第20話 Aランクの戦い①
「逃げずに来た事は褒めてやろう」
「そっちこそ俺に負けないかって、怯えてたんじゃねーの?」
「はん、可愛い妹を前にビビっていられるか」
翌日。
コロシアムにて両者の睨み合いが始まる。
お互いバチバチの状況だが、セシリーが「私が決着を付けるから黙って見ていろ」と場を落ち着かせた事で荒事には至っていない。
当のセシリー本人が俺に対して睨みどころか殺意を向けているが。
「ゼクスくん、遠慮なくボコッていいからね」
「リリィ!?わ、私の事は応援してくれないのか!?」
「がんばれー、ゼクスくーん」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!!貴様だけは絶対にゆるさーん!!」
怒りの炎がさらに燃え上がる。
あーあ、これ本当に勝たないと殺されそうだなぁ。
どっちが勝つかはわからないけど最善は尽くしますよ。
ん?
セシリーの後ろに控えている取り巻きの中に、見た事のある顔がいるような……
「はははは!! わざわざ恥をかきに来たんだなゼクスよ!!」
「げ、ルーク兄さんじゃん」
「今更後悔しても遅いぞ? セシリー様に喧嘩を売った時点で、お前の敗北は決まったも同然だからな!!」
ローエン家の次男にしてBランクである兄、ルークとまさかの再開。
学年もランクも違うから遭遇すらしなかったけど、こんなところにいたのか。
よりにもよってセシリーの派閥に入ったのかよ。
情けないイメージばかり付いてたけど今回ばかりはなぁ。
「兄さんって人を見る目ないね」
「なんだとー!?」
ま、いいや。
セシリーとついでに兄の悔しがる姿を楽しみにしながら、戦わせて貰いますか。
「ご主人様、ファイトです!!」
「マスター、負けるなー」
「ゼクスくん、思いっきりやっちゃって!!」
「おけ、全力でやってくるわ」
仲間に見守られながら俺はカプセルの中に入り、ランクバトルのフィールドへ向かうのだった。
〜〜〜
「悪いがゼクス、貴様の戦い方は既に研究済みだ」
「Cランク相手でも手を抜かない勉強っぷり、流石っすねー」
互いの剣を抜き、試合開始のアナウンスが流れるまで待機する。
戦いは既に始まっている。
頭の中に思い描く最高の戦術を、GO!!の合図が流れた瞬間に叩き込む。
緊迫した空気がフィールド内を支配していた。
『試合を開始します。3、2、1……』
「余裕があるのは良いこと。だがAランクという強大な壁の前で同じようにいられるかな?」
「じゃないとSにもSSにもなれないですよ。Aランクでつまづく予定はない!!」
俺の目標は更なる上に存在する。
Aランクはあくまで通過点でしかない。
SやSSには更なる精鋭達が待ち構えている。
いずれは俺もそのレベルになりたい。
だからこそ、今日の戦いで俺は色んな事を学ぶ。
そして勝ってみせる。
『GO!!』
「「はああああああああ!!」」
戦いの合図が下ろされたと同時に、お互いに踏み込んで前へと全速力でかけていく。
「っ!!思っていたより早い!!」
「流石に”炎重装”よりは早いですよ!!はぁ!!」
スピードでは俺が上回った。
魔力を込めた剣を突き出し、未だ足を動かすセシリーの首元へ迫る。
ガキィン!!
「ふははは!! そんな剣では傷一つ付けられん!!」
しかし、剣は炎によって止められてしまう。
”炎重装”
炎の鎧がセシリーの身体を守り、生半可な攻撃を全て無効化してしまう。
しかも炎は生きている。
攻撃を防いだ後、ムチのように動く炎達が俺目掛けて一斉に襲い掛かった。
「くっ!!思ったよりすばしっこい!!」
「私の炎はそれなりに早くてな、カウンターの成功率も比較的高いのだが……初見でかわしたのはお前が初めてだよ」
鉄壁の防御に素早いカウンター。
オマケにセシリーの持つ大剣が、動きの鈍る瞬間をひたすら待ち続けている。
セシリーの戦い方はメイと似ている。
カウンター主体で速さを捨て、一撃の破壊力に特化した戦闘スタイルだ。
しかし、セシリーの場合は自身の遅さを”炎重装”の炎で補っている。
足の遅さが弱点なのに、その弱点を実質無いに等しいレベルまで持ち上げており、戦っていて厄介さを嫌でも思い知らされた。
思った以上にやるな……だが、何も対策してない訳じゃない。
そもそも”炎重装”もスクスロで何度も戦った相手だからな!!
「”黒影連斬”!!」
「っ!!」
まずは鎧の周りで暴れる炎から。
確かに自動カウンター&この素早さは非常に厄介だ。
しかし、炎一つ一つの耐久力はそこまでない。
いくら素早いと言っても俺の速度には劣るし、それなりの火力で連続攻撃すれば炎自体は簡単に消せる。
影魔法の連続斬りが”炎重装”の炎を次々と消し去り、防御網に大きく穴が開き始める。
鎧の全貌も、この瞬間に把握する事が出来た。
「”シャドースラッシュ”!!」
確かに鎧は固い。
だけど全てをガードできるわけじゃない。
隅から隅まで鎧で覆ってしまえば、体が動かせなくなる。
だから部分的に装甲を削らなければならない。
例えば……関節とか。
ズバァ!!
「ぐぅ!!」
肩と腕の間に刃を差し込む。
隙間から与えられた斬撃に悲痛な表情を浮かべるセシリー。
勝てる。
そう確信した瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた。
「たった一度の攻撃で、よくも慢心していられるな」
「何?」
「本番はここからだぞ、ゼクス」
ゴォオオオオオオ!!
巨大な魔法陣が展開され、周囲に炎が集まり始める。
(まさか”アレ”を?)
”炎重装”のとっておきの技が一つある。
しかし、あれは高難易度かつ高燃費。
気軽に使えるものではないのに……
「それほど覚悟を決めたって事か」
「その通り。ここからがAランクの本番だ」
炎の量は増え、
次第に何かを形作り、
やがて生き物のように動き始める。
「”豪炎竜”だ……貴様に倒せるかな?」
巨大な炎のドラゴンが周囲に熱と炎を振りまき、敵である俺を威圧する。
炎の一部はセシリーの元に取り憑き、鎧の隙間という隙間を埋めていく。
先程までの小細工は通用しない。
完全な防御網が完成した瞬間だった。
「いいねぇ……」
そんな脅威を前にしても、俺は恐怖ではなく喜びをあらわにしてしまう。
今まで以上にスケールの大きい戦い。
そして最強クラスの魔法。
やっぱAランクは格が違う。
ランクバトルらしくなってきた、と自らの手に持つ”影竜の刃”を強く握りしめた。
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