第14話 ようこそダンジョンへ

「着いたぞ」


「こ、ここは……」


 先生に案内された場所は、コロシアムや訓練場より少し離れた所にあった。

 ”ダンジョン入り口”って看板があるけど、まさか。


「学園がダンジョンを保有してるんですか?」


「その通り。フリオニール学園はそもそもダンジョンがある場所に開校されたからな」


「世界で唯一ダンジョンを保有する学園とは聞いたことがありましたが、どうやって管理を……」


「管理に関しては先生や生徒会から一部の人間を借りて行っておる。仮に問題が起きても、この学園の人間は皆強いから問題ない」


 それから、マヤ先生からダンジョンについて色々説明を受けた。


 ダンジョンはランクバトルと違って、実際の肉体を使用すること。

 難易度が初級、中級、上級、超級の四つに分かれていること。

 過剰な破壊行為などを行わなければダンジョンは自由に使ってもいいとの事。


 ただし、何が起きても自己責任という扱いになり、俺たちも誓約書を書かされた。

 実際の肉体を使う以上、死のリスクは避けられないか……

 

 ダンジョンは主に授業か個人のお金稼ぎとして利用される。

 学園内の施設ではあるがダンジョン内で得た素材などは自由に利用でき、学園内で売却するか道具屋に行って武器を新調してもらうことが多いらしい。

 

 中でも上級以上になるレア素材のドロップ率が高くなり、一部は学園の目玉商品として他国と取引されるのだとか。


「で? ダンジョンに入る目的は?」


「臨機応変な対応力と純粋な戦闘能力の底上げじゃ」


 だろうな。


 モンスターは本能で動くから、人間ではありえない行動を取ることがある。

 つまりイレギュラーが発生しやすい環境ってこと。


 そこでの戦闘を重ねれば、ランクバトルという多くの人間と戦う環境でも対処しやすくなるだろう。 


「へー、なんだか楽しそう!!」


「ピクニックじゃねえんだぞ?」


「アタナシア王国の領地にはヤバいモンスターがいっぱいいたもん。アタシもお姉ちゃんもよく討伐に参加してたし」


「はえー」


 どうりでランクバトルや授業で機敏に動き回れたワケだ。

 訓練だけにしては妙に動きの柔軟性があったから、モンスターとの戦いで得た実力って事か。


「ゼクスくんは?」


「あぁ、レイにモンスタートラップがある場所に何度も叩き落とされて……」


「「え」」


 だよね、そういう反応するよね。

  

「よくご無事でしたね……」


「まぁ、何度も死にかけたけどさ。おかげで状況判断とサバイバル能力はあがったよ」


「相変わらずクレイジーじゃな、あの脳筋め」


 死にかけたら助けてあげますよ、とか言って何もしなかったからな。

 前世で同じことをされたらパワハラで訴えてたと思う。 


「そうだ先生、今回俺たちが潜る難易度は?」


「そうじゃなぁ……本来ならば中級、といきたいところじゃが」


「じゃが?」


「わらわも同伴するし、上級でも大丈夫じゃろう」


「わーお」


 いきなり上級か。

 

 モンスターと戦ったことがあるとはいえ、俺の戦いはあくまで対人特化。

 モンスター相手だと全然違う。

 

 どこまで通用するかな?


「今回の目的は修行、そこでお主らに制限を設ける」


「制限? これはやっちゃダメだよーってこと?」


「その通り。まずはリリィじゃが、光の弓の仕様を禁止する」


「えっ」


 リリィが珍しく顔を青くしている。


 今まで”光の弓”に頼った戦い方をしてたんだろう。

 

 光の弓は光属性の中でも汎用性が高く強力な魔法。

 それを制限されるのは流石に動揺するか。


「メイは攻撃の全ての禁止じゃ。防御に集中しろ」


「えっ!? ぼ、僕も制限ありなんですね……」


「心配せんでもお主の実力はそれなりに高い。わらわ達もおるし、よっぽどの事がない限り死にはせん」


「は、はぁ」


 入学早々とんでもないことに巻き込んですまん。

 

 ただメイは自分が思っている以上に戦えるハズだし、この機会にもう少し自信を付けてほしい。

 今回の縛り内容も攻撃を封じられただけで、メイが得意とする防御は無制限で使えるしね。


「あぁそうじゃ。いつまでも安い盾というのもあれじゃし、これをやろう」


「えっ!? あ、ありがとうございます」


「ん? あれってまさか”ミラージュシールド”?」


「ほぉ、なかなか市場に出回らんのによく知っておったな」


 盾なのに鏡のように相手の姿を映し出す。

 あの形は前世で見たことがあるから間違いない。


 というかよく見かけていた。


「盾の中だったら最上位レベルじゃないですか……んなもんホイホイ渡していいのかよ」


「わらわは使わんし構わんよ、未来ある若者が使う方が武器も喜ぶ」


 そんな軽く手渡せるような武器じゃないと思うんだけど。


 ”ミラージュシールド”は前世ならのランクバトルでも環境レベルだった盾だ。

 最大の特徴は固有スキルの【属性変化】というもので、これは魔法攻撃を盾で受け止めた際、その魔法の属性を盾が得るというもの。

 

 つまり、この盾を持つ者は実質二属性を操ることが出来る。

 この世界ではもう一つの属性を得る方法が武器の固有スキルしかなく、”ミラージュシールド”はその中の一つだが……とんでもねぇぶっ壊れ武器を持ってんな。


「で、ゼクスじゃが……分身の攻撃、影によるテレポートの禁止」


「うぉっ、結構重いなぁ」


 分身の攻撃だけだから分身自体は出せるけど、攻撃が本体だけっていうのはなぁ。


 確定急所とはいえ影魔法はそもそもの威力が低いから、連続攻撃で火力不足をどうにか補っていたんだけど、火力の支えとなっていた分身を封じられるっていうのはかなりのパワーダウンだ。 

 

 おまけに”シャドーテレポート”まで封じられたから甘い立ち回りは許されない。


「それと……これじゃ」


「ぐぉ!?」


 急に身体全体が重くなる。

 

 指先一つ動かすのにも普段の倍以上の力が必要で上手く動かせない。

 まさかこれって……


「マヤ先生、まさか重力魔法をかけてます?」


「その通り。基準をレイに合わせないと軽々こなされそうじゃからなぁ」


「そんなサービスいりませんよ!? うおぉ、レイの時よりやべぇ……」


 なんか俺だけ鬼畜じゃね!?

 せっかくあの地獄の修行生活から解放されたと思ったのに!!


「ご主人様、大丈夫ですか? 流石にこれは……」


「や、やってやるよ……これくらいなんて事ない……」


 だけどランクに勝つためだ。

 ダンジョンでの過酷な環境もためになると思えば頑張れる。 


 後、逆らったらマヤ先生に殺されそうだし……


「ま、ダンジョン内には色んな武器やアイテムもドロップする。それで強化するのもよいじゃろう」


「アイテムの素材!? めっちゃ楽しみ!!」


「が、頑張りますっ」


「えっ、俺無視されてる?」


「さーて、早速入るとするかの。わらわは後ろで見守っておるから頑張ってみい」


「「はーい」」


 モンスターと戦ったことはあるが、ダンジョンに潜るのは初めて。

 だけど妙にワクワクしている。


 ダンジョンに憧れを持つ辺り、俺も現代の若者だなぁ。


 

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