第10話 クラス委員長、水鏡鏡花

 いつも通りに起きて朝食を食べたあたし。その後の準備も登校もいつも通りだね。今日も何気ない1日になるのかな…?


時は流れ、体育の時間を迎える。中学の時は更衣室に行って着替えたけど、女子校の今も変わらない。移動の手間があるから教室で良いじゃん。


なんて、一生徒のあたしが文句を言ったとしても変わる訳ないよね~。そう心の中でツッコみながら、満里奈ちゃん・恋ちゃんと一緒に更衣室に向かう。



 更衣室に着いた後、あたし達3人は近くのロッカーに着替えを入れる。入れた後はお楽しみタイム♡ 各自着替えを始める。


今日は体育があるのがわかってるから、見られても良い下着を着ている。これからはどんな時も、下着に気を遣うようにしよ♡


「紗香、今日は黒なんだね。昨日の白も悪くなかったよ」


「そういう満里奈ちゃんも、ライトイエローが良い感じ♡」


黒からライトイエローの変化は、ギャップがあるように感じる。下着でギャップを狙うのも面白そう♡


「恋は昨日と同じピンクか。本当に好きだね~」


でもデザインは違う。昨日のも今日のも、どっちも良いよ♡


「恋ちゃんはピンク好きなの?」

付き合いが浅いから、その辺はわからない。


「下着に限ってはそうだね。恋は大人しいけど、下着の色は明るめが多いよ」


恋ちゃんに変わって満里奈ちゃんが答えるとは…。2人は幼馴染だから、好みの色も把握してるんだね♡


そんな風に盛り上がっていると…。


「あなた達! いつまでもそんなはしたない姿でいるのは止めなさい!」


そばにいるクラス委員長、水鏡みかがみ 鏡花きょうかさんに怒られた。ずいぶんイライラしてる感じだ。


「別に良いじゃん。ミラーちゃんが気にし過ぎなんだよ」


満里奈ちゃんが言った“ミラーちゃん”というのは、委員長のあだ名になる。鏡の音読み・訓読みそれぞれが名前に入ってるので、英語のミラーも加わった形だ。


いつの間にかクラス内で広まってたから、一部の人はそう呼んでいる。


「花園さんは、淑女としての自覚が足りませんわ! そんな調子だと、これから苦労しますわよ?」


「はいはい」

軽く聞き流す満里奈ちゃん。


委員長は何故かお嬢様口調で話す。漫画の表現だけかと思ったら、本当に実在するんだもん。入学早々の自己紹介で聴いた時はビックリしたな~。


「もうそろそろ体育が始まりますわ。絶対遅れないように!」

そう言って、委員長は更衣室を出て行った。



 「この学校、そんなに偏差値高くないのに“淑女”とか言われてもねぇ…」


あたしも満里奈ちゃんと同じ考えかな。中1でを済ませたから。淑女とは無縁だよ。もしそれが委員長にバレたら何を言われるか…。


「満里奈・さやちゃん。あれ以上水鏡さんを怒らせないようにしないと」


恋ちゃんの一声で、あたし達はすぐに着替えて更衣室を出た。



 今日の体育はバレーボールだ。クラスの人数的に6人制の4チームできたんだけど、満里奈ちゃん・恋ちゃんとは別のチームになっちゃった。


総当たり戦の結果、今はAチームとCチームの決勝戦が行われている。あたしがいるDチームとBチームの3位決定戦は、Bチームの勝利であっけなく終わった。


試合がすぐ終わって時間が余ってるから、決勝戦を観戦してるって訳。ちなみに、満里奈ちゃんはAチーム・恋ちゃんはCチームにいるよ。


“話す人がいないな~”と思った時、さっき委員長に声をかけられたことが頭をよぎる。委員長とは高校で初めて会ったけど、どういう人かよくわからない。


人となりを知っておくと何かと便利かも? あたしのチームに、彼女と同じ中学出身の吉澤さんがいるし色々訊いてみよ。



 「吉澤さん、ちょっと良いかな?」

あたしは1人でのんびり観戦している彼女に声をかける。


「どうしたの? 影山さん?」


「吉澤さんって、確か委員長と同じ中学だったよね? どういう人だったの?」


「前から真面目だったけど、中学の時はあんなしゃべり方してなかったんだよ」


「え? そうなの?」

ってことは、あれはキャラ作ってる?


「うん。“高校デビュー”なのかな~? 私もそこまで仲良くないから…。家はちょっとお金持ちって噂だから、の可能性もあるかも」


「へぇ~」


委員長の謎がさらに深まったのだった。



 ……どうやら決勝戦が終わったみたい。勝ったのは、満里奈ちゃんがいるAチーム。戦力が互角に近かったから、僅差の勝利になった。


決勝戦が終わったので、体育の時間は終了した。また着替えの時にイチャイチャしたかったけど、委員長の目が気になるので「最低限にしよう」と満里奈ちゃんと恋ちゃんに伝えたところ、2人も納得してくれた。


クラスのトップを敵に回したくないからね。イチャイチャは学校じゃなくてもできるし♡


体育の後は、帰りのホームルームだ。担任の連絡事項を聴いてから放課後を迎える。


「紗香。一緒に帰ろ~」

満里奈ちゃんと恋ちゃんが、あたしの席まで来てくれた。


「うん」

返事をしてから、席を立とうとした時だ。


「はぁ…」


あたしの斜め後ろの席の委員長が、大きなため息を漏らした。その後席から立ち上がり、重い足取りで教室を出て行く。


「ミラーちゃん、テンション低かったね」


「満里奈ちゃんも聞こえてたんだ?」


「当然」


…そう言い終わってから、彼女の表情が変わる。何か企んでるね。


「紗香・恋。ミラーちゃんの悩みを解決しない?」


「水鏡さんの悩みを?」


「そう。私達あの時怒られたじゃん? だからご機嫌取ったほうが良くない?」


下心を見抜かれる気がするけど、悪くないと思う。


「あたしも満里奈ちゃんに賛成。恋ちゃんはどう?」


「わたしも良いと思う」


「よ~し、すぐに委員長を追いかけよう!」

あたし達は早歩きで委員長の元に向かう。



 「委員長~!」

昇降口で靴を履き終えた委員長に声をかける。


「影山さん、どうかしましたの?」


今も暗い顔をしている。そんな顔してると気になるじゃん。


「委員長、何か悩みがあるでしょ? さっき大きなため息ついてたから気になったんだよ」


「聞こえてましたの? 申し訳ないですわ…」


「そんな事は良いから。話せば楽になるって」


「ですが、影山さんにどうにかできる話じゃないので…」


委員長は真面目だから、悩みも難しいのかな?


「私達、ミラーちゃんに怒られた罪滅ぼしをしたいんだよ」


満里奈ちゃんが本音を暴露した。あたしと同じように心配してる?


「そういう事ですか。…良いでしょう、わたくしの悩み聴いてもらいますわ」


「んじゃ、自販機の所に行こっか。良いよね? 委員長?」


「もちろん」


あたし達4人は、休憩スペースにある自販機の元に向かう。



 「委員長、何飲みたい? おごるよ」

自販機前に着いたので、あたしは委員長に声をかける。


話すとのど乾くよね。これも罪滅ぼしの一環だ。


「でしたら“水”をお願いしますわ」


「水で良いの?」


「ええ」


要望通り、水を買って委員長に手渡す。その後、あたしはミルクティー・満里奈ちゃんは缶コーヒー・恋ちゃんはオレンジジュースを買った。


全員買い終わった後、長椅子に座る。委員長の左右をあたしと満里奈ちゃんで挟み、恋ちゃんは満里奈ちゃんの横に座る。


「それで、委員長の悩みは何?」


「実は…、わたくしが登校する少し前、自宅の給湯器が壊れたみたいで…」


「給湯器が?」


「ええ…。今日中に業者の方が来て直して下さると良いんですが…。わたくし、お風呂に入れないのは耐えられませんの」


あたしだって耐えられないよ。この悩みなら、確かにあたしに出来る事はない。


「その不安とストレスで、あの時影山さん達にきつく言ってしまいましたわ。本当にごめんなさい」


まさか謝られるなんて…。そういう事情なら仕方ないかも?


「さっきのため息は、影山さん達に言い過ぎた事も含んでいますの。やつ当たりした自分が情けなくて…」


「あたしは全然気にしてないから!」


「私も~」


「…わたしも満里奈と同じ」


良かった。満里奈ちゃんと恋ちゃんも気にしてないみたい。


「という訳だから、委員長も気にし過ぎちゃダメだよ」


「わかりましたわ…」



 お風呂に入れない悩みか…。そう考えた時、以前千夏さんが言った事を思い出した。


『紗香もで良いけど、銭湯の宣伝してよね!』


いわゆる新規開拓のことだ。あたしも千夏さん達の力にならないと!


「委員長、もし今日中に給湯器が直らなかったら、あたしが働いてる銭湯に来ない?」


「影山さん、銭湯で働いてますの?」


「うん、みんな良い人なんだよ~。それにキレイなところだから、きっと委員長に満足してもらえると思う」


…満里奈ちゃんと恋ちゃんも頷いてくれた。


「知らないところは不安だろうし、これから見学するのはどう? あたしバイトあるからどっちにしろ行くんだよ」


「そうですわね…。その銭湯気になるので、同行させてもらいますわ」


「私も遊びに行く~」


「わたしも…」


委員長と2人きりは気まずいから助かるよ~。


「それじゃ、これから行こうか」


「ええ。影山さん、案内お願いしますわ」



 最後に飲み終わった委員長が容器を捨てに行ってる間、満里奈ちゃんが小声で話しかけてきた。


「紗香、あの銭湯訳アリだけど大丈夫なの? 気になるから付いて行こうと思ったんだよ」


あそこはだからね。満里奈ちゃんが心配する気持ちもわかる。


「何とかなるでしょ、きっと」

千夏さん、お願いだから委員長がいる時はHしてないで!


「…お待たせしましたわ」

委員長があたし達の元に戻ってきた。


全員準備完了したので、休憩スペースを出て銭湯『千夏と千春』を目指す。

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