第21話 Aランクの戦い②

「ゆけ、私の”豪炎竜”よ!! 妹を犯そうとする汚らわしいヤツを焼き払え!!」


「犯そうとしてんのはお前だろ!? あちちっ!!」


 炎が俺の顔をかすめた。 

 少し触れただけなのに、まるでマグマみたいなの温度を感じる。


 先程までとは火力がケタ違いだ。

 俺は仕方なくセシリーから距離をとることにした。


「”炎竜の咆哮”!!」


「マジかっ!!」


 ゴオオオオオオオオ!!っと、炎竜の口元から炎が吐き出される。


 威力もスピードも十分。

 喰らえばひとたまりも無い。


「”シャドーワープ”!!」


 俺はすかさず影魔法によるワープで回避した。

 しかし、


「っ!! ここまで炎が!!」


 転移先にも既に炎は届いていた。

 というか、このフィールドのほとんどが炎に包まれている。


「ふはははは!! ”豪炎竜”からは逃げられんぞ!!」


 逃げ道はない。

 こうなれば魔法で無理やり突破口を作るか?


 ……いや、無理だな。


 影魔法ではこの炎を突破するのに無駄な魔力を消費してしまう。

 それでも中盤までは持つだろうけど、純粋な魔力量だけで言えばセシリーの方が多い。


 ヤツは”豪炎竜”だけを使えばいい。

 俺は多種多様な魔法の火力を底上げした上で使わなければならない。


 持久戦になれば、どっちが有利になるか明らかだ。


(どうする?)


 近づいたら燃やされる。

 遠く離れても燃やされる。


 魔法を使い続けても防戦一方になるだけだ。

 できれば隙を見つけて、一気に叩き込みたい所だが……


「ん?」


「ぜぇ……ぜぇ……」


 セシリーが汗をかいている?

 まさかあの炎ってセシリーにも熱が伝わるのか。


 ゲームで熱くなるのは長時間使い続けたゲーム機くらいだったが、現実では術者に影響が及ぶ。


 思えば炎適正に炎が効かないなんて、おかしな話だ。

 炎を使うやつだって人間だ。


 暑さや寒さを感じるに決まってる。


(だが、勝てる可能性は見えた) 


 普通に持久戦では向こうに分がある。

 しかし、セシリーの体力をより多く削る立ち回りなら、チャンスが生まれるかもしれない。


 ”影竜の刃”を抜き、ポケットのアイテムをもう片方の手の中に忍ばせて、再びセシリーに向き直る。


「どうしたセシリーさんよぉ? 熱で干からびそうじゃねえか」


「はっ、こんなのサウナと一緒だ。まだまだぬるい」

 

「だな、しっかしサウナか。お前の妹さんと一度入ってみたいぜ」


「なっ!!」


 よし、俺に反応したな。

 口を動かせば体力も減るし思考も低下する。


 後は怒りに身を任せて火力を上げてくれれば……


「貴様と妹がサウナで交わるだとぉ!? ふざけるなあああああああ!!」


 なんか、盛られてません?

 作戦通りだからいいけどさ。


「はぁあああああ!!」


「いっ!? 突撃してくんの!?」


 だがセシリー本人が接近してくるのは予想外だった。

 炎を身にまとい、火力の込められた拳を全力で俺に叩きつけようとする。


 怒りでリミッターが外れてるからか、拳のスピードが意外と速かった。


「そぉい!! ”シャドーインパクト”!!」


 その拳に影魔法の衝撃をぶつけダメージを緩和。

 同時に後方へと下がり、”豪炎竜”の射程範囲から離れるように移動する。


「まだまだぁ!!」


 ガァン!! ドォン!! ズドォン!!

 

 ”豪炎竜”とセシリーの猛攻は続く。

 炎が地面をえぐり、焦土を作り、周囲を灼熱の地獄へ変えていく。


「”フレアシュート”!!」


「”シャドーシュート”!!」


 炎と影がぶつかる。

 互いの魔法が激突し、戦場はより激しさを増す。 


「まだまだいけるぞぉ!!」


「俺だってこんなへなちょこ炎でやられねーぞ!!」


「なんだとぉ!!」


 その激しさの中で、室内はどんどん温度を上昇させていく。

 勿論、俺にまでその影響は及んだ。


(あっちぃ……)


 俺まで暑さでやられそう。

 動き回るのは俺もだし、体力を消耗するのは当然の事。


 一瞬の油断も許されない賭け。

 成功率を少しでもあげる為に集中力を切らす事は許されない。


(やべっ……意識がなくなりかけた)


 それでも熱により頭がボーっとしかけている。

 まずいな……一瞬でも意識を失ったら終わりなのに。


(何か……頭が冴える事を……)


 レイとの修行で死にかけた事、

 学園で色んな騒動に会った事、

 

 可愛い子に囲まれて、

 懐かれて、

 また新しい騒動を……


 どうでもいい事まで考えてしまう。

 むしろ意識無くなるって。


 あぁ、ダメだ。

 本当に持っていかれそう。


「終わりだゼクスよ!!」


 炎が俺に迫る。

 

 身体は動かしてるハズ。

 曖昧な表現なのは無意識の行動だったから。


 だから避けられる。

 絶対に避けられる。


 ……本当に?


(一瞬でも……目を)


 一度でいい。

 作戦を考え実行していた俺の思考を。


 一度だけでいいから。


 ヤツに大打撃を与える為に身体を……









『これが私の”可愛いご奉仕”です、ご主人様』


(っ!?)


 その瞬間、失われかけていた意識が現実へと戻っていくのを感じた。


「見えた……?」


「なっ!? この状況で前に!?」


 偶然かは分からない。

 意識が戻った瞬間、セシリーの右わき腹付近に空洞が出来ていた。


 ここだ。

 ここしかない。


 チャンスだとばかりに、俺は勢いよく前へ踏み込む。


「まさか特攻か!! そこまでの火力は持ち合わせていないだろうに!!」


 特攻、ではある。


 しかし、それは攻撃の為じゃない。


 ”この一歩を踏み出す為”の切札だ。


 ポンッ!!


「なんだそれは……?」


 ポケットからボールを取り出し、足元へ落とす。


 スライムボール。


 魔力を注ぐことで、自由自在にボールの大きさを変えられるおもちゃだ。

 

「そんな物で何が!!」


「できるさ」

 

 魔力を注ぎ込みサッカーボールくらいの大きさにする。

 そしてそのボールを……


「”シュート”」


 思いっきり蹴り上げた。


「こんなとこで球遊び、を……っ!?」


 ブゥウウウウウウン!!


 蹴り上げたボールに”豪炎竜”の炎が襲い掛かる。

 しかし、それらは簡単に消し飛ばされ、消滅してしまった。


「ボールで炎が!! そんなインチキがありえるのか!?」


 ボールを警戒したセシリーが自身の手を前に突き出す。

 衝撃波が周囲に巻き起こり、彼女の手の平でボールは回転し続ける。


 しかし、流石は”炎重装”

 防御力では引けを取らない。


「はぁ、はぁ……」 


 ボールの回転力が徐々に弱まっていく。

 セシリー本人のフィジカルは半端じゃない。


 こんなボールを止めることなど簡単だ。


「さて、こっから”盛らせて”もらうぜ」


「っ!?」


 止めるだけなら、な?


「も、もう一度炎を……」


「遅い!!」


 スライムボールが消し飛ばした範囲に”影分身”を展開し、セシリーへ襲い掛かる。

 

 あのシュートで炎は消えた。

 今の彼女を守るのは素の”豪炎竜”と”炎重装”のみ。


 彼女の弱点を守るように展開されていた炎はもう無い。


「”多重・黒影連斬”!!」


「がぁああああああ!!」


 スバババババババッ!!


 首元や関節など、鎧の隙間に影魔法の斬撃が襲い掛かる。

 しかも三人。


 目にも止まらぬ早さで全身を切り裂かれ、そして


「あ……が……」


「終わりだ」


 動けなくなった所に最後の一刺しが加えられた。


『勝者・ゼクス』 


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