第19話 変わりゆく状況

「リリィも姉には犯されたくないよな」


「犯されるのはいいけど、初めてがお姉ちゃんなのはなんかヤダ」


「……お前ってほんと寛容だよな」


「あれでも私の事を大切にしてくれるし優しいお姉ちゃんだよ……やたら構おうとしてくるけど」


 心の底から嫌い、ではなく単純にウザいだけか。

 二年で派閥を作り、取り巻きを従える辺り、皇女としての格やオーラはあるのだろう。


「セシリー様はAランクです。今まで以上の強敵ですね……」


「そ、だから対策しねぇとな」


 そしてセシリーはAランク。

 リリィ以上の強敵だ。


 仕掛けてくる魔法も武器の固有スキルも未知数。

 Bランクと違ってAランクはさすがに何かしらの対策はしたいんだが…… 

 

「マスター、セシリー様の情報ゲットしたよ」


「マジで!? ナイスだライム!!」


「んぅ」     


 むにむにと頭を撫でると嬉しそうにぷるぷる震え出すライム。

 このタイミングでセシリーの情報が手に入るのは大きい。


 やっぱライムを仲間にしてよかったわぁ。 


「セシリー様は炎属性、武器の固有スキルは……”炎重装”だって」


「”炎重装”か……まーた面倒臭い固有スキルを」


「えと、その固有スキルってそんなに強いのですか?」 


「あぁ、炎の鎧を身に纏う上に防御力もかなりある。俺の魔法で突破できるかどうかも怪しいな」


 ”炎重装”は炎の鎧を身に纏うだけのスキル。


 しかし防御力は凄まじく、生半可な攻撃なら無効化してしまう上、直接触れた相手に火傷ダメージも負わせる。


 おまけにダメージを喰らえば、喰らうほど鎧の炎が燃え上がり、それらがダメージとして加算されるという……

 

「直接攻撃は封じられも同然だな、遠距離魔法はそこまで覚えてないし」


「分身にずっと突撃させるとかは?」


「無理だな。”影分身”はクールダウンが長いんだよ」


「それはダメですね……」


 確か一回消滅すると再発動に四~五十秒はかかるんだっけな。

 ”影分身”の突撃戦法もできないし、遠距離魔法を不足している。


 ということは、別の手段で鎧に対処しなければいけないから……


「そういえばリリィのアイテムってどんなのがあるんだ?」


「え、気になっちゃうー? と言ってもおもちゃしかないけどね~」


 そう言いながらリリィは自室に戻って自作アイテムを色々とかき集めてくれた。


 綺麗になったよなぁ、あの部屋。

 メイのおかげで見違えるほどに整理整頓され、前みたいなアイテムがなだれ込んでくる事はもう無い。


 さて、アイテムを色々見てみましょうかね。


「これは?」


「この棒はねー魔力を込めると先端に雷魔法が流れるの。自衛にはぴったり!!」


「その隣にあるのは?」


「高威力の水鉄砲!! と、言っても木片くらいしか破壊できないけど」


「結構便利そうなアイテム作るじゃん、すげぇ」


「えへへ~」


 おもちゃ、とは言っていたが大体が実用性のありそうなものばかりだ。

 ガラクタみたいな物も一部あったが、趣味だしこんなものだろう。


 やべぇ、見てるだけで超楽しい。


「リリィ様、このピンクの棒は何ですか?」


「なんだろー? 魔力を入れると振動するー」


 メイやライムも色々漁っているみたいだ。

 楽しそうで何より……ん?


「それはー……あ!?」


「どうした……っ!?」

  

 ピンク色で先端がブブブ……と振動する棒状のアイテム。

 まさかあれって、アダルト系のヤツじゃ!?


「……し、下の穴にいれると気持ちいいんだよ」


「下の……へ!? まさかこれって!?」


「言うな言うな!! なんでお前は馬鹿正直に喋るんだよ!!」


「だって嘘つくの苦手だし……」


 やっぱり大人のおもちゃじゃねえか!!

 趣味とは言ってたけど、そういうのも趣味で作るんだな……

 

「その、メイちゃんも使ってみる?」


「え!? た、確かに後ろは気持ちいいですが……ううぅ」


「マスター、メイってエッチだねー」


「……何も聞いてないぞ」


 聞いてはいけないだろう性癖話をシャットアウトし、俺はアイテム探しに集中する。

 

 うーん、便利そうなのは多いがセシリーの対策になるかと言われたらイマイチかな。


 もう少しトリッキーというか、自由な使い方ができるアイテムは……ん?


「リリィ、これは?」


「あっ、スライムボールだー!! 魔力を込めると大きさが自由に変わって楽しいよ!!」


「へぇ……スライムボールか」


 握った形に変形する柔らかいボール。

 前世で言うところのゴムボールみたいな物か?


 丈夫そうだし魔力を込めれば大きくなるも面白い……


「なぁ、これって少し改良できないか?」


「ん? 少しならパパッとできるけど、どうしたの?」


「明日はこれを使う」


「「え!?」」


 このアイテムが戦いの切り札になりそうな気がする。

 待ってろよ、お姫様。


 明日は俺が必ず勝つ!!


~~~


「跳ねる角度、貫通力、アイテムとしては最高だが……後は俺自身の戦術と上手く組み合わせるかだな」


 調整の終わったスライムボールを手に持ち、明日の戦い方を考える。


 戦い方も分かる。

 鍛えてもいる。

 

 後は全力を出してぶつかるだけ。

 ただ、流石に入学して間もない頃にAランクと戦うとは想定しておらず、流石の俺も緊張していた。


「ご主人様、お疲れ様です」


「メイか。いつもありがとうな」


「いえいえ、メイドとして当然ですから」


 近くに置かれた紅茶を手に取り、一息つく。 

 ハーブティーか……夜にピッタリだ。


 飲みやすいし心が落ち着く。


「ご主人様は凄いですね。Aランクでアタナシア第一皇女のセシリー様を前にして、恐れもしないなんて」 


「これでも少し緊張してるよ。やって行く内に落ち着くだろうから、あんま心配してないけど」


「……そうですか」

  

 しかし、だ。

 流石にこのタイミングでAランクと戦うことは想定していなかった。


 敗戦濃厚ってワケではないが、流石にイレギュラーは起きるだろう……


「僕はもっと、ご主人様のお力になりたいです」


「メイは十分俺のために頑張ってるよ。こーいう気遣いとかホッとできるし」 


「それでも僕はご主人様から貰ったものを返しきれていません。力だけでなく、自信も与えてくださったのに……」


「別に見返りなんて求めてないからいいって」


 暗いメイの目を真っ直ぐ見つめる。


「俺としてはいつも優しくて可愛いメイがいてくれる。それだけで十分だ」


「っ……」


 顔を赤らめてすぐ顔をそらされてしまった。

 

 俺にとってメイは大事なメイドであり仲間だ。

 入学間もない俺に優しくしてくれたし、影から色々と支えてくれた。


 もうメイのいない生活なんて考えられないし、メイがいなくなった途端、生活のバランスも大きく崩れそうな気がする。


 特にご飯はメイの料理が定期的に食べないと満足できない。

 それくらい、俺はメイに依存していた。


「可愛い、ですか」 


「あぁ」


「……分かりました」


「?」


 何を分かったのだろうか?

 メイは深呼吸をした後、俺に少しづつ顔を寄せ近づいてくる。


「僕の……いいえ、”私”の可愛いをご主人様に」


 そして……


「っ!?」


「これが私の”可愛いご奉仕”です、ご主人様」


 メイの柔らかい唇が俺の頬に触れた。


「き、今日はこの辺で失礼します。できるだけ早く寝てくださいね」


「あ、あぁ」


 顔を真っ赤にさせながらメイは足早に去っていく。


 残されたのは右頬の感触とうるさく鳴り続ける心臓の音をダイレクトに味わう俺のみだ。


「……返事、ちゃんと考えないと」


 戦いの後にもう一度覚悟を決めなくては。

 戦術と返事の両方を考えながら、僅かな夜を過ごした。

 

 ◇◇◇


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