教師近藤と宇宙人
これは、近藤が中学生だったときの話です。
彼の自宅からそう遠くない雑木林の中の開けた場所に、UFOに乗って五、六人の宇宙人が降り立ちました。
彼らの目的は、しばらく滞在して地球を調査することでしたけれども、状況によっては征服するという行動に踏みきる可能性もかなりありました。つまり、我らの星に危機が訪れたのです。
宇宙人が舞い降りて数日が経った日中に、彼らがいるUFO内に一人の地球人が現れました。
「誰だ?」
出入口から堂々と侵入してきた相手に対して、一番近い位置にいた宇宙人が声をかけました。
「お前たちを倒すために来た、通海中二年C組の近藤だよ!」
近藤は今も無茶をしますが、若くて最も血気盛んな時期だったこともあって、当時の無鉄砲っぷりといったらありませんでした。
「……」
得体の知れない自分たちに向かって、何の武器も持たず、幼い子どものヒーローごっこを思わせる登場をした近藤に、宇宙人たちは「何なんだ? こいつは。頭は大丈夫なのか?」と、揃って茫然となりました。
「学校の教室で、私のクラスメイトがこの辺りでUFOを見たと言っているのを耳にして、やってきたのだ。この近藤がいる限り、どこの星のどんな猛者であろうとも、地球にかすり傷一つつけさせはしないぜ!」
近藤は、またしても作りもののヒーローのように、かっこつけたポーズを決めて言ったのでした。
宇宙人たちはそれに付き合って派手なリアクションをとったりはせず、あっという間に彼を捕まえると、柱にロープでくくりつけました。非常に原始的なやり方ですが、こいつにはこうするので十分と判断したからでした。
「くっ、くそう。私をどうする気だ!」
もがいてもまったく動くことができない近藤は、ヒーローにつきもののピンチが訪れたという感じの、やたらと苦々しい表情で訊きました。
「別に。そのままでいてもらうだけだよ。うるさいようなら口もふさぐから」
宇宙人は相変わらずシリアスな近藤の態度に合わせることは一切なく、とても軽い調子で答えました。
「おい! 待てーい!」
このままではどうにもならず、しかもこの先自分を無視しそうな勢いの宇宙人に、近藤は大声をあげました。
「見たところ五、六人はいるお前たち大の大人が、たとえ勇敢な私とはいえ、たった一人の中学生を人質にとるような格好となっては、もし世間に知られた場合に恥ずかしくないか?」
助かりたいだけなのが見え見えな発言でしたけれども、一理あるなと思った宇宙人たちは少しの間話し合い、彼を解放することにしました。
「ただし、我々のことは誰にも話すなよ。さもなくば、自分はもちろん、家族などお前の大切な者たちの身がどうなるかわからないからな」
最後にそう忠告されて、近藤は自宅に帰っていきました。
すると、驚くことに彼は、普通なら黙っているでしょうし、不安を一人で抱えることができなかったり、秘密を言い触らさないではいられないといった性格の人でも、少なくとも躊躇はするであろうところを、家に着いた直後から周囲の人々に平気な顔でペラペラと宇宙人についてしゃべったのです。
一応近藤を監視していた宇宙人たちは呆れ果てました。知能や戦闘力などほぼすべてにおいて地球人を格段に上回る彼らは、実際は自分たちの存在を知られてしまっても痛くもかゆくもありませんし、それはそれで事態がいかに推移するかのデータを得られるので、調査を行ううえでも特に問題はなく、まったく構いませんでした。近藤が口を滑らせてしまうくらいは当然想定済みで、けれども地球人がどういう行動をとってくるにしても単純にわずらわしいため、なるべくしゃべらないようにと脅し文句を口にしたのでした。ゆえに解放はあっさりしたのですが、それにしても中学生といったらもうけっこうしっかりしていてよい年頃です。それがあんなにも危機感なく即座に何人にも話してしまうなんてと、一気にこの惑星に対する興味が失せて、調査するモチベーションもなくなってしまいました。賢い彼らですから、地球人が全員近藤くらい愚かではないとわかっていましたが、一方で賢いがために近藤へのドン引き具合も尋常ではなく、とにかくここには居たくないと早々に引きあげていきました。
こうして、結果的に近藤が地球を救ったかたちとなったのでした。
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