第11話 普通じゃないの?

 委員長の水鏡みかがみ 鏡花きょうかさんを連れて、銭湯『千夏と千春』前に来たあたし・満里奈ちゃん・恋ちゃんの3人。


ここに来るまでの間に委員長がお母さんに連絡したところ“今日中に給湯器の修理はできない”と業者から連絡があったらしい。


なので、ここを気に入ってもらえたら利用してもらえそう。


「委員長、第一印象はどう?」

下手すると、中にすら入ってくれないかも?


「素晴らしいですわ! ですが、思ったよりこぢんまりとしてますわね」


「ここはそういうところだから。全ての銭湯が広いとは限らないよ」


「なるほど。わたくし銭湯は初めてなので、よくわかりませんの…」


「あたしだってここ以外は利用した事ないよ。千夏さん達の話を聴いたに過ぎないから」


「千夏さん達というのは?」


「ここの店長。古賀 千夏さんっていうの。彼女のお母さんと旦那さんも働いてるよ」


「3人で切り盛りを…。それは管理が大変でしょうね」


「ねぇねぇ。いつまでおしゃべりしてるの? 早く入ろうよ」

満里奈ちゃんがしびれを切らして声をかけてきた。


「そうですわね。影山さん、お願いします」


「わかった」


あたしを先頭に、委員長・満里奈ちゃん・恋ちゃんの順に店内に入る。



 店内に入って早々、委員長が辺りをキョロキョロしている。…落ち着いたかと思えば、開けたスペースにあるマッサージチェアを見つめている。


「委員長、マッサージチェア使いたいの?」


「わたくしじゃなくてお母様にですわ」


そういう事か。親思いだね~。


「とりあえず、受付に行ってからスタッフルームに入るからね」


「? わたくしも入って良いんですの?」


「良いの良いの。満里奈ちゃんと恋ちゃんもここでバイトしてないけど、昨日入ったから」


「『紗香の友達』ってことで、おもてなしされたんだ~。ミラーちゃんもそうなると思うよ」


「ありがたい事ですわね。お店の人のご厚意に感謝しなくては」


なんて、受付に向かう間におしゃべりしてると…。


「おや? また新しい子が来たの~」


スケベジジイの下根さんがこっちに来た。委員長はここがなのを知らない。今は関わりたくないんだけど…。


「影山さん、こちらの方は?」


「ここの常連の下根さんだよ」


「そうでしたか」


「そっちの2人(満里奈・恋)はここでバイトする気はないのは聴いたが、お前さんはどうかの?」


あたしが昨日千夏さん達にそう伝えたんだけど、誰かが話したみたい。


「わたくしですか…? 考えてませんわね」


「そうか。お前さんのを期待しちゃうの~」


「男湯のおもてなし?」


あたしは下根さんの手を引き、委員長達と距離を置く。


「委員長はそういうのを知らずに来てるから、余計な事言わないで!」


「わかったわかった」


思ったより話がすぐまとまったので、急いで戻る。


「影山さん、急にどうしたんですの?」


「何でもないよ!」


「わしも歳じゃからな。うっかり口が滑ったんじゃ」


「はぁ…」


「わしは帰るからの。またな~」


ふぅ、厄介な人がいなくなって一安心。受付にいる千春さんがこっち見てるし、急いで向かおう。



 「こんにちは♪」


受付に着き、笑顔の千春さんがあたし達に挨拶する。


「こんにちは~」

あたしに続き、みんなも挨拶を交わす。


「……」


何故か委員長が千春さんを見つめている。


「委員長どうかした?」


「キレイな肌・艶のある髪・美しいスタイル…。どういう化粧品とか食事を取り入れていますの?」


そういう理由か。気持ちはよくわかるよ。


「う~ん…、特別な事は何もしてないわね~」


「とてもそうは思えませんが…。あの、よろしければ名前を教えていただけますか?」


「私は“千春”っていうの♪ よろしくね♪」


「わたくし、のようになりたいですわ!」


「様って…。できれば気軽に呼んで欲しいんだけど…」


「気軽なんてとんでもない! 千春様は普通じゃないんですから、気軽に呼ぶなんて失礼に当たります!」


「私、普通じゃないの…?」


「委員長、言葉を選んで! 千春さん落ち込んでるじゃん!」


「だって…」


「…そうかもしれないわね」


千春さんが独り言をつぶやく。今のはどういう意味?


「あの、わたくしなんて言ったらいいか…」


「気にしないで♪ 初めて言われた事だからビックリしちゃったの♪」


早くもいつも通りに戻っている。凄いな~。


「この子も紗香ちゃんの友達かしら?」


「そういえばまだ自己紹介してなかったですわ。わたくし“水鏡 鏡花”と申します」

委員長は千春さんに頭を下げる。


「ご丁寧にありがとう♪」


キリが良いし、本題に入ろうかな。


「千春さん。委員長の家の給湯器が壊れたから、今日のお風呂に困ってるの。昨日みたいに見学してもらって良いよね?」


「もちろん♪ 荷物はスタッフルームに置いておけば安心よ♪」


「千春さんの後ろに扉があるでしょ? あそこがスタッフルーム」


満里奈ちゃん・恋ちゃんはわかってるから、委員長に向けての説明だ。


「なるほど…」



 千春さんの許可をもらったので、あたし4人はスタッフルームに入る。昨日は千夏さんと玲さんがHしてたけど、今日はしてませんように!


あたしは心の中で祈りながら、扉のノブを回す…。

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