智をお届けしているわけだ」
ゾーイが握り拳を掲げ、説明に熱が入ってくる。
「最高にイケてますね。だから冒険者と呼ばれてるんですよね」
(そうなんだよな。冒険者には感謝だよ。おかげで人の生活は豊かで便利になってるんだから)
「ちょっとさっきの古代人の件より淡白な気がするがそのとおりだ。で、だ。今日はエリア4に向かう。エリア3まではほとんど探索しちまって魔導具なんて残されてないからな。まずは転移魔導具でエリア3に移動し、そこから徒歩でエリア4に入る予定だ」
「わかりました。よろしくお願いします」
レスは立ち上がり、一礼をする。さっそく一行は転移室へと移動する。
転移室の中に入ると殺風景な室内に九つの箱のようなものが壁面に等間隔で埋め込まれている様子が視界に入ってきた。一部分が発光。厳密には3台は緑色、6台は赤色に発光している。
「これが、転移魔導具。発光してるってことは常に起動している状態なんですね」
「みたいだな。ほら、ほかの6台は赤く光ってるだろ?あれは対になってる向こう側の魔導具が起動してないってことみたいだな。向こう側も起動させるとこんな感じで緑色に発光するんだ」
レスの質問にゾーイが丁寧に答えてくれる。一旦落ち着かせた気持ちがまた昂ってくる。
(落ち着け、レス!!!凪、凪るんだ!)
「ふー。では、お二方、エリア3へいきましょう」
「??大丈夫か?まあいい。じゃあそこの箱に触れて魔力を流してみてくれ。それで向こう側につながるから」
レスは指定された魔導具に手を当て、魔力を流した。瞬間、目の前の壁がぼやけ、うっすらと別の部屋の様子がみえてくる。次第にはっきりと部屋が映し出された。ゾーイとロンはなんでもないように映し出された部屋へ進んで入っていく。
(えええ、こんな感じ??どうなってんのこれ、この先は本当に別の部屋?すげ、すっげー。)
「ほあああああ!」
レスは凪れなかった。
「お前さぁー。ほんとにまじで。いきなり発狂すんなよ。ビビるだろうが」
「すいません、、あんな魔導具は街にはないので。知っているつもりでも実際見ちゃうともう混乱しちゃって。あの体験だけでも今日来た甲斐がありました」
エリア3に入り、エリア4に向けて歩いて通路を移動する一行。作りはエリア1とまったく変わらない。
「そうかい。そりゃよかったよ。エリア3まではあまり魔物には遭遇しないが、4からは普通に遭遇するからな。そろそろまじで気を引き締めろよ」
ゾーイが先導し、真ん中にレス、後ろをロンが守る形で通路を進んでいく。
「ロンさん、後ろについてくれてありがとうございます」
レスは後ろを振り向かずにロンに話し掛ける。
「気にしなくていい。これが俺たちの今日の仕事だ」
クール、ロンはクールである。レスは安心感を覚え、通路を進んでいった。
エリア4に入り、いくつかの部屋を探索する。部屋は古代の人が何かの研究に使っていた形跡や生活の拠点になっていたであろう場所など様々だ。すでにめぼしい魔導具は回収されているようでいまだ魔導具の発見には至っていなかった。
「ん、あそこにも部屋があるな。入ってみるぞ」
ゾーイが新たな部屋を発見。警戒するように壁に背を預けながら入り口から中を覗き込んだ。その瞬間いままで感じたことのない気配がレスを襲う。
「巣食ってたか。
ゾーイが腰袋から3cmくらいの球のようなものを取り出す。「
投げ入れた球は煙玉だったようで、部屋の中に煙が充満する。
「これでやつら、たまらず部屋の外に出てくるって寸法よ。レスくん、そこ動くなよ」
部屋の入口から一旦離れ、ゾーイは大剣を構える。ロンもレスの前に立ち、大剣を構えた。煙の中から黄色い素肌に黄色い体毛を纏った猿のような生き物が4匹、目を充血させて這い出てくるのであった。
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