第8話 困ったお姉ちゃんだよ…

 銭湯『千夏と千春』を出たあたし・満里奈ちゃん・恋ちゃんの3人は駅に向かう。3人とも電車通学だから、途中まで一緒に帰れる。


…ホームで待っている時、満里奈ちゃんが声をかけてきた。どうしたんだろう?


「あの時聴いた話で、気になる事があるんだ」


千夏さんに銭湯の名前の由来を聴いた時かな?(3話参照)


「気になる事? 大体答えられると思うから、遠慮なく訊いてよ」


「それじゃ遠慮なく。…結局、伯母さんの婚活はどうなったの?」


「うまくいったって。“倉式隼人くらしきはやと”って若い人と結婚したらしいよ」


「若い?」


「うん。その人が大学1年の時に出会って、新卒で働き出した時に再婚したみたい。再婚してからは、伯母さんは銭湯にまったく関わってないって」


「…ちょっと待って。千春さんのお姉さんでしょ? 歳の差ヤバくない?」


「冗談抜きで親子ぐらいの差はあったはず」


「マジか…。その人すごくイケメンなのかな?」


「さぁ? あたしは聴いただけで、会った事ないから」


「ふ~ん。それともう1つ。あの旦那さんの事なんだけど…」


「玲さんがどうかした?」


「あの人と千夏さんが出会ったきっかけって何? 性格合わなそうだけど?」


「確か…、高1の時に千夏さんがクラスメートの玲さんをスカウトしたのがきっかけだよ」


「スカウト?」


「千夏さんだけじゃなくて、千春さんの目にも止まったみたい。スカウトされてしばらくは、あたしと同じことやってたらしいよ」


「紗香と同じとなると、あの人女湯に入った事あるの?」


「あるって。と言っても、銭湯の方針は今も昔も変わらないから問題ないけどね」


問題どころかチヤホヤされたと聴いている。どこまで本当なんだろう…?



 会話のキリが付いた時に電車が来たので、あたし達は乗り込む。それから、満里奈ちゃんと恋ちゃんが同じ駅で降りるのを見届けた後、家の最寄り駅で降りる。


降りてから家に着くまで、更衣室で味わった気持ち良さを思い出すあたしだった。



 「ただいま~」


家に帰ってすぐ、お昼で使った弁当箱をキッチンに持って行く。…お母さんは夕食を作っている最中みたい。


「おかえり。あと30分ぐらいでできるからね」


「わかった~」


玄関にお姉ちゃんの靴があったし、3人で食べる事になりそうだ。


あたしとお姉ちゃんは同部屋なんだけど、大学2年と高1になってもそれは変わらない。幸いにも広さは2部屋分あるから狭くはないね。


照と光さんの部屋にお邪魔した事で、あたし達の部屋の広さを知った感じだ。当たり前が当たり前じゃなかった瞬間だよ。


広さに文句はなくても、カーテンがないからプライバシーは一切ない。だからタイミングによっては…。


あたしが部屋の扉を少し開けた途端、お姉ちゃんの声が嫌らしい声が聞こえてきた。


「照さん、もっとわたしを気持ち良くして下さい♡」


このように、自慰の現場に遭遇する訳で…。お姉ちゃんに呼ばれた照が家にいない事は、玄関の靴を見れば明らかだ。


あたしはなるべく邪魔しないように、部屋の中に入る。…お姉ちゃんは敷き布団の上で、目をつぶりながらにおもちゃを当てている。


…完全に自分の世界に入ってるね。未だにあたしに気付いてないんだから。あたしも自慰はやるけど、物音に気付かないのは集中し過ぎだって。


まったく、困ったお姉ちゃんだよ…。着替えるためにカバンを床に置いたら、お姉ちゃんはビクッとしてこっちを観る。音でやっと気付いたみたいだね。


「紗香、いつからいたの?」


「『照さん、もっとわたしを気持ち良くして下さい♡』から」


「お母さんじゃなくて本当に良かった…」


「ホントだよ! 予定より早く夕食ができたらヤバかったって!」

お母さんが呼びに部屋に来ちゃうし…。


「今度から気を付ける…」



 そういえば、今日お姉ちゃんが銭湯に来たのを千夏さんに聴いたっけ。照と光さんの邪魔してないと良いんだけど…。夕食ができるまでの間に訊いてみよ。

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