第13話 ご褒美

「ゼクスくん!! フレアランスを複数展開する効率的な方法なんだけど……」


「ゼクス!! 俺はお前を舐めすぎていた、本当にすまない!!」


「……あぁ」


 どうしてこうなった。


 イカサマ野郎だと恨みを買い、マヤ先生には残業の恨みだと生徒全員と相手をさせられ勝ち残った結果がこれだ。


 疑惑の目が尊敬の眼差しへと変わり、俺は授業後もクラスメイト達から質問攻めにあっていた。

 

「そこまでです。ご主人様が困っていますよ?」


「ねぇねぇ!! 早くご飯食べようよー!!」


「いでででで!! 分かったから引っ張るな!!」


 クラスメイトの波に飲まれた俺を、メイとリリィに救出される。

 た、助かった……


「クソッ、なんであいつだけ美少女が二人も」


「羨ましい……羨ましい!!」


 あれ? 

 もしかして別の恨みが生まれてますか?


 面倒くさそうな予感がするけど、今は放置しておこう……


「やっと来たかゼクスよ、わらわ腹ペコで仕方ないんじゃ」


「え、もう奢ってくれるんですか」


「当たり前じゃ、というか何日も先延ばししてたらこっちが忘れるわ。いくぞ!!」


「あだだだだだだだ!! 首はやめてください首は!!」


 首根っこを引っ張られながら食堂へと向かう俺達四人。


 耳と首が引きちぎれそう……っていうかもう人混みから抜けたんだから離しても良いのでは?

 って言っても無駄か……


〜〜〜


「しっかしお主の実力は凄まじいのう。少なくとも一年の中では上位レベルの強さはある」


「ウチの執事と修行したおかげですよ。まぁ、何度か死にかけましたが」


「執事? そやつじゃが、茶髪で目が緑だったりせんか?」


「え? あぁ、そういえばそんな感じだったような」


「ほーう……そういう事か」


 相変わらずじゃのう、と小言を呟きながらラーメンをすするマヤ先生。


「まさかレイについて何か知ってるんですか?」


「よーく知っておるよ……いや、ヤツの為ならもう忘れてしまった方がよいか。すまん、今のはナシ!!」


「は、はぁ」


 知り合いか教え子だったのだろうか?

 レイ本人に聞いても誤魔化されるだけだったし。

 

 謎しかないけど……ま、いっか。


「うっめぇ」


「ご主人様、口元が汚れてますよ」


「え? あぁ、すまない」


 ちなみに今回、マヤ先生がオススメしてくれたのは食堂のラーメン。

 異世界でもラーメンってあるんだなぁと感動したが、これが結構美味しかった。


 勿論デザートのシャーベットもある。


「アタシももっと強くなりたいなぁ。どうせならAとかSとかいきたい!!」


「ぼ、僕も頑張りたいですっ」


「リリィもメイも素の実力は高いし、Aランクなら全然目指せると思うぞ?」


「ほんと!? じゃあ頑張ろ!!」


「そ、そうなんですか?」


 二人とも昨日の戦いで学んだ事や反省点をしっかり活かせていたし、このまま戦いを繰り返せば確実に成長する。


 正直、油断していたら俺の方が置いていかれそうだし、頑張らないとな。

 

「でもゼクスくんの分身は流石に対処できないよー。どうなってんのあれ?」


「あぁ、あれはこの武器の固有スキルで、召喚した影分身を俺の思うがままに操作できるんだ」


「思うがままに?」


「操作?」


 俺の発言に二人が?を浮かべる。


「俺の武器や魔法も全部使用可能。ただ一回でも攻撃を喰らったら消えちまうけどな」


「思うがままって事はさ、ゼクスくんは自分も動きながら分身も操作してたってこと?」


「そうだけど何か問題でも?」


 ぽかーんと二人が口を開けたまま静止する。


「戦闘中に分身の操作するなんて……」


「ご主人様ってやっぱり規格外ですね……」


 そんなに驚く事か?


 まぁ最初の頃は上手くできないわ頭は痛くなるわで散々だったけど。


 流石にゲームだと簡単な操作と戦闘AIで操作できたけど、現実だとそれらを全て自分が制御しないといけないからなぁ。 


「影魔法は対人戦闘に向かないという認識じゃったが……どんな魔法にも可能性はあるんじゃなぁ」


「ただ聞いた感じ、使いこなすのは難しそう~」


「逆に言えば使いこなせれば最強クラスなんだよ、使いこなせれば」


 影魔法は実戦でのアドリブ力が問われる適正だ。

 

 火力も耐久もそこまでだし、スピードも最速の風魔法には負ける。

 その分、補助魔法が豊富なので、それらを状況に合わせて使いこなす事が大事だ。


 確かゲーム内での最終評価は


 ”強いけど使用難易度の高い地雷適性”


 だったハズ。


「もし戦術などで困ったらわらわの元に来るが良い。二人もな」


「「「ありがとうございます」」」


「しっかし入学直後から二人もたぶらかすとは。期待のルーキーは抜け目がないのう?」


「い、いやー……これは偶然というか何と言うか」


 あ、マズイなこの空気。

 いじられる雰囲気を察して水でも取りに行こうと思ったのだが……二人に肩を抑えられる。


「ご主人様は人たらしなんですよねー。僕の事を笑わず優しく受け入れてくれましたし」


「分かる!! アタシも結構好き放題してるのに、何だかんだ受け入れてくれるもん!!」


「ほうほう……」


 うーん、恥ずかしい。

 俺としてはごく普通の対応をしてるだけであって、特別何かをしたワケでは無い。


 ここまで過剰に持ち上げられる理由が分からない。


「後、ご主人様は結構エッチなのも可愛いなぁと」


「ぶっ」


 なーんて考えていると突然爆弾が投下された。


「待て待て!! それ以上はよせ!!」


「胸とか太ももとかチラッて見てくるよねー……ちょっと恥ずかしいけど」


「言葉にはしないですけど、僕がスカートを履いてる時、ロングよりミニの方が若干嬉しそうなんですよね」


「ほうほう!! 面白いスクープじゃのうこれは」


「あぁ、もう殺してくれよぉ……」


 頼りがいのあるマヤ先生が相手だからだろうか。

 二人は俺を気にせず恥ずかしい話を楽しそうに暴露していく。

 

 本能なんだからしょうがないだろ!! と、反論したかったがそれはそれで何か言われる。


 こうなったら最後、大人しく見守るしかないのだ……


「そうじゃ、お主らにピッタリな施設があった。昼飯が終わったらついてこい」


「え? は、はい」


 楽しい施設じゃよ、と不敵に笑うマヤ先生。

 いやーな予感がするが、もう何が来てもいいや。


 半分諦めモードに入りつつ、俺はデザートのシャーベットに手を付けるのだった。

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